【懺悔】初対面の人からの無償の厚意にビビりし者【マナーって難しい!】

愚か。
愚かと言わざるを得ない。


最近自らに課しているタスクとして、社会人交流会に参加してきたのだが、事件はここで起こった。

私の案内された卓で隣の席の方に、終わり際、アメニティのようなものを貰ったのだった。そこまでは良い。
配布できるアメニティが2つしかなかったようで、円座の中で渡されたのがその人の前に座っていた参加者と隣にいた私だけだったのだ。

いや、お気持ちはありがたいし嬉しいんすけど、人数分無いんだったらいっそこの中の誰にも渡さないでくださいよ…(心の声)

私の感覚がずれているのかも知れないが、知らない人から貰って怖くないものってせいぜい名刺かポケットティッシュくらいのものではないだろうか。尤もそのポケットティッシュですら私は避けて通ってしまうが。
しかし、アメニティ。
その人がどのような動機でそれを渡してきたのかが見えなくて正直なところ──大変恐縮ながら有り体に申し上げると──、ぶっちゃけ当惑した。まあ、大して深い意味は無かったのかもしれないが。それでも、気ぃ遣うよ。その卓にいた7人のうち、私ともう一人を除く4人という多数派は何も貰えてないんだもん。

その施しが善意だとしても、全く関係の築けていない会ったばかりの他者から数に限りのある無償の善意を受け取るの意図が分からないやら申し訳ないやらでなんとなく負担に感じるし、悪意だったとしたらなおのこと受け取りたくない。その手札、どちらのカードもジョーカーだ。
だが、受け取らなかったら受け取らなかったで私は人の善意を踏みにじる最低ゴミカスクソ野郎として相手の気分を恐らく害してしまう。こちらとて初対面の人に無礼を働くのは本意ではない。まあ、実際人の厚意を疑ってありがたく受け取らない時点で自分本位で無礼なゴミカスであることは疑いようもないのだが。
まずありえないことだろうが、もし万が一そのアメニティに利子が発生しており、そのままその人と会うことなく何も返せず10~20年経った後、黒スーツサングラスの人間が膨らんだ利子の分、内臓や資産や年端も行かぬ我が子を取り立てに来たらもう泣くしかない。いや流石にそれは杞憂が過ぎるだろ。

そして、ここからの私の対応が最悪だった。
以上の葛藤から心情的にすぐ鞄にしまってしまう事が出来ず、取り敢えず机の上に置いておき、様子見に徹したのだ。勿論頂いたものを机に出しっぱなしにしていまうという罪悪感はあった。だが、それ以上に私は「他者との物質的なやり取りがない」という安定した状態を求めて保身に走ってしまった。そして頃を見て「本当頂いてしまっていいんですかー?わーすいません本当ありがとうございますー」と言って、そのタイミングではじめて鞄に入れようと思っていた。腰抜けめ。愚か。愚かの極み。
それが本当に悪手だった。

机の前で声を発するタイミングを伺っていたとき、他の参加者がそのアメニティに気付いてしまったのだ。
「あ」と思った瞬間には全てが手遅れだった。




「あの!これどなたかお忘れじゃないですか!!」




ああ!やめて!やめて!

正義の人は美しい声を持っている。今の私にとってその会場の隅々までよく通る良い声にアナウンサーのように明瞭な発音は劇物だ。
もうこれ以上逃げられない。このアメニティを受け取ったのはこの場に2人しかいないのだ。腹を括って、潔くその断頭台に登ろう。
この全員の注目が一点に集中し、限界まで引いた弓のように張りつめた緊張感の中、他でもない、私が、今、ここで。挙手、しなくては…


「あの!これ!ここに置いてあったんですけど!」
「(ほぼ吐息のような無意味な声音と身体の前で頼りなく揺れる挙手ともつかない自信無さげな手刀)」
「誰のですかね!?ここにありました!!」
「ッ…ァ……ッ…」
「これー!どなたか知りませんかー!?」
「ァ…ッ、ぁ…s、ssス(みません)…ス、ス(みません)…ス(みません)…ぁ…ァゥ…」




ワシゃ、ちいかわかい!!!!!!!



ちいかわが言葉を話さずともかわいいのはかの生き物がちいさくてかわいいからだ。
じゃあ、対して小さくも可愛くもなく、外見からある程度の人生経験の蓄積が期待される大の人間が「ワ…ワ…」と震えていたら?


ある種のホラー映像だよ!!!!!!!!!!



結局なんやかんやその場で受け取ってしまったが、これを渡してくれた隣の席の人の顔は解散までついぞ見れなかった。
犯罪って、必ずしも加害性や嗜虐性から生まれるものではないのかもしれません。今回のケースのように、中には、保身と不信・不安が生んだ、卑屈でか弱い罪もあるのでしょう。これは本当に悲しい事件だった。こんな事件を起こしてはいけなかった。

とにかく私は取り返しのつかないことをした。
神父様、私は赦されざる人間です。
天の国はきっと、私の罪深く醜悪な魂を迎え入れないだろう。
読者諸君、どうぞこの愚かな筆者を存分に嘲り、お笑いなさいな。そしてこの消えない十字架を背にして、もうしばらく人里には降りないようにしよう…

そして、どうか皆様は人の厚意をありがたく受け取れる真っ当な人間として生きてください…


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