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Authenticity(本物らしさ)とは何か?

動画のクオリティって何だろう?

企業の動画制作や動画マーケティングの支援をしていると、必ず問題になるのが「クオリティ」です。

「会社の名前で世の中に出す以上、クオリティが高くないとね」
「あのCMみたいなクオリティ感、出せますか?」

私は動画を制作することも、企業担当者が動画を内製することも支援する立場ですが、外注・内製を問わず、クオリティという言葉が担当者やその上長から出てきます。

でも、このクオリティって何なんでしょうか?
どんな基準でクオリティの高低を分けているんでしょう?

これまでの経験から言えることは、多くの方が口にするクオリティとは、編集技術や照明技術といったテクニカルな技術やのことが多いです。
照明技術が高ければ、撮影対象のディティールがハッキリとキレイに見せることができます。
編集技術が高ければ、視聴者をアッと言わせる、注目させる映像効果を施すことができます。

照明や編集以外にも、演技・脚本なども技術的なクオリティに含まれますね。

でも、それらが必ずしも動画の再生数や視聴後の行動に影響するとはかぎりません。
このnoteではこれまでもお金をかけないで効果を出してきた事例を紹介してきましたが、そうした動画がなぜ効果を出せたのかを説明する言葉を、私は持てていませんでした。

技術ではない、距離感という軸

この夏、Snapmart代表の岡洋介さんと開催した勉強会で、Snapmartに投稿される、いわゆるクリエイティブ職ではない一般の方々が撮影した画像の方が、プロが制作した画像より広告に使用した時のコンバージョンが高かったという事例を紹介いただきました。
この勉強会では、「(ユーザーとの)距離感」という言葉が出ました。

テクニカルなクオリティではない、ユーザーとの距離感という言葉は、収まりがいいように感じました。
ただ、こうした言葉を私たちが使ったとしても、実際に動画をビジネスに使用する人々の納得感を得なければ、流行らせようとしてまったく流行らなかったマーケティング造語になってしまいます。

そんなわけで、距離感という言葉に近い、多くの人が納得できる表現を探していたときに出会ったのが、「authenticity(本物らしさ)」です。

この言葉は、2017年に刊行された『Videocracy』(邦題は『YouTubeの時代』)で紹介されていました。ちなみに著者は、Kevin Allocca氏で、書籍刊行時、YouTubeのトレンド&カルチャー部門・統括責任者を務めています。

氏は書籍で、YouTubeでバイラルする動画には、テクニカルなクオリティが高くないものが多いと言います。しかしそれはアマチュアだからバイラルするのではなく、アマチュアたちが自然にもつ「誠実さ」から生まれたのと指摘しています。こうした動画の特徴を、業界ウォッチャーは「authenticity(本物らしさ)」という言葉を使って表現しました。

authenticity(本物らしさ)を体現する動画

書籍では、テクニカルなクオリティでは評価されないであろう動画を多数紹介しています。いくつかご紹介しましょう。

●エレベーター動画 ディーゼルデューシ(DieselDucy)
アスペルガー症候群のアンドリュー・リームズ氏は小さな子供の頃からエレベーターが大好きで、お気に入りのエレベーターのボタンや乗り心地などをYouTubeに投稿しました。彼の投稿した動画は合計で8000万回以上視聴されています。

●オモチャ動画 ディズニーコレクターBR(DisneyCollectorBR)
人物は登場しません。音楽もありません。手以外をカメラに移さず、箱を開封したり、粘土や人形で遊ぶだけ。このジャンルの動画は日本でも大量に制作されていますが、こちらのチャンネルの総動画再生数は、2019年中に150億回に迫りそうです。

これらの動画のテクニカルなクオリティはまったく高くありません。制作における創意工夫があるとも言えません。あるのは独自のアイデアや視点。そして、「authenticity(本物らしさ)」です。

企業は本物らしさを求められていないか?

私がここで問いたいのは、こうした「authenticity(本物らしさ)」は、一般のクリエイターだからこそ有意義だと言えるかどうかということ。
つまり、企業が制作する動画であっても、「authenticity(本物らしさ)」は求められないか?ということです。
視聴者は、友人やYouTuberが見せるのと同様の本物らしさを、企業には求めないでしょうか?

Allocca氏は、脚本のある物語がうまくいかないとは言わず、手の込んだ制作プロセスや特殊効果が何の意味も持たなくなるとは言っていません。こうした映像は今後も引き続き制作ニーズがあり、その役目もあり続けます。

私の動画制作・活用の仕事経験はまだ浅いものですが、「authenticity(本物らしさ)」は多くの企業にチャンスを与えるだろうと確信しています。
ほとんどの企業は、多額の予算を投じて、テクニカルなクオリティの高い、技術の粋を集めた動画コンテンツを制作できる立場にありません。中途半端にそれを真似しても、よりクオリティの高い動画の陰に隠れるだけです。
ならばその状況を逆手にとって、自社ならではなの本物らしさを追求することで、クオリティの高い動画とは異なる方法で、人々とのつながりをつくることができるのではないでしょうか。

グラミー賞やYouTubeアウォーズを受賞するなど、高い評価を受けるミュージックビデオを連発するアメリカのインディーズロックバンド、OK Go
メンバーのダミアン・クーラッシュは自身のビデオをつくるとき、ライトやカメラ用台車の映り込みを指示するそうです。そうした指示は、カメラクルーには不評です。そんなものがビデオに映りこんでしまうのは、素人のやる失敗だから。
しかしダミアンはこう言います。

「僕らが本当に求められていたのは、不信感を徹底的に払しょくすることだったと気づいたのです」
「それを達成することは、どんどん難しくなっています。デジタル技術の進化によって、現実とCGの境界線がますますぼやけているからです。
人々に驚いてもらうために、『これは現実ですよ、これは現実ですよ』と、何度も念押ししなければなりません」

あなたの企画・制作しようとしている動画は、視聴者に「ウソくさい」「本当かなぁ?」と思われてはいないでしょうか?

「authenticity(本物らしさ)」を表現して効果を出すために、「こう制作すればいい」というメソッドを私はまだ持ちませんが、企業の方が自分で動画を企画し、撮影するお手伝いをしながら事例をつくっていくことで、普遍的な方法を見つけ出したいと考えています。

最後に、このnoteを書こう書こうと思いながら、なかなか書けずにいた私に「書かなければ!」と行動するキッカケを与えてくれたこちらのツイートに感謝です。(面識はないのですが、竹村さんありがとうございます)

どのような目的で動画を制作するかによってクオリティを重視すべきかオーセンティシティを重視すべきかは変わってきます。そうした考えを下記の書籍でさらに詳しく解説しています。

動画の概要は下記の動画でも詳しく解説していますので、よろしければご覧ください。


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