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犬男、ヨットハーバー、煙草のけむり。

娘は、どこかでタバコの匂いがするとヨットがたくさんある光景を思い出すらしい。
2歳頃の記憶って鮮明なんだな。
そこにいた人物のことはきれいに忘れていた。
匂いとか温度感とか景色はセットで憶えてること、よくあるよね。


それはまだ、私がいまの夫と結婚する前でシングルマザーだった時の話。


古代の惑星mixiで出会った男と頻繁に話していたのがヨットハーバー。
私は結婚などするつもりはなくて、娘とは上手くやっていたけど人生がどんよりしていて、毎日生きれてるけどこれでいいのかわからなかった。

男とは簡単なメッセージのやりとりをして、いい奴だと思ったので街の中の人混みで待ち合わせした。
占いをしようという事で。
会った瞬間にいい奴なのにメタメタでボロボロになったんだとわかった。
カフェに移動して話していくと、まぁ波乱万丈で。
当時29歳だったと思うけど、こんな大変なひともいるのだなぁと。

その時はじめて、統合失調症の当事者に会った。
薬を多用していた。
聞いた話しから察すると、元はADHDでそれに誰も気づくことなく、家庭環境や学校でストレスがかかってパニック症状が酷くなり、手に負えなくなった家族が精神病棟に入れる際に統合失調症と診断された。
そこから社会に出ることなく、自宅で過ごして筋トレしたり、夜走りに行ったりしていたらしい。
外出は音楽学校に通っていた。
あとはドライブ。

あるライブハウスに出たくて、バンドメンバーを探して音源を作ったり、歌を習ったりしていた。
家族とは上手くいっていなくて、父とは没交渉、母はヒステリー、兄は二次元ヲタ。
でも、母自身が音楽の夢を諦めて経営者に嫁いで苦労したから息子には叶えさせたいと、音楽を学ばせているようだった。
母親の声を電話越しに聞いたことがあって、ヤバいひとかな、と思ってたけど自分自身が子育てを続けていくなかで、息子があんな感じだったら母もきっとまともではいられないよな、って思い出すことがある。

初対面でいろいろ話しを聞いて、それから電話で話し相手になることが増え、父から借りているというオンボロのクルマでよく迎えにくるので、娘も連れてヨットハーバーで延々くだらない話しをした。
私も彼も、話し相手が必要だったのだ。

元カノが出会い系で浮気した時にウイルスを移されて男もどえらいシモの病気に罹っていたので、私たちにカラダの関係はなかった。
名前のない関係。
私は男の名前を呼びたくなかったのでSNSに書いていた犬のような名前で呼んでいた。
下の名前をちゃんと呼ぶと、関係が強固なものになりそうで嫌だった。
犬男は私の下の名前をさん付けで呼んだ。
単に私が年上だったから。

私はとある試験に受からなければならなかったので、しばらくだらだら続けていた逢瀬を一旦止めた。

そうこうしている間に昔の知り合いである夫と再会し、急展開で結婚が決まったのでもう犬男と会うことはなかったが、メッセージのやりとりはたまにしていた。

私は、犬男がいい奴でとんでもないポテンシャルがあると見込んでいたので、ライブハウスに出ることと、社会復帰が叶うまで励まし続けようと思っていた。
向こうから近況報告があると返信した。
私も、以前話していた犬男の知人をテレビで見かけたりしたら報告した。
こどもが大好きで、娘をかわいがってくれていたのでちゃんと育ってるよと伝えた。

けっきょく犬男はその後、○○教室の先生になり、それから市役所の仕事をゲットして障害者枠で働いていた。
そして、驚くべきことにソロであのライブハウスのステージに立っていた。
夢を叶えて社会人デビューしていて、私は何も関係ないが嬉しかった。


ひとつ気になっていて、確かめようがない不思議なことがあった。

犬男の波乱万丈な打ち明け話しのなかで、高校生の頃に好きだった女の子のこと。
書くのも憚られるような悲しいことが二人の間に起きて、恋が終わって彼女は東京に行ったという。
彼女の名前をフルネームでおしえてくれたんだけど、それを聞いた時にある小説を思い出した。
映画化もされて一時期話題になったもの。
犬男との実話を元にしたのではないかと思った。
完全に一致はしていなくて、設定はいろいろとずらしてある。
でも、彼女の名前がどうしてもそれを指していた。

犬男がその小説を知っていて私をからかうために嘘をついたとは考えにくかった。
あまりにも悲壮な体験談だったし。
男は本などほとんど読むことがなく、村上春樹のノルウェイの森をひとに勧められて読んだけどエロかった~と笑っていた。
あれはそんな話じゃない。
本をよく読む人間の感想ではないと思った。

だからなんだ、ということでもない。

ただ、あの小説家は架空の存在と言われていたけれど、犬男の恋人が打ち明けてほかのライターによって書かれた話しなのかもしれない、と私はいまも考えている。
思い過ごしかもしれないが。


犬男はまた、恋したり失恋したりして元気に暮らしていると連絡があった。
若い頃に飲み始めた精神科の薬は簡単に切れるものではないと思う。
それでも男が元気でいてくれるなら私は嬉しい。


もう連絡する術をなくしたので、どこでどうしてるのかはわからない。

犬男のYouTubeチャンネルができていたので、それをチェックしてみようと思う。


覗いてくれたあなた、ありがとう。

不定期更新します。
質問にはお答えしかねます。

また私の12ハウスに遊びにきてくださいね。






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