吹奏楽部の「ベー読み」
先日、地元中学校のコントラバスレッスンの依頼を頂いて指導に伺いました。この地に越してきて約10年、やはり地元に貢献したいという思いはあるので、少なからず嬉しい気持ちでした。
本当は2年生と3年生の2名が受講予定でしたが、当日来たのは3年生のみ。という事で3年生とのマンツーマンレッスン。
とても素直な子で反応も良く、レッスンは楽器の状態チェックから右手の基礎、弓の使い方までスムーズに進んだのですが、その時生徒さんから「どうやら私は音符の読み方が普通じゃないみたいなんです」と申告がありました。それを言われた瞬間私は過去の経験から「あー、ベー読みかな」と察する事が出来ました。以前にも何人か同様の読み方をしている子に出会った事があるのです。
「ベー読み」とは、つまり楽譜をinB(インベー)で読むこと。ドイツ語のB(ベー)ですね。ピアノのC(ド)の事をB、シのフラットと読むという事です。
ちょっと何を言ってるか分からない、という方もいらっしゃると思うので画像で解説すると、通常コントラバスのC(ド)はこれです。
しかし、吹奏楽部を指導していると、稀にこれをB(シのフラット、ドイツ語で「ベー」)と読む学校があるんです。これをベー読み、inB(インベー)と呼びます。ちなみにコントラバスのB(ベー)はこちら。
このような事が起きる理由の一つに、管楽器中心の吹奏楽には、一部のクラリネットやサックス、ホルンのような移調楽器が存在する事があります。B管の楽器の先輩に楽譜の読み方を教わるとこうなる訳です。また、学校単位で全員がベー読みをしている場合もあります。
もともとピアノをやっていた子なら疑問を持つことも出来るでしょうが、最近の音楽の授業では音符の読み方を教えない事も多いらしく(これもどうかと思いますが)、中学校ではもともと音符を読めない子が増えているので疑問すら持ちません。
弦楽器であるコントラバスは、そもそも開放弦が「G線、D線、A線、E線」と音の名前で設定されています。ベー読みするとこの概念自体が覆されてしまう。ピアノをやっていなくても、この開放弦の名称を知った段階で「あれ、私の読み方違う?」と気づけるはずなんですが、今回レッスンに伺った学校の生徒さんは教則本すら渡して貰えていなかったので、その事に気付く事すら出来なかった訳です。
さらに厄介なのは、英語とドイツ語がぐちゃぐちゃになっていたりして、これ↓をベーと読む学校もあったりします。
これはドイツ語だとH(ハー)ですね。ではその子が先ほどの画像2をどう読むかというと、「ベーフラット」と言ったりします。それはもはやダブルフラットです。もうぐちゃぐちゃです。
英語だとシの音をB(ビー)、シのフラットをB♭(ビーフラット)と読み、チューナーの表記に「B♭」という文字が使われる事もあってこのような混乱が起きたりしています。
僕らクラシックの演奏家は主にドイツ語読みがメインなので、まずこの読み方の違いに面食らう事があります。統一されていないから微妙に音のズレが生じたりもして会話が成り立たない。
ちなみにジャズの方は英語読みが多く、コントラバスの弦もエレキベースに倣ってG線=1弦、D線=2弦と呼んだりするので、プロでもジャンルが変わると微妙に違ったりします。
こうやって文字に起こしてみると面倒臭い世界ですね、、、
別にベー読みしてても演奏が出来ない訳じゃないですが、もし中学校から高校、高校から大学と楽器を続けたいとなったとき、或いは管弦楽の世界に入ったときに周囲と話が噛み合わず苦労するのが目に見えているので、僕はなるべく否定せずやんわり修正するようにしています。今回の場合は中学3年生だったので「高校に入って楽器を続けるのであれば直した方が良いかもよ」と伝えるに留めました。
吹奏楽部の顧問の先生というのは管弦打の経験者ばかりではない、それどころか他の教科の先生がやったりする事もありますし、教師がどれだけ多忙かも分かっているので別に顧問の先生を責めるつもりは全くありませんが、せめて各楽器に教則本くらい渡す、或いは買わせても良いのではないかと思うのでした。