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政治学・政治理論・政治哲学・政治思想

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記事一覧

前田健太郎『女性のいない民主主義』(岩波書店、2019年)

主題…「人民の支配」を意味する民主主義は政治学における基礎概念であり、近代の政治社会において尊重される理念である。しかし現実の政治において支配権を握るのは男性であることが多く、女性の意見が政治に反映されているとは言い難い。政治学にジェンダーの視点を取り入れることで、「女性のいない民主主義」を批判的に吟味する。

 1章では、「政治」とは何かという根本的な問いをはじめ、話し合い・権力・制度といっ

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苅部直『丸山眞男 リベラリストの肖像』(岩波書店、206年)

主題…丸山眞男は、戦後民主主義を確立した政治学者として知られる。丸山は戦前・戦中・戦後の社会をどのように生き、何を考え、主張を展開したのか。戦後民主主義の擁護者としてみなされるに至った丸山の生い立ち・背景・思想の内容を検討する。

1章では、丸山眞男が大正期に生まれ、いかなる環境で育ったか紹介がなされている。
丸山眞男は、近代化が進む大正時代に生まれた。そして、丸山は、教養の涵養が盛んであっ

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『熟議の理由 民主主義の政治理論』/田村哲樹

主題…理性的な熟議を通した意見の交換を重視する「熟議民主主義」この「熟議民主主義」は、排除や分断が著しい社会において、規範的な民主主義の形として注目を集めてきた。なぜ「熟議」を重視する民主主義が、現代の社会において求められるのか。その理由と、規範的な熟議民主主義の形を探求する。

1章ではなぜ、現代の社会において民主主義が求められるのかについて、社会理論的な洞察を踏まえて論が展開されている。

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『隔たりと政治 統治と連帯の思想』/重田園江

主題…個人と個人の間には「隔たり」があり、その「隔たり」は多様な形で現れる。そうした「隔たり」に対して、政治思想はいかに「連帯」の実現へ向けて構想を練ることができるか。現代的な諸問題を題材として、「統治」と「連帯」の視点から、政治思想の考察を深める。

1章では犯罪学で議論される「コミュニティベース」の犯罪予防活動とゼロトレランスなどの「厳罰化」支持の傾向について、両者を結びつけて議論する傾向

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『「デモ」とは何か 変貌する直接民主主義』/五野井郁夫

主題…主要な政治表現として認識されている「デモ」の姿は、画一的なものでは決してなく、時代や社会に応じて変容を遂げてきた。日本では過激的・暴力的なイメージから敬遠されてきた歴史もあるが、現代的な「デモ」のあり方はそのイメージを払拭するものとなりつつある。「デモ」のイメージ定着の歴史や現代的な可能性について考える。

序章では現代的なデモの態様について素描が示されている。
五野井氏は、現代的なデ

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『迷走する民主主義』/森政稔

主題…民主主義は政治における価値ないしは原理の一つである。しかしその定義は多様であり、その評価は時代によって大きく異なっている。特にここ四半世紀の間は、民主主義は迷走とも言える変容を遂げてきた。その変容の過程を辿り、民主主義についての考察を深める。

1章は「民主主義の終焉」と「民主主義の過剰」をめぐる反する2つの言説について論じられている。
「民主主義の終焉」とは、政治的平等や政治参加の実

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『ラディカル・デモクラシーの地平 自由・差異・共通善』/千葉眞

主題…一般的にデモクラシーという言葉は、有権者による投票や議会による政治を想起させやすい。しかし「ラディカル・デモクラシー」は、そうしたデモクラシーの解釈の限界に基づき、デモクラシーの「根元」にある価値を重視する。「ラディカル・デモクラシー」は現代の社会においてどのような意義や可能性があるのか、検討する。

序章では本書で扱う「ラディカル・デモクラシー」について、その特徴や具体例、理論としての

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『政治と複数性 民主的な公共性に向けて』/齋藤純一

主題…昨今の社会の分断や特定の個人に対する劣等者の刻印は、デモクラシーの前提を切り崩し、一部の人々を「見棄てられた境遇」に陥れている。見棄てられた境遇にある人々の声を聴き取り、「複数性」に基づいた政治を確立されなければならない。民主的な公共性を復権するための理論を模索する。

1章では政治における「複数性」の観点から「ラディカル・デモクラシー」の概念について論じられている。
第一に「ラデ

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『デモクラシー』/千葉眞

主題…「デモクラシー」は政治における理念の一つとして尊重されている。しかしその「デモクラシー」のあり方は画一的なものではなく、時代の要請に応えながら変容を遂げてきた。現代においては更なる変容の傾向が確認されている。「デモクラシー」を徹底し、深化させるためにはいかなる視点が重要なのか考察する。

第1部では古代ギリシャのデモクラシーと西欧近代のデモクラシーの相違や特徴について取り上げられている。

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『人間の条件』/ハンナ・アレント(志水速雄訳)

主題…アレントによれば人間は「労働」「仕事」「活動」により条件づけられている。アレントはこの3つのうち「活動」こそが人間を人間たらしめると考えたが、近代以降、「活動」は軽視され「労働」の価値が追求されてきた。人間の「複数性」に目を向け、その「現れ」を問う。

1章では人間を条件づける3つの行動について、その歴史上での解釈などが論じられている。
人間はさまざまな条件によって規定されている。アレ

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『ハンナ・アレント』/川崎修

主題…20世紀を代表する政治哲学者ハンナ・アレント。彼女は「全体主義」という20世紀の破局的事態に正面から向き合い、それを記述した。「全体主義」を過去の事象と見做さない彼女の視点は、現代においてもまったく色あせていないことが分かる。著作や背景、政治に対する姿勢などから彼女の思想を読み解く。

プロローグでは、ハンナ・アレントの生涯、思想史上の位置付け、他の思想家との影響関係などの説明がなされて

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『ミシェル・フーコー 近代を裏から読む』 /重田園江

主題…「近代」における権力の本質を暴いたミシェル・フーコー。フーコーは「監獄」「規律権力」「知」などあらゆる概念を用いて、社会で当たり前と思われている価値の全く異なる姿を露わにしてきた。現代においても色褪せないフーコーの思想にアプローチする。

1章では残酷な身体刑の場面から始まる『監獄の誕生』に触れ、フーコーの哲学実践のスタイルについて説明されている。
重田氏によれば、フーコーの著作は、社

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『変貌する民主主義』/森政稔

主題…「民主主義」は理想的な政治体制の代表とされてきた。「民主主義」は画一的な理念として尊重されてきたわけではなく、社会の変動に伴い、異なる意味付けがなされてきた。とりわけ「現代」における「民主主義」は、私たちを取り囲む社会と直結した関係にある。「民主主義」が社会の諸事実とどのように関係し、変貌を遂げてきたか、検討を深める。

序章では、本書の軸となる「現代」の捉え方について論じられている。森

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『<私>時代のデモクラシー』/宇野重規

主題…現代は「私」のあり方を自ら自覚的に形成しなければならない時代であるとされている。そうした「<私>時代」において、個人は社会とどのように向き合えばよいのか。「<私>時代」における他者との協働やデモクラシーのあり方について考える。

1章では「<私>時代」の「平等意識」について論じられている。
宇野氏は、絶対的な価値や理念からの解放を目指した「近代」の延長としての現代は、自分自身のあり方を

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