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タイタニックはローズのために沈む必要があった



タイタニック25周年記念の劇場公開を見に行って、やっぱり素晴らしい作品だなと思いました。2年前に地上波を見た時の感想が書きかけだったので、当時の思いをまとめました。拙い感想ですが、読んでもらえると嬉しいです。


久しぶりに映画「タイタニック」を地上波でやるということを耳にして、
2週間、仕事を切り上げて鑑賞した。

前回観たのがいつだったか、きちんと覚えてはいないけれど、大学生時代か高校生かで、前に観てからは随分間が空いていた。
タイタニックとの出会いは小学生。子供の頃、家にVHSのビデオテープがあって、ビデオは前編と後編に分かれていた。(前編はスミス船長のセリフで区切られる。はらはらと、続きが見たくなるつながりかたである。)ませた子供だったので、小学2−3年には、全編通して見ていた。幼心にもケイト・ウィンスレットの美貌はとてつもなくインパクトが大きくて、私の中でローズは「実在するお姫様」そのものだった。

純愛を消費していた

今回見るまで、私は主演二人のラブストーリーにかなりフォーカスし鑑賞していた。レオナルド・ディカプリオも、ケイト・ウィンスレットも素晴らしい演技をしているし、メインの話は二人のラブストーリーでもあるので、見方として間違ってはいない。ラストに近づくにつれ、結末を知っていても、二人の別れに涙せずにはいられない。二人の絆は本物で、揺るぎないもの。理想的な恋愛の形に、憧れるような気持ちで物語を楽しんでいた。
「せっかく本物の相手に出会えたのに、ジャックは死んでしまって、ローズは可哀想だなあ。」
だいたいこんな感じの感想で、お話としては大好きだったけど、ジャックが生きていてくれたらよかったのに、と思うことが多かった。

ローズのための物語

今回鑑賞し終わっての感想は、
「ローズという女性が、自分の思うように生きていくためには、タイタニックは沈んで然るべきだったのだな」ということだった。そして、自分が本気で好いた相手を失っても、事故で一人生き残り、人生を自分のために生きることができたローズは、幸運を掴んだのかもな、とも考えた。

To me it was a slave ship, taking me back to America in chains.

『Titanic』 本編より

当時、女性は女性という性にがんじがらめにされ、こうあるべき、という姿や振る舞いを求められ、その中で生きるしかなかった。

ただ進みつづける船、行き先は自分らしく生きることを肯定されない地獄、自分の意思や考えを、周囲は尊重しない傍観者ばかり。周りは一面海で、逃げることはできない。
途中、感情が昂った彼女は、華やかなパーティーを抜け出して甲板に出る。

これまで、ロマンティックな愛の要素にしか目が向いていなかった私は、今回までこのシーンで彼女の感情の動きに共感できなかった。

恵まれた生活を、なぜ拒むのだろう。
好きな人ではない人との結婚は嫌だと思うけど、何が彼女をそこまで苦しめたのだろう。そこまでヒステリックに、投げ出して悲しむほどの気持ちになったのはなぜだろう。

ぼんやりと、彼女の感情の動きを、ストーリーの中に流し見るだけだったが、29歳になり、彼女の閉塞感と絶望を身近に感じられるようになった。

ジャックは自由の光

Of course it's unfair. We're women. Our choices are never easy.

『Titanic』 本編より

生まれた性別だけで特定の振る舞い方を決められてしまう。生まれが裕福でも、そこに自分の個性や選択の自由さはない。ただ自分らしく生きることが困難な戦いなのだ。
周囲から望まれる女性を演じることの窮屈さ、生涯の伴侶も家の都合で決められ、自分の気持ちは二の次。17歳の未来あるローズには、例えどれだけ贅沢な暮らしができても、絶望だったのだろう。進学先や就職先、結婚相手を自分で選べる現代では、想像できないような困難な戦いの中に、ローズは一人孤独と絶望を感じていたのかもしれない。

だからこそローズは、先の見えない絶望の中で、ジャックという自由に出会い、強く惹かれた。考え方や感性に直に触れ、別の生き方が肯定される世界を知った。新しく、刺激的で自由な世界。

救命ボートに乗るときも、波乱があっても自分で選んだ道がいい。ジャックと一緒でないと意味がない、と安全な道を捨て、囚われた彼を探す。恵まれた、でも不自由で窮屈な温室の生活を捨てるには、思い切りのいい決断が必要だった。

沈没、解放


彼女は聡明でとても知的な女性なので、大きな事件なければ彼女の母の呪縛を振り払い、ジャックと逃げて自由を掴むことは難しかったかもしれない。命の危機が絡むような出来事がなければ、ねっとりとした好みではない婚約者と執事の追跡を逃れられなかったかもしれない。

彼女の人生は、タイタニックの沈没によって、解放されたのだ。彼女が自分の意思で生きていくために、自分の人生を自分で選んで生きるために、彼女を縛っている世界は一度壊れる必要があった。劇的に変わる必要があった。沈没事故は、そのための出来事としてうってつけの、大事件だった。そこで出会ったジャックとの別れと、タイタニック号の沈没が、彼女の決断を後押しした。

You jump, I jump, right?

自分の意思で決めて、飛び込むこと。本質を間違えずに自由に生きる大切さをローズから強く感じた。タイタニックは、ストーリーとして、ローズのために沈む必要があった。
オールドローズがジャックとのお話を語り終え、潜水艦の部屋に持参したたくさんのローズの写真が映るシーンで、この人は自分の人生を悔いなく、自分の意思で生きたのだなと感じた。その人生は、困難はあったかもしれないが、より多くの幸福に恵まれたんじゃないだろうか。決断って大事だなと学んだし、私もここぞと言うところで自分の意思で決めて進める人でいたいなと思った。

ローズとは全く違う側面だが、「女性だから」という見られ方は現代の日本でも山ほど遭遇する。時代が違うので、ローズほど自分自身の選択で苦しむ女性はいないかもしれないが、その悩みは、より多様に、より細部に、より見えづらいところで、今も女性の生きづらさとして、ひっそり存在しているように思う。現代に生きる私たちにも、自分らしく生きるための後押しに、劇的なターニングポイントが必要なのかもしれないな、とこっそり思ったりした。

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