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「世界最高の教室」に特効薬はない。

はじめに

「世界最高の教室」という本を紀伊國屋書店で見つけました。でも、この本、ビジネス書のコーナーに置かれていたのです。でも、中身は学校の話。アメリカのある公立高校での奇跡のような結果が報告されています。その高校の名前は、「サミット・プレパラトリー・チャーター・ハイスクール」

驚異の大学進学率

この学校の最大の実績は、ハーバード大学に何人が合格したということではなく、卒業生の100%が4年制大学に入学できるだけの実力をつけることに成功したということです。

日本の大学とは違い、アメリカの大学の方が教育機関として、しっかりとフィルタリングがかかります。その中で、100%、一人の漏れなく、大学進学できるだけの力を付けることがいかに難しいことか。たった35人の子どもでも、学習を全員に定着させることの難しさを考えると、その偉業の大きさが分かります。

教育において、100%という数字は本当に奇跡のような数字です。しかも、この学校のすごいところは、生徒を選別をしていないという点。

しかし、これは、奇跡ではなく、この学校に関わった教師たちの泥臭く、地道な試行錯誤の先にあったものなのです。

では、この学校の教師たちは一体何をしたのか。簡単に紹介していきます。

問題解決学習とメンター制度

この学校が取り入れている教育手法が問題解決学習です。問題解決学習とは、課題設定→情報収集→整理分析→表現という活動を設定した、動的な教育方法です。

全く新しいものというわけではなく、割と古くから存在している方法です。日本では、算数、総合的な学習はこれに似た問題解決的学習で進められています。

日本で一部分しか取り入れることができていないように、この学習方法は手間がかかる上に、本質的にメソッド化しにくいのが特徴で、とり入れるとしても、ほんの一部分のみということになりがちです。日本でも、良いということは理解されていますが、完全には浸透している物ではありません。

サミット・プレパラトリー・チャーター・ハイスクールはこの問題解決学習を中心に据えた学校教育を展開しています。それは、とんでもなく、手間も時間もかかることで、子どもの学習意欲の持続から、魅力的な教材の選定、多数の協力者の確保、全員の学びの保障等・・・やることが多岐にわたり、しかも、時間がかかります。

メンター制度

この、問題解決学習を支えているの三つの要素があります。一つ目がメンター制度です。教員がメンターとしてつくことで、子どもたちは自分の学びについての理解を深めていきます。

このメンター制度は、3年間基本的には同じ教員がつくそうで、メンターはその子の家庭状況や願い、興味などを把握し、アドバイスをしていくそうです。しかも、指導的な方法ではなく、本人に気づかせるような形で。子どもたちはメンターとの対話を通して、自分が本当にしたいことは何かを考えたり、学習の振り返りをしたりします。

学ばせたいことは何か

二つ目の要素が、学びの明確化です。この学校では、社会に出るために必要な能力を独自に設定しています。教科ごとの能力ではなく、所謂社会人基礎力のようなもので、かなり、汎用的な能力の育成を目指しています。

これらの能力は学校を作り上げていく際に、教員たちの間で練り上げられて言ったものなのだそうです。加えて、それをスキル化することで、学習の中で使う機会を増やして、能力の獲得を図ります。

例えば、「戦略を修正する」というスキルを身につけるために、授業の終わりには、振り返りの時間を設けると言ったように、学ばせたいことからの学習活動の逆算が丁寧になされています。

時間とアクセスの確保

そして、最も大きな要素を占めていると感じたのは、三つ目の「時間とアクセスの確保」です。問題解決学習を進めていくと、学校の中だけでは解決できない問題に必ずぶち当たります。例えば、インターネットで調べたいと思ってもすぐに使えるパソコンがなかったり、実際に体験してみたくても、それを提供する場がなかったりと言ったことです。先ほども書きましたが、問題解決学習は時間がかかります。

当たり前と言えばあたりまえなのですが、この時間と物理的、精神的なアクセスの確保ができているというのは問題解決学習の効果を最大化するために、大きな力を発揮します。また、教員も、わからないことがあれば、研究者と連携や同僚間での協力関係ができていることもあって、教員にとっても、時間とアクセスが確保されていると言えるでしょう。

まとめ

これらから言えることは、世界最高の教室には、新しい特効薬なるものは存在しないということ。そこにあるのは、どの子も見捨てない教師の思いと、面倒くさい学習を丁寧につみ上げていく教師の姿であったのです。卑近でありきたりな、「コツコツとつみ上げていく」これを続けていくこと。教育には金も時間もかかるということは、言い訳でもなんでもなく、厳然たる事実であることがわかる一冊だと思いました。

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