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早紀❾

パチンコ屋に行くのはやめた。パチンコは勝てる勝負ではない。まずタコ殴りから始まる。結果として何人に身体を売っただろうか…。普通の女ではなくなっていた。そもそもお金にはもう困っていない。普通の独身女性からしたら、私は容姿にも金にも恵まれている。あとは男だけだった。が、オンカジを楽しむには5万からの入金が必要であり、私は週に2回はこれを繰り返していた。出金に至ったのはこの2ヶ月で3回だけだった…。

あのメンパブから2日、了からLINEがあった。「今度の土曜日お時間あればジビエ料理のお店に付き合っていただけますか?」面白いアプローチだ。臭い肉、もといクセのある肉は私の好物。羊もラムよりクセの強いマトンの方が好き。私は男の体臭もワキガ以外なら全然OKという変態だ。

待ち合わせ当日、この日はクリスマス翌日ということもあり人出はまばらだが、それにしても寒い。男と女の距離がより近くなりがちだ。了と駅で待ち合わせ。先に着いたのは私だった。何故か待つのが苦にならない。それでも了は遅れる事なく約束の5分前に現れた。2人で店まで歩く途中、年上の私から彼に寄り添うように歩いてみる。暖かい…。こんな気分は何年ぶりだろうか…。裸で抱き合うそれとは少し違う。寒いはずなのに気持ちが暖かい…。そんなムードも束の間、5分程歩いた先に路面店のジビエ専門店があった。この前のメンパブのすぐ近くだ。少し引いたが構わない。夜遅くまで了といられるのなら…。店に入り、注文したのは猪鍋。初体験…。以前から食べたい食べたいとは思っていたものの一緒に行く相手を選ぶ料理でこの年まで未経験だったからテンションが上がる。そんな様子を見て了も嬉しそうだ。了が取り分けてくれる猪鍋…。ここだからしてくれる。そんな事は分かっている。それでも2人で暮らせば良い旦那様になってくれるのではないかと安っぽい夢を見てしまう…。なんて簡単でイージーな女なんだろう…。それでもいい。今はこの夢からまだ覚めたくなかった。

腹八分より少し少ない程度で店を出た。そしてあのメンパブへ。私と了はカウンターで飲む事にした。了がスマホを取り出す。「実はあれから俺もカジノやってみたんだけど、ビックリするくらい勝ててしまって…」エコペイズ残高が日本円で120万。「これいくら入金してこうなったの?」と聞くと2万からだという。「ルーレットで赤にオールインを5回とスロット。そこからはバカラでコツコツやったらこうなった」と言いのけた。了に対し、気持ちは好意から一気に嫉妬心に切り替わった。クズ女の私におかえりなさい。私の幸せに足りない物は男と思っていたのは幻想。やはり私にはいくらあっても足りない金こそが私の幸せそのものなのか…?

今日の私のエコペイズには65000円。さぁ、今から了の横で私の勝負が始まる。ゲームはルーレット。黒に3万が当たり95000円。さらに黒に4万賭ける。これも無事に当たり135000円。了が私の肩を叩き大喜びするが、私はまだ喜ぶ気になれない。一気に赤にオールイン。27万を手中にする。この勝負はオンカジを始めて一番の大勝ちだ。この勝負をさせるきっかけは了だ。気が済んだのかクズの私はまた何処かへ消え去り、了の瞳に吸い込まれた。と思った瞬間、私から了にキスをしていた。ギャンブラーカップルの爆誕。モンスターとモンスター。究極のお二人さん。二人で日曜お昼の新婚バラエティに出たならどんな事を話すのやら…。私がこのルーレットで猪鍋腹八分程度のカロリーを全て使い果たのを悟った了は、私からスッとスマホを取り上げた。「ここからは俺ので楽しもう」プレイテックのBJを開き20ドル程度のベットで終電の時間まで楽しんだ。最高に楽しい夜だった。了の結果は260ドル負け。エコペイズには120万ある。微々たる負け…。了は店から出て私を駅まで送ろうとしたが、私がそれを大丈夫と言い、楽しい夜はそこで終わりを迎えた。こんな楽しいデートなら毎日でもしたいが、私の中のクズが了より金を、金よりギャンブルを求める瞬間がある。それだけでも何とかしたい。全くやめようとは思わないが、とんでもないハイベットだけは金がいくらあろうとも避けたかった。切実にそう思いながら部屋に着くと了からのLINE。近くにBJが大好きなオンカジプレイヤーがいるから3人で飲もうとの誘い。「ラブドールって名前の男でしょ」カマをかければやはりビンゴ。年始に詩月も誘って4人で会う事になった。オンカジを通しての付き合いができたおかげで、この先ギャンブルからなかなか足を洗えそうになくなった。

柚子湯に浸かり、1時間ほどくだらないYouTubeを眺める。どこかのオンカジ系YouTuberが馬鹿騒ぎしながらクレイジータイムで外しまくっていた。私はそれを薬にその場で27万を銀行出金した。

☆フィクションです。今年の執筆はここまで。また来年!来年は俺と関わる人みんなプラスの年になりますように…。ちなみに東京では柚子一つ200円もしません。みなさんも柚子湯どうですか?

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