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早紀17最終話

あと500ドルで倍。ここを1回勝負で決めてしまいたいという油断…。あといくらというタイミングからの雪崩…。それでも早く楽になりたかった。隣で早紀が「あといくらよ!」と急かし続ける…。100ドルにすべきか、それとも500ドルで一気にゴールすべきか…。指が勝手に500ドル賭けていた。ディーラー9に対して16でサレンダー。ここはノーマルマーチンで1000ドル賭ける。ディーラーJに対して13…。迷いながらもサレンダー。そしてここから土手っ腹ブー太郎の9000円のネタに切り替える。2000ドル…来ない…ディーラーは10カードが続く。17では勝てない。今は18でも全く勝てる気がしない。2000ドルでサレンダー。次ダメなら最初から賭け直すべきだろう。それでも来ない…。せっかく19でもディーラーがAでは勝てる気がしない。最後の神頼みで4000ドル賭ける。神に祈る。売春上等のクソ女である私が神に祈る…。神の下した裁定はディーラー10に対して6という慈悲無き裁きだった。とりあえず1枚引いてみる。1枚引いてもサレンダーはできるゲームだ。案の定14でサレンダー。もう一度泣きの4000ドルベット。ディーラーAにこちらは10。勝負すべきだろう。ここまで来たらヤケクソだ。文字通り私は焼けたクソ…。しかしどうしても勝負に行けずサレンダー。そして焼けたクソの私は8000ドルを賭ける。これは間髪入れずにベットした。マダラが冷徹な目でそれを眺め、その隣で早紀が「馬鹿じゃねーのかオメー!!!」と怒鳴り散らす。結果はディーラー20で私は3枚目を引く必要が無い組み合わせだった…。

結果目標額をかなり上回る事になった。土手っ腹マーチンゲール法はハマればハマるほど勝利時に初期ベットより多く勝てる上、それがBJだったならば尚更だ。早紀の興奮は凄かったが、マダラが店に20万置いて出てきた事を言い出し、20万だけ出金をかけさせた。

一息ついて思う。システムベットの怖さを思い知らされた。普通に焼けるよりスピードが速いうえ、焼けてる事にも気付かない場合がある。もっと怖いのは焼けてる事に気付きながらもベットアップしてしまう事。常態化しかねないからだ。私にギャンブルは向いてない事がよく理解できた。株ならゼロになる事はまず無い。そっちにシフトするべきだろう。だが、パチンコパチスロから始まった私のギャンブル中毒は15年目でもう治る見込みは無い。

そして私は更に思う。「何十万というお金が果たして必要なのか?」Twitterのカジノ収支報告ではとんでもない額の勝利報告が飛び交っている。が…その金で贅沢三昧したという報告は殆ど見かけない…。つまり、大勝ちなど必要ないという事だ。

どうしてもオンカジをしたくなったら20000円。それ以外は1円パチンコで十分というのが私の結論。

バレンタインデー当日、私のアパートで変わらぬ生活している詩月に早紀から連絡があった。「美樹さんや了さんには迷惑かけて本当に申し訳ないと思ってるの。だからお願い!あのお金少し使って出張シェフ呼ぶパーティーさせて!」マダラの事はまだ借金取りと思ってるらしく、私と詩月以外に怪我をさせた了も呼んで欲しいとの誘いだった。この誘いに裏はないだろう。私は「ありがとう。じゃあ2月28日の日曜日に私のアパートでどう?」とつい気を利かせて言ってしまった。シマッタ!と思ってももう遅い…。

当日、早紀は全く似合ってないオーバーオールでやってきた。私達に余計な警戒感を与えないためだろうか。手土産はシャンパン1本。挨拶は簡単に済ませてまずは上がってもらい上着を掛ける。絨毯の上に低いテーブル、そしてクッションを人数分用意してある。それぞれが座ると早紀はまず了にフォークを突き立て暴言を浴びせた事を深々と謝罪した。了も今更その事についてはとやかく思ってはいない。一同、穏やかな表情だ。10分もしないうちに大きなクーラーボックスを持った出張シェフがやってきた。ヒゲの50代前半といったところか…。この日のためにキッチンはハウスクリーニングを入れて綺麗にしておいた。フランス料理が専門らしく出てくる料理はどれも味わった事の無いものばかりで、さすがに初めてではないものの、フォアグラを使ったメインには感動さえした。この日の早紀は落ち着いていた。これだけの物を皆で食べていれば症状が現れてもおかしくないはず…。気のせいか了の視線も常に早紀のフォークにあった。

一通りのコース料理が終わりを迎える頃、会話は各々の仕事の話から結婚観、そしてお金の話になっていた。嫌な予感が場を満たす…。私と詩月はあえて少なめの預金額を言ってみる。了は多分本当の額だろう。貯金をするタイプでもなく、エコペの額は無しとして銀行預金だけでせいぜい40万位と答えていた。早紀はというと…「私?私も銀行には2桁しか無いの。了さんと同じで貯金できないタイプ」そう言いながらおもむろにスマホを取り出す。早紀は貯金額にエコペイズの残金を足していない。「早紀さん、あのエコペのお金は?アレだって出金してしまえば立派な預金よ」と切り出す。それでも何か大事な連絡でもしているのか私には一切目を合わそうとしない。ついさっきまでとは空気が違う。詩月がスマホを覗き込む。「お姉ちゃん!!」驚いたシェフが皿を落とした。音はミュートにしてルーレット赤に10000ドル賭けてしまっている。頭を抱えたのは了だった。せっかくの平和な空気がこのベットでガラリと変わってしまったからだろう。ミュートを解除し白球が滑る音の後、しばらくしてそれが踊る音がする。赤の5。あなたの勝利20000ドル…。早紀が得意げに皆にスマホを見せつけるが無言だ。おかしい…。数秒後、スマホをテーブルの下に隠し何かを入力している。詩月が取り上げようとするも既に間に合わない。あっという間の出来事だった。また10000ドルを赤にリピート。私も了も言葉が出ない。心臓を鷲掴みにされてる気分だ。女ディーラーがチャットを読んで笑っているが、この部屋は空気を読んだシェフも含めて凍りついている。スマホはテーブルのど真ん中。食べ残しの無い皿の中心に置かれている。早紀がボリュームを引き上げた。私は正直な話これが当たるとは思えない。いつもの私は大一番に弱いタイプだからだ。先日のBJは神様のおかげであって、普段バカラでオールインをするとカードを捲る前から勝てる気がしなくなり、それはほぼほぼ決まって現実となる。

「カランカラン」ルーレットはこの音色が気持ちいい。それは小額の時だけだ。今の私達にとっては悪魔の音色…。

あなたの勝利20000ドル…。

どんな攻略法もシステムベットも「豪運」には敵わない。

「これで私の貯金は90万から390万になりましたー」と言ってのける早紀の笑顔は意外にも和やかで、躁状態のぶっ飛んだ様子とは違っていた。次に口を開いたのは了「その金どうする?また賭けるのか?」の問いに早紀は何も答えない。詩月にだけ見えるようにスマホを持ち操作するとエコペイズの残高は0になっていた。

シェフの撤収準備も終わり、早紀もスッと立ち上がると「美樹さんも了さんも今日は本当にありがとう。明日には詩月の部屋出て行くから引越しの準備するね。私もシェフと一緒に撤収!」と言い残し、上着も忘れて私の部屋を後にした。残された3人で気の抜けかけた少ないシャンパンを分け合い舐めるようにすすり味わう。「お姉ちゃん300万全部私のエコペに入れてった…」分かっていた。早紀が見せた去り際の笑顔で分かっていた。早紀がギャンブルで更生したとは簡単に言い切れない。が、これで早紀の家出騒動が無事終わったとするのなら、早紀の中で何かが変わった事は事実であり決して悪い方向には流れていかないだろう。症状が悪化したとしても、300万という大金を託された詩月が必ず力になるはずで、手に余るようなら私も了も二人を助けていくつもりだ。

詩月が早紀の上着を手に取り私達に笑顔を見せる。嬉しさと安堵溢れる詩月の笑顔に私は自然と涙を流した…。

☆全てフィクションです。最終話まで長々とお付き合いして頂き有り難うございました。俺、メカに弱くてアフィとかもしてないから界隈の皆を楽しませる事といったらこんな小説書くくらいしかできなくて…。でも、近々ツイキャス配信はしてみたいと思っています。その時はどうか宜しく。そして、また日が経ったら小説書いてみたいと思っているので、その時は応援宜しくお願いします。


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