そして、今の私

シン・エヴァの感想。
ここに至るまでの序~Qの感想。
序:
https://note.com/dotenave/n/n371552b040b5

破:
https://note.com/dotenave/n/n5b62a734cd20
Q::
https://note.com/dotenave/n/na43387f672a1

※(9/23)下記、ちょっと修正

いろいろ忙しく、結局感想を書くのは今になってしまった。
プロフェッショナルの録画を見てからにしたい、というのもあったし。

実のところ、最悪円盤まで待たなきゃいかんかもという懸念から、ざっくりしたネタバレは読んでしまっていたのだ。
緊急事態宣言が解除されるかもわからんし、仕事は忙しくなるしで、そもそも見に行ける可能性は高くないと踏んでいた。
休日は人出が多いし、かといって平日はどの劇場も17時の回が最終なのでどうねじっても見に行けない。
なので、どうせ踏むことになるからむしろ自主的に突撃していった次第。…とはいえ、実際視聴すると本当に大意しか書いてないネタバレだったなと…。

3/21になし崩し的に宣言解除となり、平日の最終上映が18時過ぎの回まで伸びたので、
仕事を相当無理やり調整して見に行ったのであることよ。

感想:
一言で言うのは非常に難しいが、あえて言うならば…
これまでの自分の四半世紀がどういう人生だったのか、ラストシーンで穏やかな気持で思い出す映画、ということになるだろうか。
あくまで個人的な所管であって、TVを最初から追っかけてる人、序から見始めた人、あるいは最近話題になってるので一気観した人、それぞれぜんぜん異なる感想を持つことだろう。なお自分はEOEの前に深夜の再放送で全部見たクチ。

Qでさながら旧劇の再演でもあるかのようにシンジさん(そして観客も)踏んだり蹴ったりなことになっていたわけだが、シンはそこから立ち直るためのお話だった。
ここに関しては皆が同意するはず。
Qの大部分はここにつながるためだったと考えれば納得は行く。落として→上げる関係。
当初、急+?が同時上映の予定だったというのはこういうことだったんだろうね。

旧劇では、ダウンしてしまったシンジくんに誰も何も言ってあげられず、それどころかすべての状況が彼を苛む。
アスカはなにも言ってくれない、いつもの調子で罵ってもくれない。
身近な大人(ミサトさん、リツコさん、オペレーターズ)は状況への対処で手一杯だし、
そもそもシンジくんに嫌がらせして絶望的な状況にさせようとする悪い大人(お父さん、ゼーレ)がすべての糸を引いていた。
…すべての状況、環境、そして彼以外の人間すべてが彼を苛んでいた。そして最終的にあんなことになってしまったわけで…。
「旧劇はシンジくんが前向きに生きようと決めたのでハッピーエンドだ、残りの人もLCLから帰ってくるし!」
…という感想をよく見かけるけど、世界全部がたぶん赤ーい海やら廃墟やら、になっている状況なのは想像に難くないので、
 早晩人の醜さをまざまざと見せつけられて「ドウシテボクハコノ動物ヲ守ロウトシタノダ…ガイアー!」みたいなことにしかならんと思う。実際エヴァパイロットがどう思われているかというのはシンで克明に描写されたわけだし。

シンではこの状況が全く異なる。うずくまるシンジくんに、信頼できる大人になった親友たちが「ここにいてもいいよ」と言ってくれる。アスカも手厳しいことは言うがシンジくんの様子を常に伺ってるし、餓死しそうな頃合いになればムリヤリご飯を食わせてもくれる。黒い綾波は何も知らない無垢な状態から、周囲の世話焼きさんたちのおかげで感情を手に入れ、素直に「みんなあなたが好き」と言ってあげられた。…もうね、シンジくんよかったね、という感想を抱けるのが良い。正直これだけでもシンを見に来たかいはあった。
…まあそのあとほどなくして黒綾波がパシャンとなるわけだけど、それすら今回のシンジくんは腹をくくって受け入れる強さを持つことができた。映画の1シーンとして描くからあまり間がないようには見えるが、たぶんシンジくんが立ち直ってから村の仕事を手伝う上で、やっている仕事の意義を見出すことができただろうし、改めてエヴァパイロットである自分のできること、すべきことを問い直すことにもなったろう。綾波の様子がおかしいことを感づいて、心の準備をする暇もあったかもしれない。…そこらへんの尺をもうちょっと欲しかったけど。

あまり話題に上がってないけど、アスカがレーションをムリヤリ食わせようとするシーンですごいこと言ってるよね。「何も変わらない体になる前に、飯のまずさを味わっておけ!」…アスカは眠れない、飲み食いできない、ともしなくともアッチのほうもできない完全に人外さんになってるわけで…ものっそい乱暴なやり口だがシンジくんにできれば自分のような人外にはなってほしくないのがすごくよくわかる。

ヴンダーに乗り込んでからの展開は、完全新作のように見えてその実、EOEの逆写しだ。TV版からみてた人は、EOEの印象的(意味深)なシーンにことごとく逆襲をかけている様を見ることができるだろうし、新劇から見た人でもなんかすごいカタルシスのある展開、ということはわかってもらえるだろう。つまりは以下のように。
・戦自が乗り込んでくる→今度はこっち(ヴィレ)から行ってやんよ!
・量産型になんか負けてやらねえ!こちとら今回は二人、あわせて100万パワーだ!
・「動けない」13号機に停止プラグを「刺す」…ほー2号機、今回は逆の立場ですか…
 ん?ATフィールドが邪魔して「刺さらない」…?おい逆写しが悪い方向に作用してますよ!
 …ほーら、「手刀でコアをえぐられて」食べられた…。
・艦隊戦終了後、マダオが船に降り立つ!リツコさん、今回はなんの因縁があったのか、ノータイムでマダオを射撃、命中!
…銃なんか通用しない相手になってたよ…
・「サードインパクトを起こせる子供」ではなく「ニアサードを起こしてしまった憎いエヴァパイロット」としてシンジくんが撃たれかける
 →ミサトさんがかばう。そして撃たれる…が、今回はすぐに手当をされ死ぬことはない…なぜならもっとゴキゲンな散り様が用意されてるから。
(9/22追記)ここでシンジくんとミサトさんがちゃんと向き合って、「行ってきます」「行ってらっしゃい」ができたのがもう、もう…。
見返してみると、北上さんにしてもサクラさんにしても悲痛だ。14年前にシンジくんがにアサードを起こしてまでゼル波さんをやっつけなければその場で自分たちも死んでいたことはわかった上で、それでも家族を殺された憎しみは消えない。生き残った後も相当な苦労があったんだろう。だから、シンジくんがまたなにかしでかす前に、また周囲の大事な人を殺される前に二人は銃を向けるしかなかったし、ミサトさんがかばって銃弾を受け、それでも上官を撃ったことを咎めず「彼のすることの責任は私が取ります。だから彼を行かせて」と言われたら…。

・連れ去られる初号機。前回はウナギどもに連れ去られ、今回は事もあろうにお父さんに拉致…。でもそんなの関係ねえ!外から入れないなら中から入るまでだ!とばかりに、14年間がんばってたレイの導きで8号機からコクピット間ワープ!あーんど手足を生やして十三号機に逆襲だ!しかし泥仕合。
・エヴァンゲリオンイマジナリー顯現。そして首無し天使の乱舞。あきらかに補完シーンのリフレインだが…ここで上記の葛城艦長特攻シーン。ヴィレの槍を明らかに恐れているエヴァ以下略に突き刺さる!
(9/22追記)…これ、リリスじゃなくて「エヴァンゲリオンイマジナリー」ていう新種なのね…。リリス、というか第二の使徒は加持さんが特攻してなんとかしたほうなのか。
希望の槍を届けるために特攻するヴンダーの中で、シンジくん、そして地球でアディショナルインパクトの脅威に震えているであろうリョウジくんに向けてミサトさんは言う。「ごめんね、お母さんこんなことしかできない」…って、リアルお母さんになった琴ちゃんにしかできないでしょ…あ、そういえば野比家のお母さんなんだっけこの人。
 旧劇のときは、せめてもの元気をあげるはずのキスですら、血に塗れてしまってシンジくんの絶望をより深くしてしまった。…今回も見事に爆発四散する運命には変わりがなかったけど、大人として保護者として、シンジくんの全責任を背負い、そして最後には命をかけて希望の槍を届けることができた。だからシンジくんも、もうミサトさんがこの世にいないことをわかりつつ、槍を手に万感の思いで「ありがとう」って言えるんだ。
・イマジナリーの中での精神世界。登場人物によるシンジくんへの自己啓発セミナー開催だったはずが、シンジ先生によるみんなへの卒業証書授与式になっていた。プロフェッショナルでやってた撮影所がまんまこのシーンのセットで盛大に吹いた。
・同時に、ゲンドウお父さんは24年間頑張ってきて、ようやく息子と腹を割って話し、ユイお母さんと出会うことができた、というシーンでもある。…ゲンドウさんがユイさんをハグした瞬間に、初号機と十三号機が自らモズのはやにえになるけど、てっきりそういう衆人環視の中でプレイを始めたのかと思った。
・そして、例の砂浜のシーン。
 旧劇の「あの」シーンの風景そのまんま。しかし、言っていることは素直な好意と別れの言葉。このシーンで我々はようやっと、24年前の夏の日にケリを付けることができたんだ…。

ぜーはーぜーはーぜーはー。
思い返せばこれだけ旧劇を塗り替えようとする要素がある。それは登場人物皆の選択の差であるし、監督の心境の変化でもあるし、そして僕ら観客の変化でもあるだろう。
登場人物たちはこの14年、あるいは24年で大なり小なり成長した。立派な大人になったし、あるいは、大人にはなれずとも人と関わっていくってどういうこと、を理解することができたはずだ。
それは観客だった僕らも同じ。24年前、あの赤い怒涛のような旧劇を見て呆然とし、少し大人になって、いろいろ考察を見て納得してから冷静に見返してみて、「強烈なくらいまっすぐ「僕は人間が嫌いですが好きです」と言ってるな…とんでもねえ悪趣味だが!」と評価を30度くらい変え…そうこうしているうちに就職して大人の世界で生きるようになった。いろんなことがあったはずだ。でかいイベントではリーマンショックだの例の地震だの。ミクロなところだとクビになって転職するはめにとか、結局シンまで見ることなくガフの扉の向こう側に行った友人が出てしまったとか。仕事先でも様々な人・モノに出会った。どうあっても、さまざまなものが変わらざるを得なかった。
…その果てがこのシン・エヴァであり…最後の宇部新川駅のパノラマであり…走っていくシンジさん28歳とマリさんXX歳だ。
そこだけ切り取るとなんてベタな、と思わなくもないが…考えてもみてほしい。長い長い戦いの果て、しかもあるパターンでは状況すべてが敵だったりするわ、あるいは意に沿わず世界を滅ぼしたりするわ、目の前で仲間がグロ死したりするわ、さらには結構な割合で自分自身(この場合アスカとかレイとかも入る)との葛藤もあるわの何重苦の中過ごしてきた彼が、やっとありきたりな幸せを手に入れることができたんだ。そのくらいの役得はあってもおかしくはないと思うがねえ?
ともかく。ここまで見てきて、映画からは「シンジくんと我々は14年かけて、あるいは25年かけて紆余曲折しながらここまで来ました。あなたの25年はどうでしたか?」と聞かれている気がしたんだ。…いやいや。「25年かけてエヴァ三昧かおめでてーな!」という言われ方ではなく。
聞かれてこっちが25年分のリアル出来事を思い出しつつ、ぼそぼそとこれまでの軌跡を話すと黙って聞いていてくれるような。「俺は加持さんとかミサトさんのような…あるいは今見たトウジケンスケのような良い大人になれただろうか?」と問い返すと「…もうちょっと頑張ろうか」とやや困った笑顔で言われるような。そういうトーンの「どうでしたか」だと思ったよ。

それはそれとして、最後のシーンのシンちゃんは声低くした緒方司令か、さもなきゃマリさんの中の人の旦那にやってもらってリアル夫婦感を醸し出すとかしたらどうだったのとは思わなくはない。

(9/22追記)
Amazon primeで何度か見直したけど、何回見てもシンジくんとマリさんが画面から捌けたあと、流れてくるOne Last Kiss…からのBeautiful worldを呆然と聞いてしまう。ただその呆然は、旧劇のときや、Qまでの新3作のときに感じた「俺は何を見せられたんだ…?」という困惑とは全く違う呆然だ。ああこれで全て終わってしまったなと言う、魂にすとんと落ちる納得の上での呆然。Beautiful worldのラストでたっっっぷり取った余韻も、終わった感を増幅する。

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