見出し画像

時代に翻弄されたものの悲哀について 「銀河英雄伝説 Die Neue These」

すでに存在する作品をリブートするからには、何か独自の存在理由がなければなりません。それがなければリブートする意味がありませんものね。

「なつぞら」以降の数十年でアニメーション技術は大幅に進化したとはいえ、技術を大仰にご披露するためだけの作品には何の意義もありません。特に、こんな壮大なサーガを手がけるからには、作り手さんも相当の気概がなければ引き受けなかったはずなのです。

今回の「銀英伝」多田版は、これまでフォーカスされることのなかった「たまたま時代の変換点に生まれ落ち、時代の変遷に取り残されてしまった人々」への光の当て方が新しいと思うのです。

シーズン1では、アンスバッハのような(後日歴史を変えてしまった)人物の忠義に時間を割いたことが印象的でした。アンスバッハにはアンスバッハなりの義があったのだ、人間って多面的なんだ、と改めて思い知らされました。

あと、地味だけれども大切な人物、失われて初めてその大きさが分かる人の代表みたいなフィッシャーの人となりが、早い段階からきっちり描かれていたのも印象的。

そして今回のシーズン2、1発目。

今回もやはり、時代に取り残されてしまった周縁の人々の終焉に、これまでなかった視点が入っていたように思います。

ブラウンシュバイク公の娘と、リッテンハイム公の娘さん。どちらも皇帝の血を引く方々ですが、至尊の冠をかけて血の争いをしているのは、あくまでも父親たち。彼女らは、従姉妹(又従姉妹かな?)として幼馴染として、多分ずっと仲良しだったんです。そりゃそうよね。なかなか同じ立場のお友達なんていないでしょうから。そんな一瞬が切り取られていたのが、ハッとしました。

後に色んな形で利用されてしまうエルウィンの人となりがこの段階でかなり前面に出ていたのも興味深い。これは映像ならではだと思います。台詞は一切ないのですが、映像で「ただの(本当にただの)甘やかされた子供」感が出ていました。

イゼルローンをヤンの策略でむざむざと失い、その結果ラインハルトに帝国艦隊司令官の座を明け渡すことになってしまったミュッケンベルガーが、ラインハルトの才能をきちんと評価していたことも印象的。

ヤンの奇策にまんまとひっかかり、貴族としては面目丸つぶれなはずなのに、そこを飲み込んで、オフレッサーにラインハルトの才について諭します。ラインハルトの才能については、オフレッサーも感じているんです。無意識か意識もあるのかは分かりません。でも、今までの貴族社会の考えから脱却しきれない。その苦悩の片鱗が見え隠れしていたように思います。

だから彼は戦うために、薬に頼らなければならなかったのかも知れません。そうでもしなければ、自分の心にひっそりと巣食う、でもじわじわと広がっていく「ゴールデンバウム王朝」への疑問を抑えきれなかったのかも知れません。

ただのフリカッセ残虐野郎だったオフレッサーについて、少し考えを改めました。(全てはわたしの妄想かもしれませんが)

映像表現で面白かったのは、ルビンスキーが話す「地球教猊下」の表現。もはや人の形すらしていない、ただの怨念や思念の残滓。それが生身の人間を操っているのです。

怨念が人を操ると、時として人が想像できないような行動が生まれます。これからの地球教やフェザーンの立ち位置を知る者として、そのメタファーにぞっとしました。

小説にも表現されていないものを拾おうとしている多田版の目指している形が、今回の作品に色濃く出ているように思いました。

全体像としては、ラインハルトが過去の象徴であること。過去を拠り所とし、過去を打破できてしまうともはや虚無である、という感じがよりくっきりしていました。

ヤンも昔は歴史という「過去」にしか興味がなかったのだけれど、ユリアンという「未来」が登場した結果、俯瞰した過去だけではなく、未来にも目を向けるようになります。どんなに無能だと思えても、民主主義の方がいくばくかマシ、求めているのはたかだか50年の平和だけれど、それを皆が順繰りに願えば平和な時代は永遠に続くのではないか。そう未来に目を向けたヤンとラインハルトの対比が印象的でした。

ヤンは「情操教育によいだろうから」とキルヒアイスとの捕虜交換の儀にユリアンを同席させますが、その場でキルヒアイスがユリアンに直接語る「頑張ってくれとはいえません。でも、元気でいてください」の場面は、過去から未来へのバトンタッチの種植えのシーンであり、ヤンのセリフを追加してまでそれを表現しようとしているのが多田版の意義なのではないかしら。

うん、ちゃんとフォローしよう。次も見よう。

画像1

次回はこの椅子で写真撮らねば。


言葉は言霊!あなたのサポートのおかげで、明日もコトバを紡いでいけます!明日も良い日に。どうぞよしなに。