奇跡の再会
奇跡はそう起こるものではない。
インドネシア人のカップルとミラノで出会った。その日私は本来ミラノではなくドイツのケルンに行くはずだったが夜行バスに乗り遅れてしまい、ミラノで足止めとなった。
時刻は23時。泊まる宿のあてもないまま鉄道駅で途方に暮れていると、バックパックを背負ったカップル。これから宿に行くならついて行ってもいいかと聞くと彼等は快く承諾してくれた。
それが彼等との出会い。彼等について行き安宿を取ることが出来た。当事はネットが容易に使用できない時代だった。頼りのネットカフェも夜中だったため閉まっており、治安のよろしくないミラノ駅で野宿というハードモードを覚悟していたが、本当に助かった。それにこの宿、見た目が完全に民家で、自力で探すのなど不可能だった。
嬉しさのあまり彼のバックに書き置きと共にチップを入れておいた。
次の日の夜、血相を変えて彼がやってきた。
「気持ちだけで充分だよ! ありがとう」
と言ってチップを返金してきたのだ。何と言う優しさなのだろうか。少し大げさかもしれないが、命の恩人とも言って差し支えない行為をしてくれたにも関わらず
「金はいらん」
顔は全然格好良くないが不思議と月9の主演に見えてきた。
別れの時、インドネシアか日本で再会したら恩返しするんだとFacebookを交換したのだった。しかし、何日たっても連絡が来ない。一時の出会いなんてそういうものかと自分を慰めた。
旅をしていると色んな人に出会う。その方々との連絡手段はFacebookがとても簡単であり、出会った人には教えていたのだが誰からも連絡はない…。昔からクラスのお調子者として名を馳せていたが、まさか知らぬ間に旅人の中で嫌われ者になっているのか!?
ある時、私の名前をその場で探した用心深い人がいた。すると、全く出てこない。ようやく犯人が分かった。そう、悪かったのは私。名前を検索されないように設定していたのだ。インドネシア人カップルもそれが原因でコンタクトが取れなかったのだ。
最悪
あれから約一ヶ月が経った。場所はイタリアから遥か遠くのスコットランド・エディンバラ。本来、行く予定のなかったエディンバラだが旅先で出会った登山家に勧められて急遽ルートを変更して訪れていた。
エディンバラから夜行バスでロンドンに向かう為、バスターミナルで待機していると何か見覚えのある顔。お互いに誰だろうかと言う感じである。すると今度は物凄く濃い顔立ちの男。この顔は忘れない。そう、彼等はあのインドネシア人のカップルだったのだ!
奇跡!
すぐにFacebookの件を謝り、今度は彼等の名前をフルネームで教えてもらった。これで未練はない。
思えばケルンに行く予定だったあの日、ミラノで出会った彼等と、行く予定のなかったエディンバラで再会するとは。
奇跡って本当にあるんだね。
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