2020京都市長選挙③ 考察:評判の悪い候補が当選した理由
2020年2月2日投開票の京都市長選挙は「失言に加え、こじらせ広告が炎上した、評判の悪い現職候補の勝利」に終わりました。今回の勝因について、無党派のビジネスマンがデータに基づいて考察した記事です。
私の立場は
・支持政党無し
・行政関係者ではなく、ビジネスの人間
・メディアの人間でもない
ので、政策や情勢については政治分野の専門家にお任せします。
「組織力」「共産党アレルギー」いずれも正解なのでしょう。
私は事業再生の専門家として「データに基づいた戦略」を突き詰めることで、企業(特に地方)の業績を改善してきました。そこで、「人口の動き」のデータに着目し、今回の「他地域の方からするとナゾな」結果を考察します。
「地方の縮図」のような結果ですので、京都以外の方にも読んでいただければ幸いです。
「顧客」を正確に理解していたのは現職だった
8.5万人 減
これは何の数字でしょうか?
答えは、現職門川候補が2008年に市長になってからの12年間で減少した、18~39歳の京都市民の数です。下京区全員より多い人数です。
過疎地の話ではありません。大学や上場企業、ベンチャー企業が多く本社を置く、政令指定都市の話です。
55.8歳
今度は何の数字でしょうか?
答えは、「投票に行った人の平均年齢の推測値」です。
今回の市長選挙の世代別投票率は公開されていないため、過去の全国衆議院選挙(投票率53%)の結果からの推測ですが、仮説として置いてみました。
会社の社員平均年齢が56歳だったら、皆さんどう思うでしょうか?
以下、グラフにまとめました。
投票に行った人の45%が60歳以上です。
↑ 投票に行った人の構成推測値のグラフ
↑ データの内訳
「若者は区一つ分流出し、投票率が高いのは50歳以上」
これが「顧客」である有権者の姿です。
改めて、3候補のマニフェストを見てみましょう。
真っ先に「高齢者福祉」を挙げているのは現職門川候補です。
そして、マニフェストで最も分量を割いているのは教育や子育て政策ではなく、高齢者にとって身近な「観光政策」でした。
子育て、将来世代のための財政再建、産業振興は、60歳以上の顧客たちの「身近な問題」ではありません。
実際に、出口調査で最も関心がある政策は?という質問の回答のトップは「高齢者福祉」でした。
その「顧客像」をよく理解していたのが、現職である門川候補でした。
ワシらをよく分かってはんのは門川はんどすえ~
有権者の声を一行にすると、こんな感じでしょうか。
新人候補が懸命に「将来世代のための財政再建」を訴えたところで、その声を受け止める世代は既に8.5万人、市内から流出しています。
恐らく、今回の選挙結果を受け、若い世代の流出は進むでしょう。
↑ 世代別スマホ保有率 2017総務省「通信利用動向調査」
上記のグラフのように、スマホ保有率は60代の方から大きく下がります。
SNS上で政策論争が盛り上がっても、
門川候補の失言や「例の広告」問題でネットが炎上しても、
60代以降の「顧客」には届きません。彼らが読むのは新聞です。
(新聞は実質、50代より上の世代が読んでいるメディアです/新聞協会統計より)
新人候補がこの構造の中で選挙に勝つには、
・高齢者層にとっても若者の流出が深刻な問題であることを理解してもらう
・高齢者政策をマニフェストの中心に据える
・ネットも大事だが、ネット以外のツールを活用して高齢者にアクセスする
・若者を他地域から呼び込む
・投票率を現状から10ポイント以上上げる
くらいしかないという、シビアな現実が見えてきます。
投票率が上がってほしいのナゾ
今回、投票率は40%と前回より5%上がった、となっていますが、未だ40%です。また、過去の衆議院選挙の京都市の投票率は全国平均より低いです。
私は、投票日前の投票率予測について取材を受けた際の現職陣営の「投票率が上がってほしい」というコメントに違和感を覚えました。
新聞等で「例の広告」が炎上し、組織票頼みの陣営としては無党派には選挙に行って欲しくないのが本音のはずです。
また、出口調査の20代の回答で、意外に現職候補が支持されていたのも不思議でした。
「親や上司に言われて投票所に行かされた20代がいるのでは?」
「隣近所でお年寄りを動員した?」
こう考えると、2つの疑問がつながりますが、推測の域を出ません。
※ 個人の見解です
私は特定の候補を応援する人達がSNSを感情的に炎上させているのを見て、これはアカンと思いました。「客観的ファクト」に基づいて政策的議論ができるよう、中立の立場での発信が大切だと考え、最初の記事を書きました。
しかし、現職陣営の「例の広告」のあまりの悪趣味さに「現職候補がとことん新人候補に追い詰められることが健全なガバナンスだ」と思い、現職に対して厳しめの発信を途中から行うようになりました。
私には子供がいますが、少なくとも責任ある立場の大人が「自分と反対意見の人間を露骨に中傷して排除する姿」を見せるのは教育上よくないです。
ところが、結果は皆さんご存知のとおり、2008年の選挙ほど現職候補は追い詰められませんでした。
「若者が減る町では、高齢者政策を重視しないと選挙に勝てない」
「不祥事、失言、不適切広告で炎上しようと、現職が強い」
このシビアな現実を、改めて思い知らされました。
毎年15万人、人口が首都圏に集まっている状況の中、京都もまた、「東京に人材を供給するだけ」の町になっていくのでしょうか。
財政は改善されず、再生コンサルのクライアントになるのでしょうか。
私のような子育て世代は、子供の分含めて選挙権が欲しいと個人的には思います。
例えば子供が1人いる3人家族なら、一家で3票。
将来を担う子供達の民意は、今の仕組みでは拾われません。
一方、新人2候補も必死に「改革」「変化」を訴えすぎたかもしれません。
事業再生の現場でもなぜか「改革」という言葉にアレルギーがあり、私は極力使わないようにしています。
「改革」という言葉よりも「紙の稟議書を電子化することから始めましょう」と言った方がすんなり受け入れられるという不思議。。。
これは私もよく理解できていません。
最後に
今回で京都市長選関連の記事は終わりです。まさか3つも記事を書くと思っていませんでしたが、実際の候補者の方々にもリアクションしていただくなど、私も大変勉強になりました。
次回は、山形の"ある百貨店"の倒産劇について書く予定です。
2/16追記
改めて考えましたが、
「若者が流出する地域での選挙」においては、高齢者へのアプローチ勝負になるので、ネットリテラシーの高い陣営ではなく、
・集会を沢山できる組織力
・新聞広告を打てる資金力
のある陣営が有利になりますね。
高齢者の方が若者の流出に全く危機感を持っていないとも、若年層が自分達の町に無関心な人ばかりとも、思えないので、この状況を切り崩すには、「長い時間をかけて自分達の町に関心を持ってもらう」長期戦を挑むことがポイントと思いました。
放っておくとおそらく、若者の流出問題も財政の悪化も大して報じられないと思うので。
参考
http://www2.city.kyoto.lg.jp/senkyo/shitteru_senkyo/ritsu/
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