【ネタバレなし映画評論】ドントルックアップ
『ドントルックアップ』観た。
いやはや…すごかった。
観終わったあとの、あの茫然としちゃう感じ。映画体験としてはすごく貴重だった。
この感覚はなんだろうと思い返してみると、映画というより、ドキュメンタリーを見終わったあとの無力感に近いなと思った。
僕は大学時代に社会学を学んでおり、授業や勉強の一環でいろんなドキュメンタリー作品を観たことがあった。
例えば性的マイノリティ・LGBTと呼ばれる人々が、限られた選択肢のなかで自分らしく居ようともがく様子。
例えばアメリカにおける黒人や日本における在日と呼ばれる人々が、差別に苦しみながら生きる様子。
例えば米軍基地を押しつけられた沖縄の、悲しみと怒りの切実な記録。
それらを観終わったあとのあの感覚。あの無力感の正体は、気を抜くとフィクションにすら思えそうなグロテスクなその内容が、紛れもなく現実であるという事実がそうさせるのだと思う。
すっげー嫌な世界に住んでるな、とか、自分も加害者なんだな、とか、いろんな負の発見が頭の中をいつまでも駆け巡る。
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『ドントルックアップ』はフィクションである。
半年後に地球に惑星が衝突して人類が滅びるという予測を得た主人公達が、対策をするために政府やマスコミに訴えかけるも、選挙の武器にされたりメディアのネタにされたり経済のタネにされたりする。
そして着々と迫る人類消滅の危機に、彼らはどう立ち向かうのか…という話。
それは、これまでの映画のように、迫り来る脅威に人類が一致団結するなんてことは一切ない。
もし実際にこんなことがあったらその辺の映画のようにうまくいかないよね?こうなるよね?というメタな視点で表現されている。画期的なブラックコメディである。
つまり、惑星が衝突するという設定自体はフィクションであるものの、
現実の僕らは、現実の社会は、現実とは、所詮こんなものなのだ!という強いメッセージを持った作品なのだ。
そしてその現実は、まさにこのコロナ禍で、僕らは嫌というほど目にしてきた。
新型コロナウイルスという人類にとっての脅威。
その脅威に晒されながらも外出を止められない社会や人々。癒着や利権にまみれた政策。反ワクチンだとかコロナは嘘だとか叫ぶ人々。満足にいかない補償。止められない医療崩壊。
いつまでも団結できず、繰り返される感染爆発。
なんという説得力だろう。
『ドントルックアップ』が描き出した世界は、まんま、僕らが生きるこの世界そのものなのだ。
もうドキュメンタリーじゃん、これ。
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無力感を覚えずにはいられない作品だが、その中でも個人的に素敵だと思った場面はいくつかある。
映画自体はXデーまでのダイジェストのような作りではあるのだが、要所要所で人間の豊かさを見過ごしていないところは、それはそれで共感性が高くて良かった。
特に最後のほう。その瞬間がくる直前まで、何が好きだとか、何に拘ってるとか、そんなことを語り合う場面がある。
人間ってそうだよな…と思わされる最高のシーンだったと思う。
ろくでもない世の中だけど、人間には色々あって、人間は色々あるからこそ、世の中は面白かったりする。
それもまたリアルだ。
ちなみに、ディカプリオの最後のあの最強に泣けるセリフはアドリブだとか。やばない?
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ブラックコメディではあるけれど、個人的には、笑えるところが全くなかった。というか現実のドキュメンタリーとして真面目に受け取りすぎて、正直それどころじゃなかった。
でも誰もが受け取りやすいコメディタッチな表現ではあったし、ディカプリオの役作りも本当に凄かったし(若い頃のジャック・ブラックかと思った)、あまり人を選ばないような観やすさはあると思う。
いやほんと、衝撃作だった。オススメです。
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