マガジンのカバー画像

小説

6
執筆した小説をまとめています。
運営しているクリエイター

#ショートショート

[小説] 流行りの番組

 男は暇をもて余していた。

 仕事をするという概念はもうない。人類はあらゆる事務と肉体労働から解放されていた。この社会には、作業内容や管理目的に応じてたくさんのAIが存在する。それぞれ独自の学習方法を持ち、最適化して人の代わりに働いている。人類は自分の行動に責任を負う必要が無くなり、多くは娯楽に耽るか芸術に身を捧げるかという世の中であった。

 手持ちぶさたな男はテレビをつけた。スポーツ番組から

もっとみる

[小説] 目の病気

エヌ氏はたった今ディスプレイに映った文章を一通り読み上げた。

「本日の活字数制限に達しました。業務を終了してください」

 エヌ氏はメガネの位置を直すために一呼吸すると、早々に帰る支度を始めた。これ以上仕事を続けると労働文字基準法に違反してしまい、下手をすると首になってしまうからである。わざわざ働いてまでルールを破ろうとも思わないので、残ろうとする者はいるわけがなかった。

 エヌ氏は会社を出た

もっとみる

[小説] 螺鈿の思い出

私は母方の祖父母の家に来ていた。玄関から入って、廊下の途中にある階段を上がったところに、祖父の部屋はあった。中には家具も小物も少なく、無駄なものはいらないという性格がよく表れている。あまり掃除されていなかったのか、いたるところに埃がたまっていた。

 祖父は普段から自分のものは自分が管理すると言って聞かなかった。祖母が先に亡くなってからは、母が時折帰ってきて家中を掃除をしていたらしい。それでも、祖

もっとみる

[小説] 糸

自分だけ変なものが見えるという話は案外巷に溢れているらしいです。霊感だなんだと言って、話題の種にするものなのだそう。

 そうはいっても周りに直接打ち明けることはなかなか出来ないものです。私だって、変な子だと思われるのは嫌だったのですから。

 私はスマホのメモ帳に日記として残すことにしました。いつかブログやSNSのネタにでもするつもりで。

 「それ」が見えるようになったのは、数日前からでした。

もっとみる