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真夜中の夢ラジオ

【試聴フルコーラス】https://dosgatos.bandcamp.com/track/--37


童話 ホルモンの森 06 作:MONTAN

●真夜中の夢ラジオ

大きなホルモンの木のそばには、
がらくたのような二階建ての家があります。
双子の白ネコ“ホル”と“モン”は、ホルモン屋をしながら、
ここで暮らしておりました。

ホルモン屋はお休みですので、
ホルは昼間からいつものように、
ネコネコの町へ遊びに行っておりました。

モンはホルモンの木を見上げていますよ。
ホルが歌うと落ちてくるホルモンの実。
食べた者に不思議な力を与える実なのです。

モンは木の上が気になって仕方ありませんでした。
ザワザワと葉っぱが風に揺れていています。
「あの中に、まだ落ちてこないホルモンの実がいっぱいあるのかもしれない。」
そう思うと、モンは太い幹に飛びついていました。
前足と後足にしっかり爪をたてて、
ぴたりと幹にくいついて、よじ登ろうとしています。
枝は高いところにしかなく、まっすぐに伸びた幹に爪をくい込ませて、
少しずつ登り始めました。
ふだんあんまり木登りなどしないので、モンはだんだん疲れてきました。
木の枝はもう少し上にありますよ。
「あそこまで行ければ休めるのだけど…あきらめようかな。」
なにげなく下を見ると、かなり高いところまで来ていて、
怖くて降りることもできません。
「ああ、困った。どうしよう。」
幹に爪をひっかけてしばらくぶら下がって休んでいたら、
“ガンバレ、ガンバレ!”
上から誰かの声が聞こえてきたように思いました。
モンは少し前足に力が湧いてきました。
ゆっくりとまた、ひと爪ずつ登っていきました。
やっとのことで、最初の枝にたどり着きました。

モンは太い枝の上に立って、おいしげる葉っぱの中に、
ホルモンの実がないかどうか探し始めました。
でも、枝の先の方にもそれらしいものはどこにもみつかりません。
「あれっ?おかしいなぁ。あの実はいったいどこから落ちてくるのだろう?」
枝は毛布のように緑の葉っぱだけをいっぱいまとって、
ただザワザワと揺れているのでした。
「それと…さっきの声は空耳だったのかな…?」
モンは枝の先に腰を下ろすと、遠くのネコネコの町を眺めていますよ。
高いところから景色を見ていると、とても気持ちがよくなりました。
たいていのネコはそんな気分になるのです。
もう少し枝の先の方に、ホルモン屋の二階の屋根が見えました。
モンは、屋根の上にも行ったことがなかったので、
そっちにも行ってみたくなりました。
モンは注意深く枝の先から屋根に飛びおりました。
屋根の上は暖かくて日向ぼっこには最適ですよ。


モンはお腹をだして寝転がり、空を見上げました。
「ああ~!こいつは極楽だにぁ~!」
モンはゆっくり流れる薄桃色の雲を眺めていると、とても気持ちよくなり、
そのうちそのまま、屋根の上で眠ってしまいました。

「クシュン!」
モンが目覚めると、空はすっかりコーヒー色。
「ああ、寒い。」
腹時計ですと夜の9時過ぎ。
モンがあたりを見回すと、屋根の上の方にかすかな光を感じました。
「あれはなんだろう?」
近づいてみると、屋根のてっぺんに、さらにドーム型の小さな建物があって、
光はその中から漏れておりました。
ドームからは小さな望遠鏡がつきだしています。
モンは、その隙間から中をのぞきこみました。
中には、大きな耳の小さなネズミがいて、
なにやらコマゴマとうごめいております。
そんな姿をみていたら、なんだかむずむずして、
モンは、前足をドームのすきまから突っ込んで、じゃれ始めました。
「こらこら、邪魔しちゃいかん!」
そんな声が中から聞こえるやいなや、
モンはすぅ~っとドームの中に引きずり込まれてしまいました。
気が付くと、モンは床にはいつくばっています。
「いったい、何を探しているのだ?」
さっきまでとても小さなネズミが、
モンを見下ろしていますよ。
モンは慌てて立ち上がります。
自分より少し背の高いネズミは、
「このいたずら坊主が!勝手に入って来よって!」
「あれ?ボクはいったいどうしたのだろう?」
モンは、自分の体が小さくなってしまったので、びっくりしていますよ。
「驚くことはない。このドームの中に入るとそうなるのだ。
小さくなれば、少ない食べ物でも腹いっぱい食えるであろう。
ネズミのジョージ考案の便利なシステムなのだ。」
「へぇ~、君はジョージというのだね。ボクはモン。ジョージは、すごい科学ネズミなのかな?きっとノーヘル賞ものだよ。ヘルメットをかぶらなくて済むのだよね?夏は暑くて大変だし、その大きな耳だとかぶりにくいから、よかったね。」
モンは興奮しているせいか、ペラペラと訳のわからない事をしゃべりまくっています。
「天文学が専門である。はて?お前のしゃべりはどこかで聞いたことあるぞ!」
ドームには巨大な天体望遠鏡があり、
ここが天体観測所だということがすぐに分かりました。
「そんなはずはないよ。だってジョージに会うのははじめてだもの…。」
「思い出した!お前は真夜中3時にラジオ放送をしているヤツだ!」
「あっはぁ~、そんなわけないさ。その時間ならボクはとっくに寝ているもの。」
「いや、ワシの耳はごまかされんぞ!ホルモン通信などというふざけた番組を放送しているだろう!」
「ホルモン通信…?なんだよ、それは…?ホルは双子の片割れだけど…さぁ。」
「信じられないならば、お前の耳で確かめればよい。真夜中3時にあのラジオから放送が流れてくるぞ。」
ネズミのジョージが指差した方向には、木製のテーブルがあり、古めかしいアナログラジオが置いてありました。
「えっ、ボクはそんな遅くまで起きてられないし、もう帰らないと…。」
モンがオタオタしていると、ラジオが置いてあるテーブルの向こうにあるドアが開きました。
ドアから入ってきたのはリンゴ頭のリンゴちゃん。
二人分のアップルパイとアップルティーをトレイに乗せて入ってきました。
「あら、モンも来ていたの?なら、もう1匹分用意しなければ…。」
モンはリンゴちゃんを見て二度びっくりしました、だって…。
「てっきり犬に食べられていたかと思ったよ。よかった、生きていたのだね!」
「勝手に殺さないでよ。でも人形の人には秘密にしてね。ここは居心地がよいから、しばらく彼のアシスタントをしているの。」
それから3人は、リンゴちゃんが用意したアップルパイとアップルティーをいただきました。
「リンゴちゃんのアップルバイは美味しいなぁ!」
モンはお腹が減っていたので夢中で食べています。
「そういえば昼間、モンは木の幹にしがみついていたわね。可笑しかったわよ。」
「あれ?ボクを励ましてくれた声はキミだったのか!」
「なんだ、お前たちは知り合いだったのか!」
テーブルを囲んで2匹と1個の会話が弾みます。
「ここに入ったら朝にならないと出られないのよ。」
「えっ、そうなの?じゃぁしょうがないから、ボクはここで寝ようかなぁ。」
「こらこら、寝てはいかん。3時に始まる放送をきくのだ!」
「ホルモン通信っていうんだ。おもしろそうね。私もきかせてもらうわ。」
というわけで、モンは放送が始まるまで起きていることにしました。
リンゴちゃんは後片付けにキッチンに向かい、ジョージは天体望遠鏡をのぞき込み、
なにやら仕事をはじめました。
お腹もふくれたモンは、床に寝転がってぼんやりしていました。
“ラジオからボクの声が聞こえるって、どういうことだろう?”
やがてモンの意識が無くなったころ…。
「おい、起きろ!そろそろ始まるぞ!」
ジョージに頬をたたかれて目覚めると、テーブルの上には、
小さく切ったチーズと紅茶が用意され、スタンバイOKです。
まもなくラジオから、おなじみのテーマ曲が小さなノイズまじりに流れてきました。
「ホルモン通信~~。」
ホルの声が聞こえてきましたよ。
「今日はモンがお休みなので、ボクひとりだよ。むにゃむにゃ。」
モンはラジオからホルの声が流れてきたので、驚きましたよ。
椅子から転げ落ちて尻もちをついています。
「モンがいないので、今日はボクの秘密の面白い話をしちゃうからね。むふふ。」
「あらあら、楽しみ。小森のおばあさんの話かしら?」とリンゴちゃん。
モンはガバッと立ち上がり、テーブルの上のラジオに顔を近づけて…。
「おーい、ホル。聞こえるかい?モンだよ!」
「えっ?何?何も聞こえないよ。むにゃむにゃ。」
とラジオからホルの声。
「なんだ?聞こえているのか、聞こえていないのか、どっちなのだ?」
ネズミのジョージは天文学より難しい問題に頭をかかえております。

ホルは夢の中、ひとりだけの放送局で楽しんでおりました。
小森のおばあさんのことを楽しそうにしゃべった後、
新曲「さよならマイフレンド」を熱唱して番組は終わりました。
☆★☆★☆★☆★
「考えてみれば、お前はここにいるのだから、
ラジオからお前の声が聞こえるわけがないのだな。」
ジョージはチーズをかじりながらつぶやきました。
「生放送なの?」とリンゴちゃん。
「言葉の最後に“むにゃむにゃ”って言っていたから、寝言じゃないかな?」
モンの言葉に1匹と1個はだまってうなずきました。


6話 了

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小説「ホルモンの森に消えゆく人たち」

Dos Gatos「ホルモンの森」の童話から派生したリアル世界のお話です。

こちらもあわせてお楽しみください(^ω^)

★note: https://note.mu/montan/m/m6308c23f9e5e

★MONTAN BLOG:http://montan18.blog.fc2.com/blog-entry-287.html


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