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この人が薦める本なら

 まず繰り返しのお知らせから。フォークNに掲載中の『算命学余話』は6月19日が購入最終日です。その後は閲覧しかできなくなり、閲覧も8月21日までで運営自体が終了するので、読みたい方は急ぎ購入し、すぐに読むなりどこかにコピーを保存するなりして対策を採って下さい。今後『算命学余話』は「土星の裏側note」に全面移転する予定ですが、件数が多いので時間がかかります。折しも宇宙人が動けなくなる酷暑が近づいており、移転作業は難航が見込まれます。皆さま、ご留意を。

 さて先日紹介した『文学キョーダイ!!』を読んでくれている友人から感謝の言葉が届いた。この種の良書には著者が感銘を受けた別の作家の作品の読後感想が多く記載されていて、そうした生きた書評を読むと読者である自分もその作品を本編をまたいで読んでみたくなり、結果的に読書の幅が広がる。その点に関する謝辞である。エッヘン、とドヤ顔する宇宙人。『文学キョーダイ!!』は新刊だが、もう少し古い同種の良書としては、米原万里の『打ちのめされるようなすごい本』もお勧めだ。こちらは全編が書評でできた分厚い文庫本だが、読めば読むほど読みたい本が増えていくという恐ろしくも有難い本である。勿論、米原万里自身の文章も読んでいて楽しい。「この人が薦める本ならきっと中身が詰まった良書だから是非読もう」という気分にさせてくれる人物がいるかいないかで、読書生活は違ってくる。皆さんはいますか、こういう貴重な存在が。
 かく言う宇宙人も『文学キョーダイ!!』で紹介されていた青崎有吾の短編集『11文字の檻』を読みたくなり、その中の「噤ヶ森の硝子屋敷」という作品に以下の文章を見つけ、うむうむと頷いた。ざっと引用しよう。

――80年代後半に新都庁舎を建てることになって、設計者を決めるコンペが開かれた。…当時は建設技術の発達もあって、超高層ビルがあちこちで建てられていた。コンペ応募者たちのデザインした庁舎はどれもそのブームに乗った超高層ビルで、そろって「日本一の高さ」が売りだった。だが黒壺(架空の人物)のデザインだけは違った。…彼女曰く「超高層ビルは虚勢だ。技術が進めばほかに追い抜かれる。無価値になるとわかりきっているものをわざわざ建てる必要はない」…結局丹下健三の案が採用され、1990年、高さ243メートルの日本一高いビルが竣工した。そしてわずか三年後、横浜ランドマークタワーに追い抜かれた。そのランドマークタワーも、大阪あべのハルカスに抜かれた。スカイツリーもドバイのブルジュ・ハリファに遠く及ばない。高さの競い合いは不毛だ――

 どうですか。いい事言うよね。宇宙人の自宅の向かいにマンションが建った時も、こちらが12階建てだったからその一階多い13階建てになったし、その隣の新たなマンションは14階建てになった。なんと幼稚な。たった一階分高いのがそんなに虚栄心を満たすのか、と宇宙人は鼻白んだものだが、誰も同じことを指摘しない。マンションでこうなのだから超高層タワービルなど尚更で、高さを競うそのイタチごっこの不毛ぶりを見苦しく眺めて来たのだが、青崎氏がようやく指摘してくれたよ。こういう作家は好きになる。「言ってやって、言ってやって」なのだ。デカければいい、長ければいい、なんてナニの自慢みたいじゃん。レベル低いよ。皆さんも同感なら、そうした不毛な競争や建築物に白い目を向けてくれたまえ。それが世の風潮になれば、社会全体のレベルが底上げされるであろう。

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