信頼関係がないから消去法か
わが町内にいつの間にやらロピアなる量販スーパーができていた。町内には既にオーケースーパーがコロナ前から開業し、ロープライスを謳って零細の宇宙人の慎ましい食卓を支えてくれているのだが、ロピアは精肉類をファミリーサイズで安く提供するのがウリという。普段肉を食わない宇宙人には無縁な気がするが、後学まで覗いてみた。なるほど、行ったことはないが世間で話題のコストコに似た大振りのパッケージなのだ。精肉に限らずデリカや弁当もサイズが巨大である。沢山買わせる代わりに値段が割安なのは確認できたし、デカ盛りの弁当類は気前よく見える。品揃えもオーケーとは違うので試しに買ってみた。巨大タコ焼きに見えるが実はつくねというおかずパック。テニスボール大のつくねをソースとマヨネーズで網がけしたものが六つも並んでいる。一人で食べる量ではない気がするが晩ご飯のおかずに。他にも珍しい惣菜や菓子もあってエンタメ感があるから、たまに遊びに来よう。
店を出ようと階段を下りたらティッシュを配っていたので、無意識に手を伸ばして受け取る宇宙人。裏返すと「三等」とあり、うまい棒をくれるというので受け取る宇宙人。そしてそのままモバイルの乗換案内を聞かされる。「1ギガ0円」の契約を一方的に破棄した楽天モバイルには腹を立ててきたので、いずれ他社へ乗り換える気ではいた。通信も悪いし。今すぐではないが、他社が現状どういう差別化を図って競合しているのか知っておくのもよかろう。
ハタチかそこらの勧誘員のセールストークを無表情で聞いてやる宇宙人。看板に掲げた月額一覧表を目で追って比較する宇宙人。これといってお得感はない数字だが、勧誘員はしきりに「こうすればこれだけお得」「こういう使い方ならこっちがお得」とマニュアル通りのセリフを澱みなく吐き続けている。だめだよ、そういうんじゃ。こっちは楽天モバイルに一度裏切られているから、また同じ目に遭うんじゃないかという猜疑の目で表示を見上げているのに、独りよがりの台本読みなんかしたって相手は耳を貸してくれないよ。
友達の少ない宇宙人は電話をしないし、動画もゲームもやらない。だからギガは小さくて構わないが、今の楽天は3ギガを超えると料金が自動で上がるくせに、1日スマホを全く使わなくても使用量を食って月末には3ギガすれすれまで来るのだよ。零細の宇宙人は安心して使えん。こういうユーザーの不満を解消してくれるプランがあるなら検討するが、恐らく宇宙人のようなタイプのユーザーはごく少数だし、儲けにもならないのでカバーするプランがそもそもない。最も適当なプランでも結局今より高い月額を払わされるだけでメリットは薄い。その薄いメリットをなぜ君はさも大特価のように強調するのだね。
それはマニュアルのセリフを繰り返すよう教育されているからだ。そんなんじゃ信用されないのだよ。「契約時はこのお値打ちの月額で、半年後にはアップするけど、トータルで見れば今の楽天よりおトク」だなんて、結局騙しているのと同じだ。半年後には顧客が損する道を選ばせているのだから、自分達の利益優先で消費者の損得など二の次なのがミエミエなのだ。増税という言葉は使わないけど事実上増税以外の何物でもない政策を国会で通過させて、国民の信頼を自ら遠ざけている政治家の手法と変わらぬ愚かしさを知れ、なのだ。自分の価値観や都合を押し付ける人間は信頼されないことを知れ、なのだ。君、モテない男だろう。恋愛下手の地球人の皆さんも、こうやって自分の価値観や感情を押し付けるからモテないんじゃないんですか? 『穏やかなゴースト』の中園孔二君のように「相手第一」の献身を見せてくれないと誰にも愛してもらえないよ。
佐藤優氏の闘病記『教養としての「病」』は、最終的に腎臓移植手術に至る佐藤氏とその主治医との間で交わされた医療対談をまとめたものだが、そこには医師と患者の間の信頼関係が丁寧に描かれている。その信頼関係がなかったら、たとえ医療行為が万全であったとしても命を落としていたかもしれないという患者当人の切実な体験と分析は、結局のところ医療だろうと何だろうと人間生活には何よりも信頼関係がものを言うのだ、という結論に辿り着く。佐藤氏の主治医は画一的な診察や治療を行うだけでなく、一人の人間としての佐藤氏を分析し、この人にだけ通じるカルテや処方を用意して医療に臨んだ。それが信頼関係を生んだのだ。選択肢がいくつもある中、我々は一体何を根拠にどれを選ぶのか。その判断基準は人間関係が第一に来る、という実例が闘病の現場を通じてリアルに語られている。
スマホの乗換えは元より、交際相手を選ぶにしても命に係わるほど重篤な話ではないが、選択肢がいくつかある中で自分を選んでほしいと思うのなら、最良のものを求めている相手に信頼してもらえるだけの誠意を示さなければ、相手は思い通りになどなってはくれない。信頼関係が出来上がってもいないのに、カネも時間も預けてはくれない。ましてや命など。それとも何かい。昨今は選択肢ばかり増えたがどれも相手を満足させるものではなく、患者も消費者も恋人募集者も、等しく消去法で「一番マシ」なものを選ぶのが慣例の世の中だとでも言うのかい。それで皆さんは満足なのかい。宇宙人は頭がねじれてとてもセールストークを聞いていられなかったよ。タダでもらったティッシュとうまい棒の手前、1分間くらいは我慢して聞いてやったけどさ。
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