短編ホラー小説 見つからない
あらすじ
ある山荘跡地に隠された財産があると聞いた徹はついに許可を得て山荘跡地を探索する。
副業でも稼げず、時間がないだけの労働に嫌気がさした元カメラマン徹は最後の暮らしを目指すために予算が必要だった。
徹は山荘跡地のそばに美しい森と湖があっても財産を目当てに一人探索を続ける。
しかし、財産を狙っているものは生きた人間以外にもいるようだ。
景気の悪さと藁掴み
やっとたどり着いた。
かつてにぎわっていたある山荘跡地。
間取りにも違和感はない廃墟。
そして眠っている財産を徹は手に入れるのだ!
金欠生活でどれだけ文字通り味気ない毎日を送っていたか知られるよしもない。
徹は賭けていた。
たとえ心霊現象が起きたとしても!
はじまりはある噂からだった。
現在は規制だらけで満足な心霊スポット巡りもできないと飲食店でおそらく二十代前後の大学生達が愚痴っていたのを聞いた。
それだけならよくある話なのだがどうやら規制と心霊現象の噂話にことかないある山荘跡地には『財産』が眠っているらしい。
誰も手付かずの宝石にアンティークの置物やエトセトラ。
山荘跡地の現管理者はそれらの財産を自分のものにはしなかった。
管理者に物欲はない。
本当は手放したいが管理者の家族が狙っているらしい。
現代で変わってしまった身内に財産を荒らされるくらいならと管理者は山荘跡地を映像に収めることで供養と記録をしてくれる人間を募集しているらしい。
大学生達は「心霊スポットって感じじゃないのか。しかもこれバイトみたいじゃない?」と他の心霊スポットの話を始めた。
徹は真っ先に管理者の募集を確かめ、財産を得るためにカメラなどの撮影器具を集めてやってきたのだ。
もう少し誰かが狙いにやってくると思っていたが儲け話に疲れた現代人の中で欲が深い人間は徹のみだったらしい。
よっしゃあ!
これで映像を撮れば俺の一人勝ちだ!
そう思って山荘跡地を管理者が支持したように実況風で記録する。
クマ対策はできるだけされていて、思ったよりも心霊現象や落書きも気にならなかった。
しかし変だ。
こんなにあっさりとしているのに何故誰も財産を無事に得た話が広まっていないんだ?
身内なら心霊現象やクマだの対策してやってくるだろう。
そもそも財産といっても噂通りのプレ値で売れるものばかりなのか?
あれだけ金欠で困っていて落ち着いて考える暇もなく行っている行動なのにだんだん疑問点が浮かぶ始める徹。
「財産はあたしのもんだァァァ!」
一人の女性が刃物を持って唐突に現れた。
ほおら。
なんかあると思っていた。
しかも心霊現象じゃなくて人間。
管理者の罠か?
「あんたカメラなんて撮って心霊スポット巡り?
こんな規制だらけでしかも財産の話が噂になってる場所で何やってるわけ?
まさか、こんなご時世で財産に興味無いとか言うんじゃないよねえ?
でないとここで管理任されてる物欲も何もないあんな人の募集を受けるわけないはずだよ。
だって心霊スポットに財産なんて求めてる場所なんて親族か身内が絡んでないわけないし遊びでここにくる人間はあの人から断れるはず。
あの人のことだから動物対策はしてると思っていつも軽い装備でここにやって来てたんだけど…あんた、利用させて♡」
シンプルに怖すぎる。
やっぱり人間の方が怖いな。
しかも財産独り占めならずか。
二人は山荘跡地を巡り、女性は節度を守らず場を荒らす。
ついでに財産が見つかればいいがうまくこの女性を交渉に持ち込めば分け前をもらえるかもしれないと徹は撮影を続け、彼女に財産を探らせる。
彼女にカメラを向けると鬼のような形相で睨み返した。
「何撮ってんの?
証拠にするつもり?財産を山分けとか?
まあ一人でこれだけ探しても見つからないんだし映像チェックは必要か。
ならあの人にバレないように編集してね?
それが終わってあたしが財産を見つけたらあんたに数年暮らせる額のお礼を渡す。
頼まれたとはいえ勝手に撮影されてるあたしの人権を守ってもらうためにね。」
怖すぎる。
すっかり辺りは夜で、自分達以外は誰もいない山荘跡地というのもあってこれはまずい。
こりゃさっさと撮影だけして管理者からの何らかのお礼を期待するしかないか。
二人は財産を探し続ける。
すると彼女がトイレに行ってくるからと場を離れ、ラッキーとガッツポーズを小さくする。
だが彼女のことだからなんらかの対策があると思ってそのまま彼女がいるときと変わらない動きをし続けた。
しかし何分、何十分と経っても彼女は戻ってこない。
それはそれでいいと思ったが流石に不謹慎と思い、徹は彼女を呼ぶ。
しかし返事はなかった。
また山荘跡地を周回していると一人倒れている姿を発見する。
まさか…な。
徹は恐る恐るカメラ越しでのぞくと底にはさっきの彼女が血を出して亡くなっていた。
そして銃口らしきものを突きつけられる。
「めんどうな人間をやっと始末できた。
ありがとう。
あんたの仕事はここで終わりだ。」
徹は反射で銃口を振り払うとカメラ片手に抵抗する。
管理者が募集をかけて厳選したのにこんな謎の勢力まで現れるなんてやはりあの財産は相当なものなのか?
「てめえ!大人しく殺られてろ!」
いつでも始末できると思われているのかカメラを狙ってこない。
まさか弾を温存しているのか?
証拠をカメラに撮られているというのに。
徹は走り続ける。
銃はまだ打たれていない。
ある程度の機材を捨てて身軽になったあと、山荘跡地のどこかへ隠れる。
それから時間も経過。
銃の持ち主は追っかけてこない。
夜ももうすぐ終わる。
よし。
このまま帰ってしまえば…
「う、うわあああ!」
さっきの人間の声がした。
まだカメラは回っている。
機材は捨てたとはいえ袋などの入れ物だけ。
まだしっかり記録されている。
反撃されないように隠れながら銃を持つ人間の元へ向かうと光か何かに包まれたさっきの人間は震えながら立っている。
「お、お前が…や…かくさ…ま、ま…て…」
銃が落ちていたのでさりげなく徹はそれを拾い、光に包まれる持ち主をカメラを向ける。
そこには灰色の女性の霊が持ち主の生気を吸い取っていた。
よく見るとその女性はさっきまで行動を共にしていたあの人に似ている。
女性の霊がこちらを睨み返した後に怖さのあまりカメラがブレるともうそこには光も何もかもなくなっていた。
カメラには全ての物事が記録されている。
今のうちに!
朝のこと
管理者に映像を渡し、財産は見つからなかったことや死人が出たことを話す。
ため息をついた管理者も財産を探している一人だったようだ。
報酬はあまり期待できないとこの場を去ろうとすると管理者は封筒を手渡した。
「ほ、本当にいいんですか?」
管理者は秘密を守るようにと念押しし、報酬を大切に使うよう促した。
山荘跡地の噂話はこういう面倒くさい現象があったから噂レベルですんでいるのか。
表では笑顔でいるものの、内心ではもう二度と来なくていいと安心している徹。
それから手を振って管理者に別れを告げた。
管理者は入念にカメラを調べていたけれど実はこれまでの映像の本物をしっかりと別の端末に記録していた。
ただこれで一攫千金を狙う必要はなく、お蔵入りの方が楽しく暮らせそうになってしまった。
個人の趣味として残すかどうか逆に悩みの種でもあるけれど…。
自宅に戻ったあたりで銃を取り出した。
弾もしっかり持っている。
「鬼に金棒、だな。」
金欠時代が親切だったと言われるかもしれない。
でも秘密があるのはお互い様。
これで余生も国内では人よりも楽しく生きていけそうだ。
結局財産は見つからなかった。
管理者がこのご時世であれだけの余裕を持てるのも一種の秘密。
あの山荘跡地には近づかない方が懸命だ。
映像をイヤホンをしながら眺めて何ヶ月か引きこもっているとあの時の女性の気配がした。
まさかね。
後ろを振り返るとそこにはあの時の女性が灰色の状態で立っていた。
「あたし、まだ見張ってるよ?」
終
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