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闇ドラ一二話:最終話

※全十二話で、五年前に投稿した自作です。

投稿サイトに掲載した作品を処女作と読んでいいのかは分かりませんが、自分の話を描きたくて『私小説』にのめり込んだ作品でもあります。
なるべく掲載当時のままにしておりますが、読みにくいやその時代だから許された描写、表現には修正、加筆等をさせて頂いておりますが基本的に掲載当時のままにしております。

お楽しみ頂ければ幸いです。


  また一人殺す。
かつて生者だったのに。

  いや、この世に生まれたからには生も死も逃れられない運命なのかもしれない。

  彼はただ己の課した仕事を行うだけ。

  わたしはどうしたいのだろう?
そんな彼を観ていて湧いて出てきたこの気持ち。

  生前の旦那に向けたあの時の恋心とは違う。
死んでからの恋愛なんてどうすればよいかわからない。

  でもまだ彼に好きって伝えていない。
一緒にいたいと伝えていない。
すぐ言えばいいことなのに。

  白い血の付いたナイフをいつものように情報屋に渡し終える彼。

「どっか寄らないか?」

  突然の誘いに驚く。

「い、いつもならすぐ新幹線に乗るか船に乗ってまた旅をするのにどうしたの?」

  彼は少しむっとした。

「なんだよ。
俺は霊殺しばっかしてろっていいたいのか?勘弁してくれよ。
俺の自由だ。」

「そういうつもりじゃないけど。」

  まんざらでもない。
けど、飲食店によっても特に食べるものもないし。
生きている時ほどの感動はわたしにはなかった。

  すると彼が面倒くさそうだが名乗り出た。

「あんたに任せてもしょうがないから、俺が決めていいか?」

「ちょっと!少しはわたしもあてにしてほしい。」

「あんた顔に出てるんだよ。選ぶ場所が思いつかないって。」

  しまった。
相変わらず鋭い。

「生前通りにいかないのはわかってる。
それをわかった上で俺はあんたとどっか寄りたいんだよ。」

  え?いまなんて?わたしと寄りたい?ど、どうしよう。

「やっぱり、わたしに選ばせて。
いつもあなたに決めてもらってても悪いから。」

  今度こそ言えるかもしれない。わたしの胸の内を。

一緒にいさせて


  わたしは生前よく利用していた旅館に彼と一緒に泊まった。
もちろん無銭だ。
客が入ってしまったら見られていない(霊感のある人間は別だけど)とはいえ出ていかなければならないけれど彼には良い景色を見てもらいたかった。

「俺はビジネスホテルとかでもよかったのに。
いくら見られることが少ないとはいえ出入り激しいのはちょっと。」

  なによ。
子供みたいなわがままを言って。
凄腕殺し屋の癖に。

「嫌な風景だけ観ろなんて死んでても生きててもないでしょ。」

「あってもうまくやればいい。」

「そういう問題じゃない。」

  なんだかんだここの景色にはあまり興味がないようだ。
不思議なことにこの部屋には掃除にくる従業員さんもあまりこなかった。
なんだ。
これじゃ曰く付きの部屋をわたしが選んだみたいじゃないか。

  しばらくして彼は雑誌を顔に乗せてだらしない座り方をしながらわたしに話す。

「結構いい部屋だな。いろんな人の声が聞こえるし、海も近い。」

「人の声とか好きなんだ。
あなたみたいな若者って人混みを避けたがるタイプかと思ってたけど。」

「俺はわちゃわちゃしてるのを端から聞くの好きなんだ。
それに死者にとって生者の世間話なんて関係ないから音楽みたいなもの。そうだろ?」

「まあ、そうかもね。」

  料理も何も運ばれない、ただの部屋。
わたしにしては良いセンスだと思うけど。
それにわたしが思ってもいない所で彼のお気に入りポイントもあったようだ。

  そうして夜がやってくる。
わたし達は布団を敷いていた。
二人っきりの空間。
観たいテレビも何もないので波の音を聞きながら暗い部屋で二人で寝る。

淡々とした一日に思えるかもしれないけど普段殺伐としているわたし達にとっては素敵な空間だ。

「俺さ、ちょっと服脱いでくる。。」

「何?急に。」

「今日ぐらい素直になろうかなと思ってさ。」

本当にどうしたのだろう?でも嬉しい自分。

「わたしもそうする。」

「お、おい。」

「あなたがわたしにいろいろ教えてくれたように、わたしもあなたに教えてあげようと思って。」

  彼は納得したようだ。

「これも勝手な旅だ。好きにしろ。」

  しばらくわたしたちはお互いの過去や経緯を話しながら交わりあっていた。

  思ったより彼はこちらの経験は少ないようだった。
ただ意地を張っているなという感覚は膣にあてられる時に感じる。

  生前ほどの感覚はないはずなのに彼はやけに激しい。
求められることにわたしは死んでから初めてこうして実感する。

  普段言葉には出さないことも出し合っていたはずだが正直どこまで記憶に残っているかわからない。
生を経験していないとは思えないほど激しく若い営み。

  そうか…彼は生きていたいんだ。
誰よりも生を望んでいる。
誰よりも何かを殺すことを拒んでいる。
誰よりも選びたがっている!

  そして誰よりも幸せを模索している。

  すぐそばにある幸せを実感したくてしょうがない。

  腐ってもわたしは人間なんだと思った。
彼も。
死んだって生きていたってわたし達は“人間”だ。
そこに理由はいらない。
国も肌も障害もなにもかも…

  馬鹿ね。
わたしも。
この段階で気付くなんて。
でもすべてじゃない。
まだわからない。

  子供のこともなにもかも、現実からわたしは逃げてしまったから。

  いや、逃げていなくてもどうなっていたかわからない。

  みんなこうやって自分の人生を構築して生きている。

  それならもういいのだ。
彼も罪を背負って生きているのなら、わたしも無作為に殺した人間達の重みを実感しながら生きていく。
でも今はそんなことも忘れて彼に身を委ねさせたい。

  一夜明け、私達は多くは語らなかった。
もう充分だった。
でも、足りない。

「ねえ。」

「なんだ。」

  わたしは今まで言えなかったことをちゃんと話した。

「こんな前科者のわたしをずっと旅に連れてきてくれてありがとう。
あなたのこと、大好き。
ふふ。こんな台詞月並みね。
わたしそんなに優秀な人間じゃないから。」

  彼は初めて笑った。
彼ってこうやって笑うんだ。

「やっぱあんたは放っておけない。
優しい癖に欲望かつ忠実。
そして振り返った時に馬鹿をみる。
でも俺はそんなあんただから一緒にいられた。」

「こんな話をする時がくるなんてね。」

「勝手な旅だしな。」

「またそれ。」

  しばらく黙っていた。
わたしは生前の記憶より、死んでから今までを噛みしめていた。

  特に彼との思い出は。

「子供達も新しい道を進んでるし、わたしももう何も縛られる必要もない。だから…」

  彼が遮った。

「それが未練になられたら困る。」

「ありがとう。でも、わたしはあなたが好き。理屈抜きに。」

「俺もだ。だが、俺はそんな相手でもあんたが誰か殺そうとするなら…」

  今度はわたしが遮る。

「その時はその時。それだけは約束しているじゃない。」

「そうだよな。」

  わたし達は生きていく。
答えのない未知の領域である死の世界を。

  そこに目的なんてなくていい。
もう死んでいるから。

  でも…死んでも未来を夢見ていいじゃない。

  いつか誰も殺さずに二人で笑顔になれることをわたしは心から祈っている。

  それが周りに伝わらなくても、全てを敵に回しても構わない。

  それだけこんな一日、当たり前の一日、笑顔、行為はかけがえのないものなんだ。

  誰にも…邪魔される権利はない。

  闇ドラとは二人を中心に展開された死人の生き様の物語。
あてのない旅はまだまだ続いていく。

※完結致しました。
ここまでご拝読頂いた方、有難う御座います。


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