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避けられぬ懐疑〈OL〉

※お祓い済みです。

我々は心霊確認班である。
そして、超常現象の解明と謎の種族の研究も行うつもりだ。

別番組のスタッフ、程良ほどよきが雇用主であり恩人の一人、星降紙ほしおろしの心配をかけないようこの春からパートタイムとして働く事にしたのだが…。

前回

前々回

総集編(ここを読めば追いつけます)

◎届かないよ

とおりゃんせ とおりゃんせ

ここは どこの ほそみち じゃ

テンジン サマ ノ ホソミチ ジャ

じっ と トオシテ くだしゃんせ

ゴヨウナイモノ トオシャセヌ

とおりゃんせ トオ…リャン…

とおりゃんせ…

澪談まいだはこの春から大学生となる。
格闘技でプロの道を進むのも考えたが自分の場合は事情が違う。
特にこの日本では。

それと、さっきの歌はなんだ?
何かよからぬ予兆でなければ良いが。
キャンパスライフを送る事に夢中になる年頃なのに澪談は何処かしこりを抱えたまま入学することになった。

❇︎

 星降紙君のハイスペックぶりによって私は戸籍を手に入れ、合法的に無職暮らしが出来る。
しかも無職とは言っても何らかの番組?チャンネルのスタッフらしいのだ。
いや、現代社会で無職やニート、ホームレスが未だに存在を許されていない現実を私を許していないから!
行っておくけど星降紙君と昏遠久とほうくれ君以外の人間なんて私が関わってきた中では富豪、貧民問わず人間なんかじゃありませんから!
残念!

ってなわけで、あまり特別な事はしていない。

けど、なんだか不味い気がした。
星降紙君のご両親も中々の富裕層ということもあり、住むことは許してもらえたけれど富裕層だからかご両親は基本的に不在だ。
通りで星降紙君はハイスペックなわけだ。
両親からはちゃんと愛されているみたいだし、本人も自活している。
もしかしたらご両親は敢えて海外出張しているのかもね。

ただ問題は私自身のプライドだ。
今までホームレス生活をしていてやれ幽霊だ生き霊だとからかわれても生きてこれたけれど、星降紙君が私を謎の種族とサイコ青年に襲われた時に助けてくれた理由が気になる。
それと、私は星降紙君に大切にされているけれど自分の身は自分で守れる事を大人である私が教えていく事大切だと判断した。
いや、当然なんだけどね!
まあ人によるか。

だから私は都内という事あって時給のいいパートを探してきたのだ。
働いた記憶なんてほぼないけど。
ここはオバちゃん頑張っちゃうよ。

それを星降紙君に話してみた。

「え?気を遣わなくていいですよ。番組スタッフといっても昏遠久君も大学生になるから事情は汲んでいるつもりですし僕も高校三年生。
程良さんは世間体を気にしなくても僕が
説明してなんとかしますから。
無理、しなくても‥。」

やっだぁこんないい子に心配されるなんて。
眼鏡男子が不細工だぁ?
どの女がそんな事言ってんだい?
そんな文句しか言えないお前らは社会保障費なんとか出来るの?
出来ないのに口だけなら私がその概念を生んだ女達をぶちのめしてやる!

ってくらい凄い心配してくれてる。
けど!

「えっとね‥。星降紙君のスタッフの仕事もちゃんとするよ。
昏遠久君は暫くここに来れないって私にも言ってくれたし。
けど、自分のケツくらい自分で拭きたいし星降紙君や昏遠久君に恩を返していないなって悩んでて。
それにオバちゃんだよ?多少の悪口や差別なんて気にならないの。」

星降紙君は頬を赤くし喜んでいる。

「その逞しさは今でもあるんですね。だから…いえ、分かりました。
程良さんが決めたのなら僕も応援します。
それと、程良さんが気にいるか分かりませんが女子友達から聞いてお洒落でフォーマルな服を買っておきました。
スタッフ用でしたが。」

ショーケースには無理のない色のスーツが置いてあった。
今の子達って若い内から先の事を考えてるの?
夢がないけれどこうして恩恵を受けられるとは。
こりゃあパートやったるでぇい!

◎勤めて

 求人にはシンプルな内容のみ掲載されていた。
明るく!とかコミュニケーションが取れる!とか地方で腐る程みた嘘しかない多用的でも画一的でもない気持ちの悪い現実は無かった。
まあ都内だもん。
選べるし。
それにパートならいつ終わってもおかしくないもの。
って言えるくらいに私は職歴がない。
初めて過ぎる。
この年齢でお仕事初体験なんて、私が女だから言えそうだけど男性にもそういう配慮ちゃんとしてほしい。
薬飲まされながら嫌々稼げない仕事をしていたかつての恋人を思い出すし。
ああ、私は地方に中指を向けることを誓おう。
クズしか金が稼げないなんて世の中は私が許さない。

「どうも初めまして。井尾田氷魚いおだひおです。
私もここに勤めて一年しか経っていないのでよろしくお願いします。」

春からの入社だからかブラック企業によくある自己紹介は全くなくて、部署の上位陣がしっかりと手配してくれた。
飲食店なのに不思議な配慮だと思っていたけれど人間関係は井尾田さんだけで完結するからここでは長く勤めるつもりだ。

私は少しずつ仕事を覚え、井尾田さんの教えがしっかりしていたからか特に苦労も無かった。
たまに病気になって倒れてクビになったらどうしようと心配していたら井尾田さんが「大丈夫です。」とだけ言ってくれて私がやる仕事も文句も言わず処理してくれた。
私なら分かる。
井尾田さんは苦労人だ。
まだ二週間しか仕事をしていないのに、私は井尾田さんと良く喋る中になった。
そして井尾田さんと出歩く事も増えたので星降紙君が用意していたファッションを活用してお洒落に振る舞った。

「都内を知らないで長いこと田舎にいて、婚約が破談になった女。」

と会話で合間合間に挟んでいるのに、井尾田さんは差別する事もなく対応してくれた。
お陰で私はレディとして一皮むけられた。
ありがとう星降紙君。ありがとう井尾
田さん。
心の中でいつか言葉にしようと私は働くのだった。

❇︎

井尾田さんと話している休憩中、途中で彼女が席を外した。
私は慣れないスマートフォンを星降紙君が手順付きで教えてくれた動画を見ながら学習中だ。
働きながら私も出来る事はする。
学歴も職歴もない私を採用してくださったという事に関しては感謝しきれない上に地方と違って上から目線ではなく、しっかりと面接もしてくださったし。

でも、何かはあるんだろうな。

それと私は星降紙君から頼まれているスタッフの仕事もある。

『種族や不可解なモノが現れたら、出来る範囲で記録して欲しい。』

と。
トイレとか結構観てるんだけど、あれから新種族とかサイコ青年が私達を襲ってくる事もなかったしオバちゃんはお化けを信じていない。
でもこの会社は何か痛みに理解があるから気にはなるよねえ。
なんも起こらないけど。

私は少しだけ観察すると井尾田さんのペンダントに写真があった。
綺麗な装飾品だとは思っていたけど。
そこには井尾田さんの子供の頃と私と同じ歳くらいの女性がいた。

あらゆる考察が生まれるが下世話なのでやめた。

「忘れていたペンダント。見られちゃいましたね。」

「え?あ、いや盗み見たわけじゃないんですけど…。ごめんなさい。」

井尾田さんは笑ってペンダントを付け直した。

「私、首や腕に何かつけるの苦手だったんですけどこのペンダント買ったらつい。」

成る程。

「聞いていいなら質問するね。
そこの方は井尾田さんの大事な方?」

オバちゃんは改めて不器用だと思う。
すると、

「育ての親です。私、孤児院出身で。シングルマザーでもあります。」

聞いた事がある。
独身者や伴侶を途中で亡くされた方で養子縁組を結び、シングルマザーやシングルファザーとなる方がいる事も。
その審査は厳しいらしいから、相当な良い方なのかも…いや、人間関係なんて決めつけるだけ損よ。
私は星降紙君や昏遠久君から何を学んだの?

「話してくれてありがとう。」

それ以外に言葉はかけられなかった。

「程良さん見ていると、お母さんを思い出しちゃって最初は仕事が難しくなると思っていたのに逞しいから寧ろ励みになっています。」

今更天狗になる歳じゃない。
けど、褒められたのは何十年ぶりだろう。
もしくは初めてかも。

「事情はともあれ、私も大切な人に助けられちゃったからねえ。老体に鞭打つくらいなんて事ないよ。」

クスッと笑ってくれた井尾田さんを見て私達は再び業務に戻る。
当たりを引いた。
やっと当たりを。
地方を忘れられる。

と言っても、バカにしてるんじゃなくて地方の事業主も利己的な考えを捨てて欲しい。
地方出身者だからこそ私は伝える。
遅れるなら地方の事業主が謎の種族に食われても放置しちゃう。
それは星降紙君もそうだと思う。
私じゃなかったら…。
色々と怖いけどそれ以上、考えるのはやめた。

❇︎

給料日までは結構かかるけど、初任給
はどう使おうかな。
食べ物に関しては困る事ないし、映像関係は時々昏遠久とほうくれ君が中古DVDを送ってくれる。
勿論作品の方だ。
大学生活どうしてるかな。
貴重な仲間だからオバちゃん心配だよ。

でも、星降紙君には何らかのプレゼント渡したいなあ。
きっと彼が一番しているし。

恋じゃないのに恋みたい。
これが愛なのかもしれない。

アイドルが恋から愛に変わったファンに複雑な感情を抱くのはそれかも。
いい歳してワクワクするなんて。
人間、何歳でもやり直しはきくと実感。

トオリャンセ

トオリャンセ…

こーこはどーこの細道…じゃ…

テンジンサマノ お通りじゃ

ちぃっと 通して クダシャンセ

気配がする。
これは!

「シャッター、チャンス!」

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