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避けられぬ懐疑〈苦悶〉

※お祓い済みです。

関連回

総集編(ここ読めば追いつけます)

我々は心霊確認班。
この世には様々な事情が交錯し、パラレルワールドのような事象が巻き起こる。
ただ一つ言えるのは、我々の世界はたった一つだけということ。

艶衰阿良又えんすいあらまたは小口演出補の過去を知った。
何故彼が映像業界に没入したのか?
そこで成人式を期に不良をやめ、途方に暮れる普仲剛ふつなかつよし
そして有名人の家系で重圧とも戦う中学生格闘家、杏暗 來凪あんも くるな浦泉菜冨安うらいずなとみやすを訪ねて『避けられぬ懐疑』へやってきたのだが…

◎過去の葛藤

 小口は自分に監督のイロハを叩き込んだ師匠の墓参りへ行っていた。

「あの人の命日か。
時が過ぎるのは速い。
そして俺達も何処までモチベーションを保てるか。」

リモートワークをしている仁科が今回は久しぶりに表舞台へとやってきた。
物臭な仁科が師匠の命日だからかこうしてやってくるとは。

「近頃はピンク映画もプロレスも・・・いや、愚痴はやめておこう。規制と資金繰りに悪戦苦闘する俺達はいまやクリエイターという軽い名前で親しまれている。
俺はそういう表現に苛立ちよりも無念が勝る。
小口はどう思う?」

どう思うか。
小口は自分の気持ちを代弁してくれた仁科の後に続く言葉がなかった。
こうして避けられぬ懐疑を設立は出来た。
消えない心霊現象と新たな種族。
そして悩まされる投稿者。
ホラーからのし上がろうと映像界に入ったが現実と課題は数字としていつも自分達に突き付けられる。

すると艶衰が付いてきていた。
仁科は彼について知っている。
そして一本缶コーヒーを彼に渡した。

「まさか付いてくるとは。君はボディーガード兼研究生だっけ?
浦泉奈と同じ小遣い目的じゃなかったのか?ここにいる理由は?」

艶衰はここ暫く避けられぬ懐疑で働いて監督業を目指したいという話を小口と仁科に伝えてに来た。

「ほお。今時、こんな奴がいるとは。」

何も言わずタバコを吸う小口。
目を輝かせる正体不明のこの春高校二年生になった格闘家、艶衰阿良又も墓の前で手を合わせる。

◎結局俺達の仲は据え置きで

剛は二卵性双生児の弟。
ホラー映像の作り方が上手いだけの大学生の兄、毅とはある一件で一緒になったが不仲で成人式の時だけ二人と写真を撮った。
後はそれぞれの友達と集まって帰ったが。

やはりあいつとは違う。
明確な違いだけ教わって剛は一人彷徨っていた。

すると公園で身長がやや高めだがまだ幼い少年がシャドーボクシングをしていた。
テレビやネットで見た事のある姿だった。
中学生で格闘家、そして芸能一家。
あんな風に健気な姿を見せられるとは。
俺にはちと眩しすぎる。
走り去ろうとすると今度は高校生らしき男子が現れる。

「久しぶり。遅くなってごめんな。」
「浦泉奈さん!」

どうやら仲の良い関係らしい二人の男子。
話を聞いていると芸能関係に格闘技界が無理矢理繋げられる苦悩と重圧。
苦しむ男子中学生に諭す男子高校生。

「住む世界の違う奴らがこうもうようよと。」

剛はさっさとこの場を離れようとした。
すると

「君の力ならもっと評価される。一度、避けられぬ懐疑に来てみないか?」

そう言われて男子中学生の顔が変わった。
あんなにも無垢な素顔を見せるとは。
日程の辺りを決めている間に剛は去ってしまったが。

✳︎

毅が今も大学生活を楽しんでいるのかは分からない。
少なくともあいつが明るく誰かと話すビジョンが見当たらない。

俺との仲は据え置きで、不仲のままだ。
俺達との埋まらない溝は他の仲の良い双子を見てると羨ましい。
あんなに不良としてイキっていたのに今の俺は違う。
これは一体?

するとあの時の男子中学生が走って何処かへ向かう。
何故有名人なのに名前を覚えていないかというとそこまで興味がなかったから。
けど、今は違う。

きっと浦泉奈とかいった人と話にいくつもりなのだろう。
俺も追ってみせる。
自分に中で浮かぶ興味を明確にしたかったから。

◎新たな霊から

ここが避けられぬ懐疑か。
男子中学生が戸惑っている。
そりゃそうだ。
目の前に門番もいるし。
こんな厳重なガードがいたりするんだ。
しかも見れば分かる。
細く見えるがしっかり鍛えられていて、獰猛な軟骨魚類が如くオーラに身を包んだ若人を。

男子中学生はそんなボディーガードに屈せず質問をした。

「こちら、避けられぬ懐疑の事務所でいいですよね?
浦泉奈冨安さんはいらっしゃいますか?」

流石。住む世界がだけあって元不良の俺としては耳の痛い礼儀正しさだ。

すると問いかけられた門番は男子中学生に握手を求めた。
どういう状況だ?
すると門番は嬉しそうに声を弾ませる。

「やっと会えた。
君を歓迎したかったんだ。」

「あの、浦泉奈さんは?」

「浦泉奈冨安は別件で席を外している。」

「そんな筈は無い。
今日は日程が会うと言っていた。
あの人が嘘をつくなんて。」

確かに彼に嘘はなかった。
つまりこれは門番の独断か。
ちゃんとした若人と思ったが手段を選ばないタイプ。
あの男子中学生は目をつけられていたってわけか。
一体それまでに何があったんだ?
兎に角、浦泉奈という人物についてはぐらかしながら門番は男子中学生を原付に乗せる。
良い子も悪い子もこれは真似してはいけない。

剛はバイクで来ていたのでバレないよう追跡した。

✳︎

わけのわからない廃工場へと男子中学生を案内する。
なんだ?
特撮でもやるつもりか?
あながち間違いではなさそうなのが怖い。

門番は口笛を吹き、霊体を呼び寄せた。

え?

もう一度言う。

門番は口笛を吹き、霊体を呼び寄せた。

何の技術だ!

すると霊体は集まり、形となった。
門番は説明する。

「唐突で済まない。密かに鍛錬していた降霊術にAIによる操作を可能にした。
言うなれば対霊システム。
これは秘密にしてくれ。」

対霊?
この事務所は秘密組織か何か?
しかし巻き込まれた男子中学生はやる気だ。
なんだかんだそこは中学生か。
俺にも覚えはあると剛は理解はできるが納得はしてない。

よく見ると男子中学生もしっかり身体が鍛えられていた。
対霊・・・ってそういうもの?

「浦泉奈さんと一回霊とは戦ってます。
あなたが浦泉奈さんを知っているという事は今回、俺が来る事を見越して浦泉奈さんを遠ざけましたね?」

「ああ。君の場合は特別だからな。 」

ったく。
やり方が汚い。
自分よりも歳下であろう彼がこんな手を使うなんて憎たらしい。

「それでも俺はやります。また、あの人の力になりたいから。」

物分かりがいい。
育ちか?彼のパーソナルか?
多分、彼ならこうするものなのか。

すると訓練が始まった。

纏まったAI霊は男子中学生を襲う。
流石に安全性は保障されているが何度も攻撃を行う霊を目視出来ているからか、全ての攻撃を交わす。
当たらなければいいをここまで現実で体現できる中学生もいないだろう。
テレビで少しだけ見た時はずっとグルメリポーターやっていて、格好は好きな映画の主役をモチーフにしていた平和そうな少年とは打って変わって生きる為に戦う漢になっていた。

俺達Z世代はこうやって絶え間なく変化する世界で自分なりに生きている。
彼等もその一人なのかもしれない。

「ぐあっ!」

不意を突かれAI霊に弾かれる男子中学生。
助けようとしない門番。
AI霊は苛烈に動けない男子中学生を攻撃する。

くっ。
訓練とはいえ全てが唐突かつ本番。
このままだと男子中学生の身が危ない。
前に剛は別の中学生カップルに助けられた。
最初は情けないと思ったが関係ない。
助けるのに理由はひとつでもあればいい!

「ちょっと横暴が過ぎるんじゃないのか!」

剛は拳を握り、AI霊を殴って退ける。

すると門番は怒鳴った。

「誰だとまでは聞かない。だが今からアイテムを彼に渡すつもりだった。
これはスタッフ候補を探す大事な訓練。
邪魔立てされる理由はない!」

そうか。
けど本当か怪しい。

「あなたは?」

男子中学生は冷静に聞いた。
こりゃ誤魔化せられない。

「俺は剛。色んな媒体で君を見ていた人間だ。まさか格闘家だったとはね。つまりファンだ。」

我ながら意味不明なシチュエーションなのだが彼は俺を疑わず一緒に立ってくれた。

「それだけ俺も名が売れた。二世としてではなく俺自身の魅力で。
あなたも凄い人です。」

「と、取り敢えずあの霊を止めるぞ!」

門番は何も言わず、口笛でAI霊に他の霊を付与した。
凄い能力だ。

「作戦を変える。割って入ったあんたも含めてスタッフとして実力を確かめさせてもらう。」

そこで彼は名刺を自分達に投げて渡した。

「艶衰・・・阿良又?」

名前が高尚過ぎて怪しい。
そこも門番こと艶衰阿良又のヤバさなのだが。

すると強化されたAI霊が剛達に攻撃を仕掛ける。
剛は男子中学生に耳打ちする。
そしてうなづいた彼は一目散に逃げ、AI霊は剛が引きつける。
狙いが剛に変わったAI霊は岩を纏って追ってくる。
これは別にいい。
場所が廃工場というのを理由に逃げ回り、弱点を探す。
しかし霊への弱点をつけられる術なんて特にない。
だがヒントはある。
AIという点。
あの霊は本物だが繋げているAIは人間の技術だ。
剛は攻撃を避けながらAIの本体を探す。
彼は上手く探しているだろうか?
剛は霊が投げる岩を避け、機械部分を目を凝らして探す。
ここでは暗い。
日が当たる部分まで誘い込めばいい。
剛は入念に探し、そして見つけた。
なんとか挑発しながら霊を誘き寄せる。 AIといってもあの艶衰という奴の技術は拙かった。
それでいい!
光に当て、機械部分が露出された所へ男子中学生がカーフキックを当てる!

ナイス!

着地して痛がる男子中学生とハイタッチした。
するとAI霊は形が崩れ、霊体を退散し壊れた機械が残った。

そして艶衰が現れる。

「上出来だ。まさか連携まで見せるとは。」

剛は艶衰に掴みかかった。

「他に大事な言葉はあるんじゃないのか!」

鼻で笑う艶衰。
するとこう返した。

「俺の監督経験の為に、お前達の力が必要だ。だから利用させてくれ!」

潔く俺達を認め、上から目線の言葉を使う。

その場にいた剛と男子中学生は黙った。

「タクシー代は渡す。今日は合格だ。名刺に連絡先はある。
もし考えが変わったら避けられぬ懐疑へ来い。」

男子中学生は「浦泉奈さんも、連絡に応じてくれますか?」
と聞いた。凄い勇気。

「多分な。」

と艶衰は言って去った。
独特な男だ。
けれど俺達は嫌な気分にはならなかった。

「帰ろう。」

剛のバイクに男子中学生を乗せる事にした。
艶衰の金は後で返すつもりだった。
これ以上貸しを作るのは剛としては心外だった。
だが男子中学生は艶衰に認められた事を誇っているのか複雑な表情だった。

「大丈夫。安全運転は俺の自慢だ。」

そう諭し、男子中学生を乗せた。

◎俺と二人

 男子中学生は浦泉奈とまた出会った。
そこに一人の成人男性も一緒に。

「あれ?あんたは?」

男子中学生は事の成り行きを説明してくれた。

「艶衰の奴・・・知らなかったとはいえ会わなくてごめん。」

剛もある程度自分について説明した。

「そう。良くいる野次馬がここまで手を貸してくれたのか。けど、あんたは艶衰をそこまで嫌ってはいなさそうだ。」

歳下かもしれないとはいえ、活躍を評価されたからな。

浦泉奈と一通り話した後、側でお茶を
飲んでいた剛に男子中学生が話しに来た。

「俺、艶衰って人の過去を知りたい。
浦泉奈さんの力になる為にはあなたの力も必須だと考えたから。」

細かく言うつもりはない。
せっかく勝手に巻き込まれたわけだしな。

「ああ。名刺、無くさないようにしような。」

俺達は全くの他人なのに不思議とその時は考えが一致した気がした。

恐るべきホラー番組だと知る。

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