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避けられぬ懐疑〈三人揃ッテ〉

※お祓い済みです。

今までのサケカイ

 時は二◯二三年春。
表舞台で活動する故に反動で一人カラオケ、ソロキャンプ、ソロ牛丼を味わいつつもサブスクでライバル心霊番組がクオリティの高い作品を公開する度に「お前らは霊を殴れないだろ?」と愚痴をこぼす浦泉奈富安、今年高校二年生。

「なんか彼女いそう。」

という憶測で振られ、出会いが無い現実を突きつけられた浦泉奈冨安は今日も試合の為に格闘技の練習を行う。

◎お前はいいよなあ

津向つむぐは今日もSNSチェックをしている。
彼はやや趣味が遅れている気がする。
試合の時は率先して相手のジムへ出向き、誰がそこで出稽古したかを調べて少ない情報から対戦相手の弱点を探るというファイターとしての執念はやり過ぎではあるのだがSNSでそんな情報が転がっているとは思えないのに。

都賀場つきたばにはリプが沢山リプが来てるよ。盗み見したんじゃなくてリツイートされてる。」

都賀場というのは俺の名だ。
都賀場 宮城位つきたば みやいち
高校二年生になったばかり。
ってそれはいいんだ。
まあ話題になるのも無理はないか。
相手はあの浦泉奈土蛛(うらいずなつるも)の弟だから。
浦泉奈の試合情報はアマの時から知っているし俺達も負けるわけにはいかないからただ練習してはいない。
津向の情報網を頼ったかって?
そこまで陰キャじゃない。
まあ、推してるBtuberのメンバーの名前くらいは調べるけれどウィキまで見る程好きじゃないから。
つまり俺はギークでは無い。
けれど、対戦したから分かるが昔の浦泉奈とは思えない。
高校入ってから何かあったのか?
友達でも無いけれど試合以外で聞きたいことが山程あった。

「今時SNSなんて知名度の貢献にならないだろ?競技が競技だからさ。
それより、浦泉奈冨安って今日も会場来てるんだろ?」

津向は何故そんな事に興味が湧くの?と言いたそうな顔をしている。

「同年代で別の学校、更に属性も他ではあり得ない浦泉奈冨安。俺が勝ったわけだし、向こうはいい気はしないかもしれないが勝者権限で親交を深めるって考えだ。」

「無理だと思うよ。」

即答だった。
まだ話してもいないのに。

「いやあ、なんかテレビとかで観るよりも俺達と変わらない所あるなって感じない?」

津向はそこを否定はしなかった。

「そう言われたら気になるかも。なんか不思議な気配もするし。」

「不思議な気配?まあ、住む世界が違うからな。」

「いや、あれは昨今珍しい日本の幽霊と関わりがある匂いだよ。
しかも怨念とは違う共存の兆しも感じる。」

へえ、霊視?なのか彼が独特な情報収集をしているからかよくわからない返答だった。

「要するに只者・・・じゃない?え?ほんな奴に俺は勝ったのか?まあいい。」

いつもジムの人達と連むのにやけに浦泉奈冨安は人目のつかなさそうな場所へ向かう。
あれ?なんか怖いな。
まるでこちらの動きがバレてるようだ。

「俺になんのようだ!」

試合とは一転。
俺は肩を強い力で掴まれている。

「い、いや、ちょっと話してみたかっただけだ。からかいとかそんな事、高校生がやるわけないだろ?」

浦泉奈冨安はすぐに手を離す。
物分かりがいいのか何か察しているのか警戒は解かなかったが。

「浦泉奈ってヒトカラやってるんだって?そこの霊が嬉しそうに語ってるよ?」

あれ?津向は何を言ってるんだ?
しかも浦泉奈冨安はヤバイ!とか言ってビジネス用ガラケーで写真撮ってる!!

「お前!見かけない選手だな。都賀場はそいつと結託して俺を嵌めるつもりか?
俺に勝ったのなら正々堂々と話しかけろよ!」

いや話してるんですけど?
偶々、津向が霊感があるみたい・・・え?これってそういう話?

「そう言えば、『避けられぬ懐疑』だっけ?ホラードキュメンタリースタッフとした働いてる君と似た高校生がいたけど他人の空似かと思ってた。
まさか、あの浦泉奈冨安とはね。」

「え?ホラードキュメンタリー?よく夏の心霊番組で心霊写真とか映像を芸人とかが雛壇で笑かして中和させるアレ?」

浦泉奈冨安は「仕方ない。」といってどこで調査したのか全く人気のない場へ俺達を連れて行く。
そして霊について話してくれた。

「知名度が少なくて高校生でも副業として食っていけるからって頼みで一年間ホラードキュメンタリーに携わってる。
そこで霊に頼まれて、ごく僅かだが世間に姿を晒し、俺達の懐を潤す代わりに一日取り憑かせて心霊Vlog撮ってたんだよ。
俺は霊を撃退できる力があるってさ。
俺達のいる心霊番組でリモートワークは人手が足りてるからフィールドワークしろって話。
まさか会場でファン対応と同時並行だなんて、霊って人使い荒くてさ。
しかし、津向?苗字か名前か分からないけどヒトカラの事まで喋ってるとは。
この事、他の選手に言うなよ?」

って説明台詞と脅しを自分に勝った相手に言ってるのはギャグか何か?
やっぱ住む世界が違うな。

「津向の隠れた才能は後で聞くよ。
けどさ、色々あるのはお互い様だろ?
俺はシンプルに浦泉奈と話してみたかっただけだよ。」

浦泉奈は俺には見えない霊とアイコンタクトしてる。
なんか新しいVシネマが生まれそうなシチュエーションなのがその道のプロって感じがする。

「同い年には興味が無いんだがなあ。」

流石に負かした相手には打ち解けてくれないか。
俺も改めて何考えていたのか。
頭冷やすか。
すると津向が浦泉奈に話しかけた。

「俺、避けられぬ懐疑のファンです!夢も希望も将来もないファイターですが、霊だけはいるかも?というか塩梅が絶妙で試合に負けた時に相手を恨まないように避けられぬ懐疑の映像で助けられました。霊感・・・というより、昔降霊術を女子にやられて視えるようになってしまって。
それに、浦泉奈君は余程の事がない限り霊も殴らないスタッフだし。まさか他人の空似だと思っていたら本人だったなんて。」

怒涛。
まさに怒涛だった。
そう言えば津向ってコミュニケーション苦手だったっけ。
内向的な奴じゃないんだけど、俺に気を遣ってて趣味隠してたのか。
そりゃあ目の前に好きな番組のスタッフが仕事してりゃ俺を放置するよな。

普通なら圧倒されるシチュエーションだが流石属性てんこ盛りの浦泉奈冨安。
微動だにしない。

「成る程ね。お前達二人は見込みがありそうだ。
って、俺の同僚は言いそうだな。」

同僚?バイト仲間じゃないんだ。
なんか、世界って広いんだか狭いんだか分からないな。

「取り敢えずさ、今俺達持ち合わせが無いんだ。
浦泉奈も手伝いは終わってるだろ?
俺達もセコンドの仕事とか終わったし、なんか安くていい場所で話そうぜ。」

お前はいいよなあ。

と呟く声。
霊じゃなくて浦泉奈冨安その人からだった。

「勝者の余裕って奴か。俺は俺で抱えてるものがあって練習してるんだけど、お前には無いのか?」

ふん。無いわけないだろう?

「俺も伊達にファイターじゃねえんだよ!初めて行ったレンタル彼女で大分良くしてもらったからな!
先輩に遊びを仕込まれて俺達も普通の暮らしなんて捨ててる。だからこそ、同い年との関係は必要だと思ったのさ。」

俺は色々と溜め込んでいる浦泉奈冨安と話せるようにさっき津向から聞いた情報を照らし合わせて頼む事にした。

「俺にレパートリーを教えて下さい!」

自分でも意味が分からなかった。
けど俺が対等に話せる場所はもうそこしかない!

◎両サイド

 俺達は三人でカラオケをしている。
浦泉奈冨安は歌わず、俺達に目線を合わせる事もなく不機嫌な態度が伝わってくる。

一方津向は

「学校に!行きたくない!」

と某バンドの名曲を熱唱している。
怖いなぁ。
方や俺に負けてるのに何事もなかったように優位に立たれている。
こういう所は俺達と変わらないのかもしれない。
津向はもう色んな意味で嬉しさを感じている。

「で、お前が指名しているレンタル彼女ってどんなタイプ?」

本題はそっちだったな。

「成人はしてる。といっても俺達より二つ上だ。
俺が知ってる曲から知らない曲まで全部歌ってくれて触れないようにお互いしているのにリードされていたんだ。
まるで羽生さんが藤井さんに知らず知らず一手を狂わされたように。
あの空間は並みの人間には出せれない。
って経験をしたからせめてあの人に近づく為に韓流から頑張ろうかなって寸法だ。」

浦泉奈は真剣に話を聞いていた。
もしかしてまだ霊もいるのだろうか?
俺にはそんな感はないのだが。
肝心の津向はストレス発散に夢中だ。
すると浦泉奈はホワイトボードで指示を出した。

「成人女性の好みは世代によって全く異なる。
俺の家族についてはテレビで知ってるかは前提にはしない。
◯◯年代はギリギリインターネットを知っている層が少なくて後から適応した。
俺達より二つ上から◯◯年代はアーケービーと上流時代直撃世代。
インターネットでは男性向けの軟派なネタが蔓延っていてテレビでは俺達目線で製作会社は番組を作ってくれた。
その中には今をときめくヒロインもいる。
何が言いたいか。
ファイターならややマニアックなユニットの曲と少しだけ流行に乗れなかった感を出す曲を混ぜる事。
例えば二年前から四年前。
お前の場合、遊び慣れてると勘違いされている。
初心者気分を忘れるな!」

具体的なのか抽象的なのか分からねえ!
対戦したから分かるけれどこれで浦泉奈の素なんだもんな。
覇気が無くてこの力。

「へえ、参考になりそう。けど、それって避けられぬ懐疑でまたネタに出すの?
廃墟でトレーニングしてた恐らく俺達と同い年のスタッフと。
けど、一緒にいる時ってほぼ無いんだっけ?
今回も伏線?だとすると都賀場や俺の動きに勘付いた霊の誘い方も納得なんだけど。」

え?何?両サイドからこんな捲し立てられてるの?
津向に至っては俺そっちのけだ。
いや、津向は良くも悪くも夢中なものを見つけるとこんな感じだからいいけれどさ。
俺の浦泉奈冨安と会話する為にたまたま悩んでたレンタル彼女への作戦を聞くきっかけがなんかおかしな方向へ行きそうだった。

「津向!お前は歌い続けていてくれ。悪いな。
浦泉奈に問う。
いつも仕事だからって霊とか試合への意気込みとかこんなに考えてたのか。
このレンタル彼女攻略作戦は大切にする。
有難う!」

すると浦泉奈は顔を沈める。
友達は多いらしいと聞いていたが、何か事情があるのだろう。
けど、それは幸せそうだとか俺に負けたからとか、利己的なものではなかった。

「俺の同僚、年齢と格闘家って以外・・・いや、もしかしたらそこもコンプラを気にしてて会話少なくてさ。
熟女フィギュアからサブカルハマってたり、偶にカラオケに付き合ってくれるくらいにはノリはいいんだ。
けど、世界観や目的が違うなって考えてた。
映像に関する意識も、試合に対する姿勢も格段に違う。
俺は金さえ稼げればいいと思ってたのが結果に繋がらなかった。
試合にも負け、仕事の活躍でも順調じゃない。
そういうの、話せる相手がいなかったからさ。」

ツッコミたいけどやめておこう。
勝者特権ってだけで無くて敗者の掘り下げも大事だなって。
けど試合になったらまた俺が勝つけどな。

津向もこの瞬間は黙ってくれた。
良識のある友であり、ファンであって助かった。

そうして浦泉奈が三人分奢ってくれて店を出た。
俺、特に何もしてないどころか浦泉奈を敗北させたのに。

俺は歩いている時に俯く浦泉奈にそっと話した。

「その同僚とどういう関係かは知らないけど、避けられぬ懐疑?そこでお互いの実力を認め合えるようになる日が来たらいいタッグ組めそうだぜ?
俺に負けたのにカラオケ代奢ってくれた奴が、成果を出せないなんて事はない。
津向も俺も、手伝うぜ。できる範囲でさ。」

津向が浦泉奈のファンになったのも追い風だった。
階級が違うから津向が対戦する事も無いし、団体も一緒だ。
お近づきにはなれたかな。
レンタル彼女攻略法は思い出にしよう。

ゥウウウウウウウゥゥゥ・・・

津向が戦闘モードになった。
人に対する殺気じゃない。
今憑いてる霊でもなさそうだ。
浦泉奈も懐中電灯を照らして俺には見えない何かを捉えている。

「現実ってのは残酷だな。
仕方がない!」

俺達はこの瞬間だけ一体となった。
俺は霊体なんて見えないし感じないけど津向がアイコンタクトで位置等を教えてくれた。
浦泉奈も津向をアテにしてる。
足手纏いにはならないようにしないとな。

「狙った獲物は・・・。」

「「「逃さない!」」」

俺達は襲いかかる霊を振り払った。

◎後日

 俺と津向は別の高校でジムも違うが、中学からの友達だ。
あの時の事を津向は昔ながらの器用さで映像に残したらしく、浦泉奈と(※ビジネス用ガラケーでだが)連絡を取って映像を渡す事にした。
同僚で悩んでいたのは間違いないけど、まだ俺達の事を信用していないと思うと悲しくはある。
それか案外浦泉奈は不器用なのかもしれない。
俺はそんな浦泉奈冨安という男、選手と戦えて良かったと思う。
これはせめてものお礼という事で。

すると原付に乗った一人の人間が現れた。
見た目は同い年?かもしれない。
颯爽と降りたその人は津向の名前を俺にたずねてきたので教えたら

「浦泉奈が世話になった。」

と言って津向から映像を受け取る。

「あ、あなたはまさか!」

そうか。
彼の出で立ちを見て悟る。

「艶衰だ。あとは覚えなくていい。」

当たり前のように去っていった。
彼が噂の同僚か。
艶衰・・・聞いたことがあるような。
けど、もうその人は選手では無い筈。

まあいい。

ブラックボックスはまだ俺達の世代でも味わえる様だ。

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