脱不幸宣言
あらすじ
あまり物欲はないが中学生からの付き合いを大事にしている実原黎月はゲームと旅行好きの今月だけ金欠男子高校生。
元々はちゃんと考えてお金を使っていたのだが度重なる不運の連続で貴重な青春をつぶすことになる。
そして一度夢に見た旅館へ一人おとずれていくのだ。
この不運を帳消しにできる現象を撮りに!
ってそんな時代遅れで小遣いが稼げるわけねえだろ!とは思っている。
金無し
金がない。
一番誰にも言えない相談のひとつはこれではなかろうか。
世の中には様々なマイノリティがあり、多様性がさけばれるが実際は強者の特権によって許されていて大抵の弱い人間である我々は
『金がない』
ことすら言えないのだ。
性的マイノリティを主張する人間たちを見てみろ。
やつらは平気で嘘をつけるし全てに力がある。
こっちは『金がないんだよねえ』すら言えない。
誤解してもらっては困るが俺は女性が好きだ。
まあそれすらも言えない世の中なんだから言い訳でも『金がない』なんて男子高校生でも言えねえよ!
しかもその金欠の理由は考えなく貯金もしないでSwitchと昔のポルノ作品を買ったせいで親子中もよくなく高校生で一人暮らしをしている人間には高校では余計にそれが言いにくい。
別になんとも思ってなかったのにマジョリティがあまり好かれないのもこういう経験があるかないかで違うのかもしれない。
高校一年生男子・実原黎月は資本主義とは別で金の有難みと憎しみをいだいて今日も行く。
猛暑日はゲームに限るって確かに俺は言ったけどこんなに集まってくるなよ。
一人暮らししている男子高校生は少ないらしく、バイトも掛け持ちで勉強を両立しているからか高校でできた友達からはしたわれている。
その弊害で本来良いはずの運動神経も学力テストもたいした成績じゃないのになんでそんなことで珍しがられるのか多様性もきれいごとってことがいつも証明されるだけの毎日に何故かテンションが上がっている。
友達とそれなりにあって楽しむのは普段はバイト生活と孤独な勉強ばかりでつまらない毎日のストレスが消えるので今の友達付き合いは大切にしようと思った。
ただなあ。
このSwitchを買った時に結構節約していたはずが家電が壊れたり服がやぶれたりと出費がかさんで金欠だ。
こんないい人達の前で『金ないんだよねえ』と言ったら最後、ずっと気をつかわれる。
中学生までの友達なら事情を知ってもらえているので言わなくてもすむが高校からだと一から事情を説明しないといけない上に「十代後半にもなって」と言われそうで俺は怖い。
まるで友達付き合いのためにSwitchを買ったとも思われたくなくて単純に不運が重なっただけなのに。
夢で諭吉が「天は人の上に人につくらず」と高いだけの芸能人やインフルエンサーのエッセイや啓発本で印税かせいでる連中に見えて
『同情するなら金をくれ!』
どこかで覚えたこの言葉をぶつけたらバツが悪そうな諭吉の表情を見て目が覚めるほどに俺は金に飢えている。
それでもこうしてSwitchを買った意味はあったかな。
男子高校生は受験やら就職やら新しい生活に入るか、そのまま家や地元に残らされるか理不尽な生活を自分たちはくりひろげるしどんな選択肢でも自立はする。
「ところで実原、廃墟って興味ある?」
なんだこの唐突感は。
肝試し?
そんなアホな。
「興味無いわけじゃない。って今どきホラーかなんかで一攫千金ねらいか?やめとけって。プロのホラー作家達でも許可は必要だしこの前心霊系YouTuberが俺たちみたいなことを考えていて恐喝されてただろ?いくら考えるより行動だって書店の高い本にそうかかれていても勇気と無謀は違う!たのむからやめてくれ」
つい本音が出てしまった。
俺だって友達にこんなことはいいたくない。
でも現実をちゃんと知っておかないと命に関わる。
誰もブラック企業に入りたがらないのと同じだ。
俺も昔バイトで廃墟に行ってきたから。
さすがにそれは友達にはいえなかったが結果はお察しのとおり。
カメラの機材や泊まるための宿泊費、インタビュー時のクマよけやらあんな苦労はなみの人間には出来ない。
そんな現実を知ってしまっただけでなく今は動画の時代でもかせげる人間は限られている。
もしかして
「お前は金がないのか?」
あやうく『お前も』といいそうになったが変な考えを起こす時はたいてい腹が減った時や恐怖を感じる時、または金がない時だ。
「あ、いや、ちょっと心霊体験をこんなご時世だから経験したくて。」
周りの友達は気の毒そうな顔をしていた。
こら。純粋な男子高校生の夢だぞ。
笑うやつがいても良かったがなぜ気をつかうんだ?
だから「金がないと言えない」現実があるんだぞ。
「大変だけど動画の撮り方は分かってるか?」
自分たちの年代だとSNSも動画サービスも充実しているから金のためだけでなく趣味として動画編集を使えるやつがいる。逆にインターネットをなれべく使わないやつも。
俺はしかたなく彼の提案にのった。
行くんじゃなかったやめればよかった。
怖いとかそういうのじゃない。
もう肝試しなんて許可が必要になってからめんどくさくなって大半は遊園地にあるお化け屋敷で楽しんでる。
バイト時代の嫌な記憶がよみがえる。
しかも言い出しっぺの友達ははじめてなのか緊張している。
まだ投稿もしていないのにバズを気にするやつがあるか!
再生数が微妙だった時に考えればいいんだ。
作戦を!
まあ今回は許可をとるための下見でここで特にいい絵がとれなさそうならそのまま断ることが出来る。
仮に収益が出たらこの廃墟の特定をふせぐために管理者とは折半らしい。
そう上手くいかないってことだ。
ホラーは低予算で出来るうえに誰とかぶっていてもかぶらなくても世界中で多く楽しまれているコンテンツだ。
もちろん大前提として『そんなものは存在しない』ということ。
だが!
彼が未来の監督になるとしたらお近づきになるのもいいかもしれない。
「どうせこのままの人生が続くだけだ。大学へ行っても、就職してもなんにせよさ。夢も何も無いし好きなこともなかったから素直な気持ちに向き合ってホラーが好きって気がついて」
彼からそのことを聞いて安心した。
好きなことが見つからないことややりたいことがないのに金をほしがる自分とは違う。
もちろんそれが今後どうなるか分からないが手を貸したくなった。
それはえらそうか。
彼と力を合わせたくなった。
サバイバル術を使って友とかたらう。
「俺は否定しない。前に言ったのは現実だ。低予算とはいっても物価高騰するまえで最低10万はかかるものもある。でもさ、やりたいことがあるお前を見てると学業とバイトの両立でゲームやらなんやらに金使った俺が言うのもなんか違うと思って」
二人で握手し、廃墟の下見をして結局クマも出なかったがなにも化けて出てこなかったからここでのホラー動画作成はあきらめた。
そういえば夢で見た旅館があった。
多分旅行しまくっていた時に行きたかった候補の場所。
夢だからいびつだったが今、俺と彼は目当ての旅館にいる。
稼げるわけもなく、妨害もあると分かっていても男子高校生としてまるで何かと戦いにいきたくなる本能のようにさけられなかった感情があった。
「本当にここに何が出るの? 」
「出るのを待つんじゃない!作るんだ! 」
大学進学をするか別の場所で一人暮らしをするかを悩んでいたし金欠を言わなくてすむ理由として最適だった。
この旅館を使ってやる!
〜完〜
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