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あの日僕はどう感じたか第七章:最終

※ 過去掲載作です。
全七章、今回で完結。

過去に投稿サイトへ掲載した作品を再掲載しております。
なるべく掲載当時のままにしておりますが、読みにくい表現やその時代だから許された描写、表現には修正、加筆等をさせて頂いております。
基本的に掲載当時を尊重し、再掲載

お楽しみ頂ければ幸いです。


あの日僕はどう感じたか


  夏休みは折り返し地点。

  僕は塾で講義を聞いていた。
ドラマや漫画みたいに焚きつける塾講師なんて実際はいない。

  中学一年生だからかな?その割には出される課題が多い。

  僕はアイスキャンディーを咥えながら暑い電柱で待っている。

「塾お疲れ。おーきや。」

「久しぶり。時田ときた君。」

  時田君は荒海祭りで目頭を切ったり、腹部を強打したのに内臓も無事で深い傷はなかった。とはいえ一週間入院していた。

  それでも三日目になるといつもの彼に戻っており、若さだけじゃなく彼の筋力に驚いた。

  だけど僕は知ってる。
二日目に見舞いに来た時はずっと怖がっていたことを。

  そして、だからといってそういう弱さを見せない虚勢を僕や峰君にはしなかったことも。

「俺って回復力も高いんだぜ。」

「うん。知ってる。」

「おいおい。もっと元気出せって。俺が戻ってきて嬉しくないのか?」

「うれ…嬉しいよ。嬉しくないわけない。」

「なんでちょっと溜めたんだよ。」

「その…。」

  僕はちゃんと言わないといけない。

「時田君、置いてけぼりにしてごめん!」

  時田君の反応はとぼけていた。それから返事をする。

「俺こそ疲れさせてごめんな。」

「無理したわけじゃないよ。なぜかあの日に限って。」

  時田君はそっと僕の肩を撫でる。

「今日みたいな塾で抜き打ちテストやってたり、更に部活も一生懸命な興哉見てたらそりゃ大事な場面でああなるよな。俺も友達としてまだまだだな。」

  この暑い中、僕の様子をここまで知っているなんて。

「時田君も謝りたかったの?」

  つい聞いてしまった。

「ま、まあ娑婆の空気が良すぎてさ。」

言い訳が可愛いな。

「もう祭りはどうするの?」

  時田君は流石にうんうん唸っている。

「俺さ。
一人でも楽しもうかなと思ってたんだ。一人焼肉とかあるじゃん?けど、やっぱ決めた。」

  時田君は拳を突き上げる。

「次こそは慶太けいた美郷みさと赤嶺あかみねも全員誘っていくぜ。桃吉とうきも誘ってエンジョイだぜ。」

  これは気を遣ってるわけじゃなさそうだ。いつの間にか峰君のことも下の名前で呼んでいる。

  あれからのいきさつは峰君からも聞いていた。
いや、峰君が話してくれたんだっけ。
慶太を呼んでくれたのも彼だった。


-病棟にて回想-


  時田君の見舞いに言った後だ。
ロビーで僕達は医療ドラマみたいに話していた。

「ありがとう峰君。
介抱とか連絡とか。
慶太まで呼んでくれて。」

  峰君は「おう」とだけ返事をし、ゴミ箱に空き缶を投げ捨てる。

「誰も悪くない。
時田をボコボコにした奴らは別だ。白風の熱だって偶然。」

「分かってるよ。」

 しばらく沈黙が続く。
その沈黙を僕が破ろうとしたら峰君が話題を出してくれた。

「時田の運動神経は目を見張るものがあるよ。攻撃しないボクサーって感じか。」

  一呼吸置く僕ら。
そのまま峰くんは話を続けた。

「おかげで俺は助けに入れた。
どうしても逃げることができなかったら時間稼ぎは最低限するつもりだったけど。」

  そんな事を気軽に言う峰君の素性を僕は知らない。

  時田君の運動神経にはどういうカリスマ性があるのかな。

「峰君って行動力あるね。」

「策が無かったから素直に喜べないけどさ。だけど、俺は一瞬でも白風を無防備にしてしまった。」

「気にし過ぎだよ。僕はああするしかなかったから。」

  お互いが無力なんだな。
そんな事を思い知った。せっかくのリフレッシュだったのに。

「俺は平滝慶太に助けて貰ったんだ。
入学早々不良くずれに狙われてな。」

  そんな事があったの?だからあれだけ身体を鍛えていたんだ。

「どうしても殴れなかった。
振り返れば大した腕力でもなかったのにな。弱いやつを狙う弱いやつ。
けど、平滝ひらたきは強かった。」

  ここでも慶太の名前が出るのか。せっかく一歩踏み出したと思ったのに。

「だから、平滝への借りを返したってところかな。今度は白風に貸しを作る事になったけれど。」

  こんな情に厚い同い年が同中学にいるなんて頼もしいな。
僕はそれだけで涙が出てきた。

「お、おい。何も泣くことはないだろ。」

  僕は黙って泣いていた。
峰君はそんな僕に何か言うこともなく、そのまま一緒にいてくれた。

  僕は峰君と一緒に帰路に着く。

「祭り楽しかったな。」

  それは事実だったからうなずく。
ちょっと不器用なのが余計に彼への評価を上げる。

「チョコバナナの味は忘れてないか?」

「全然。美味しかったよ。」

「そうか。」

-回想終わり-


  峰君が「よっ。」っと手を上げる。

「桃吉もひっさしぶり。」

「元気戻ってきたな。」

「ああ。
興哉に桃吉もいりゃ百人力だ。
そういえば、まだ夏休み終わってないよな?どっかさー、三駅ぐらい遠い所で遊ばない?」

「また不良がきたらどうするんだ?」

「おい!冗談でもやめろ。」

「じゃ、どこで気晴らしする?」

「ゲームセンター…なんてどうかな?この時間帯なら大丈夫なはずだよ。」

「よく知ってるな。たまにゲームセンターに行くのか興哉?」

「結構面白いからさ。お小遣いの範囲でやってる。」

「夏休みは地元で過ごすのどうかと思ってたけど知らない地元もあるんだな。」

「俺もゲームセンターって行かないんだよな。白風、おすすめってない?」

「そうだなぁ。UFOキャッチャーぐらいしか教えられないけど。」

「金魚掬いの熱意を待ってる。」

「えー?UFOキャッチャーは素人だよ?」

「じゃ、次は俺がUFOキャッチャーの達人になる。」

  そんな他愛もない会話で終わった二〇〇六年夏。

  これからまだまだ僕の人生は続いている。
この後もずっと。

  あの日、僕がどう感じたか。

  それは友達との向き合い方なのかもしれない。
この話は僕が過去に浸りたいから書いたわけじゃない。
今、僕と共にいる人達に読み聞かせたかったから。
それだけだ。

またどこかで

完結


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