俺たちの道を誰にも選ばせないために
あらすじ
元キックボクサーでもあった二十二歳男性プロレスラー・ディバイター安酒は落とせない試合で勝利した。
しかし何故かしこりが残っていて勝利の美酒によえなかった。
そこでホラー番組関連で倫理感と戦う榎戸とひょんなことから出会い
「ホラー関係もグレーゾーンと資金繰りと戦ってますよ。」と話してくれた。
これを親近感が湧くというのだろうか?
二人は撮影の関係で森の奥へ進むことになる。
そして。
今日はこの技!
ワン、ツー、カンカン!
いつも通りゴングが鳴り終わり、試合終了。
リングの上だけでは観客のためにひたすら勝利後のマイクパフォーマンスを繰り広げる。
「今回のタイダルウェイブエクストラマッチ戦…はぁ、はぁ、俺の生死をかけた恨み清算マッチ、はぁ、はぁ、持ち金が少ない男連中がパートしながらもはぁ、はぁ、この会場にやってきてくれた!
確かに、はぁ、はぁ、俺も女性ファンが欲しい、はぁ、はぁ、でもな!
俺は元々極貧生活で生きてきて学校やら集団に対する、はぁ、はぁ、疑いと戦うためにここにいる。
リングに立つまで俺も搾取されてたんだ。
だからこそ、はぁ、はぁ、ここでプレリンダ阿東!
お前の露骨な女ったらしが嫌で女性ファンからお前を倒せと何回かファンレターがきた。
どうだプレリンダ!カミソリレターより正々堂々だろう!
貧乏人!なめたら、いかんぜよ!」
プレリンダ阿東はよくいるイケメンで同じZ世代のなかで熱い試合をわざとせず、
「華がなければ格闘やプロレスは盛り上がらない!
同じ若手として恥ずかしいんだよお前は!」と露骨な金アピールにSNSによる舌戦、顔を傷つけず、モテたいアピールをしながら金持ちの男女のファンを厳選して戦うその愚劣っぷりがたとえ事情があっても気に入らなかった。
プレリンダ阿東はそのくせ口下手で人を怒らす天才でもあった。
今日以外は。
「ディバイター安酒!てめえも、はぁ、はぁ、言わせておけば!
俺たちZ世代とか言われる二十代ならそれなりにはぁ、はぁ、もっと世の中変えていけると思ってはぁ、はぁ、団体を背負ってリングで戦ってるのは同じじゃないか!
綺麗事を言ってるのはお前の方だ!
次があるとは思ってない。
だが、俺は俺のやり方ではぁ、はぁ、必ずお前にリベンジして戦ってやるよ!
その偽善めいたマイクパフォーマンスが出来る口にマジでまずい安酒飲ませてやるかんな!!」
乱暴にリングへマイクを投げて去っていくプリレンダ阿東。
どうやら試合内容関係なく悪い意味で傷つけてしまったらしい。
「コーナー側に引き寄せられても技を決めて逆転なんてどんな特訓したんですか?」
いつも通り金のないありがたいファンが興味津々にディバイター安酒のやってくる。
しかも好奇心旺盛な同世代から何も言わない中年男性など。
女性ファンもチラチラこちらを見て迷っているので人間関係によるダメージで人を信じられないのか、頭で考えて声をかけられないだろうか?
ディバイター安酒は決してファンを選ばない。
かつて格闘技とプロレスに救われ、どん底で何度も死のうと決意しては泣いて諦めた人生をどうしても変えたかった。
最初はキックボクシングで戦っていたが華だの会員選びだのSNSの活用だの十代にやらせんなよ!と思い、試合で勝っても有意義ではなかったので十九歳で引退してプロレスへ練習生経験を二年やり、人手不足で急きょリングに上がらせてもらって勝ち続けてしまったから二〇二四年で二十二歳になるのにコアなファンに支えられていることに気がつく。
おかげで金欠や労働による苦しみと逃げられない現実の辛さを忘れずにいられる。
「運が味方しただけだよ。
いや、ファンであるあなたのおかげです。」
嘘も何もない。
プレリンダ阿東を倒すことだけを考えて大学生にも専門生にもなれなかったコンプレックスを建前にいけ好かないイケメンをリングで倒せるマッチメイクがやっと決まってそこで勝っただけだ。
そしてファンも喜んでいるのになんでこんなに胸が痛いんだろう。
『綺麗事を言っているのはお前のほうだ!』
『その偽善めいたマイクパフォーマンスが出来る口にマジでまずい安酒飲ませてやるかんな!!」』
傷ついたんじゃない。
ディバイター安酒はプレリンダ阿東に嫉妬していたのだ。
物価高騰の中で若くて天才で金持ち。
同世代なのにリング外でもキャラを貫く姿はかつてキックボクサーとしてスポンサーがつかないのに誰にも媚びなかったある友と似ていた。
だがプレリンダ阿東は人気も何もかもがある。
そんな奴を倒したのになぜこんな罪悪感につつまれるのだ?
もう何度やってもこちらが勝てるのに!
しこりが残ったまま笑顔で金欠に苦しむファン達とやり取りをしてサインまで書いた後、一人街を歩くことにした。
* * *
自分の戦いはほんとうに弱いものの味方のためだったはずなのに!
ディバイター安酒は安酒どころかフリードリンクでよえる技を覚えて健康にも気を使っている。
もちろん飲むのはコーラだぜ!
そこでマスターが顔をしかめながら話しかけてくる。
「あの、常連さん。
キャラづくり?かなんか知らないし、ご時世とかそういうのあるかもしれないけれど、せっかくなんだから飲みなよ。
タクシーで帰るんでしょ?
別に強制はしないけどさ、一時期の公務員とかみたいに品行方正よそおわれるの気持ち悪いんだよ。
常連さん今どき無差別級の海外格闘家でも見ないめっちゃ筋肉質じゃない?
コーラって!
笑っていいの?
なんかあったんですか?」
そうか。
もう行きつけになっていたのか。
会話もしたのかよく分からない。
なぜならディバイター安酒はプロレス系ぼっちだから。
そういう決めつけが良くないとここで会話の練習をしていたら常連か。
しかもだいぶ目立つお客さんのようで。
「さっき試合で負かした相手が充実している人間だと思い込んでリングの上でたたきつぶしたら『お前の方が偽善者だ!』って言われまして。
所詮負け犬の遠吠えと分かっていますよ。
でも恵まれていたと思っていた敵の背景を想像できなかったのに『俺はヒーローです』なんて嘘をもし周りについていたらキックボクシング時代に判定上等と文学的楽しみを持たない金も払わないアンチをスポンサーをつけずに戦ったかつてのキックボクサーの友とやんちゃしてた頃と変わらず全てに壁をはったまま生きていたのかなあなんて考えると…。
ついでですがその時一緒に戦った友は今もどこかで戦ってるんですけれど、違う道へいった俺は話しかけにくくなっちゃって。」
するとさっきまで顔をうつむかせていたどこか陰のある男性までもよった勢いなのかこちらへ話しかけてきた。
「あんたもそうなのか?」
ただ彼は酔っても短めな出だしで。
「その世界でしか分からない苦悩ってありますよね。」
マスターも含め彼の話を聞くと、どうやらホラー番組で映像をおさめている仕事をしていて聞き込みで心霊体験に困っている投稿者から
『あんたらは人の不幸で金を稼いでるんでしょ?』
そう言われながら人手不足、倫理感、映像機器高騰に出来るだけ投稿者に寄り添おうとして廃墟や心霊スポットから映像に縁ある場所まで調査しても何も得られなかった苦しみを共有するしかない辛さがあったらしい。
「人間って、なんでこんなにわかり合えないんでしょうね。」
マスターも自分達の話を聞いてくれたが三人でため息を吐いた。
そのあとで買った飲み物で乾杯したのだが。
こういうのも長く続いている生きづらさなのだろうか?
コンプラ厳守自主製作
だからって!
酒は一滴も飲んでいないリングネーム負けしている人間ではあるが、
え?
えっ?
「せっかくですからギャラ高くするんで自主製作手伝ってほしくて。」
いやいやいや。
まあまんざらでもないから廃墟に来ているわけだけれど。
なりゆきが強引なのはホラー番組もそうなの?
こうしてディバイター安酒達は廃墟へとやってきていた。
「許可は取ってあるんでそのまま進みましょう。」
「いや、こちとらホラーに関しては初心者なんですけれど。
クマとか、危なそうな犯罪集団や宗教集団がいたとしても流石に多人数はボディガードはできないかもしれませんよ。」
そうだ。
自主製作というのが詳しくは分からないがディバイター安酒は映像関連にも出演経験のある先輩プロレスラーの話を思い出す限り、自主製作は営利目的・・・つまり売るためのものではなくあくまで費用も何もかも全て自分で用意して制作者達だけで楽しむものらしい。
だがここまで慣れているとはいえホラー番組関係者は筋力や武力に頼らずたった数名や一人でこんなことをしているのか。
コンタクトスポーツしかしていないディバイター安酒はちゃんと自立した人間だと思っていたがホラー番組関係者の行動力にはかなわないと思った。
しかし人手が足りないとは言っていたものの機材をこちらに運ばせることなく、むしろ気を使わせてもらっていてディバイター安酒は
「なにかやることはありませんか?」
とホラー番組関係者である彼に聞いてみる。
すると
「監督…いや、美写でいいです。」
あんまりこういうのはしたくないんですけれどと名刺を渡された。
美しく写ると書いてめおとり。
苗字か偽名なのかもしれないけれどとがった方だと一瞬で知る。
とはいえやることは廃墟を歩いてカメラを構え、物理的な現象はディバイター安酒が隠れて行って人影やありえない高さからのさり気ない登場を人間の死角から演出などディバイター安酒は手伝いとはいえ体格の活かし方が前時代的で失礼だと言いたかったが規制関連の厳しい現代で美写さんの監督魂に圧倒され映像を完成させる。
「自主製作がどういうものか分かりませんが、思ったより簡素なんですね。」
プロの腕でホームムービーを撮るのならもう少し凝るのでは?と思っていたディバイター安酒だったが現実的で夢がないと少し落ち着いてしまった。
すると美写さんはここまでのきっかけを語り始めた。
「映像関係やってると動画とか見ててもつい『こうしたらいいんじゃないか?』って他の作品楽しんで観れないんです。
華がある世界じゃないですし、心霊現象なんて自分達でさえ信じてなくて。
それでも投稿者たちは困ってこちらを頼ってくれてるのに何も出来ないなんて、説教だけ垂れ流す地方の福祉関係者やカウンセラーみたいな事務的対応のようで投稿者達に何も出来ないのが本当に辛くて。
それでもカメラを撮るのは好きだからこうやって一人でやってくるんです。」
想像以上の苦労人でだった。
そして投稿者たち…自分達プロレスラーでいうファンのために解決させたかった思いやりもある。
だからこそ辛いのか。
プロレスなら試合で観客を喜ばすことが出来る。
だが心霊映像関係者は投稿者のために全力をそそいでも解決しない苦悩を共に抱えて仕事をしなければならないのか。
マスコミなんて糞だが美写さん達ホラー番組関係者はそのマスコミによる悪意も経験しているのかもしれない。
こんな監督がいたなんて。
ディバイター安酒はなんて彼に声をかければよいか分からなかった。
でもこちらもプロであるからこそ答えることにした。
「ジャンルは違いますが俺も昔、問題児と言われて病院連れてかれて精神科医が許せないまま生きてます。
でも、キックボクシングを昔やってた時に怪我をした時に外科医に助けられて。
それでも医者を信頼なんてしてはいないのですが
プロレスをやるようになるとお金がなかったり、行き場をなくして精神科医とか頼らないといけないファンや未成年なのに苦労してチケット代買ってくれるファン、さらに幸せについて悩む女性ファンや一人でも生きていけるようにリハビリしてるお年寄りの方が俺の試合観に来てくれるんですよ。
俺は映像技術も、廃墟へ一人でいく勇気もありませんしそもそも対戦相手だからって嫉妬してた選手に勝ってファンを感動させたのに誰も救った気持ちなんてありません。
大事なのはすでに自分達が出来ることで理解されない人生をどう生きて、どう伝え、そして煽りも強制も・・・すみません。プロレスラーなのにそんな倫理的なこというの。
とにかく俺たちは思い上がらず魂をこめ続けて魅せ続けるしかないのかもしれません。」
我ながらうまく答えられなかった。
本当に人生は正解がない。
それでもジャンルは違っても同じプロの道を歩く人間として、そして飲み仲間としてはげますのが精一杯だった。
リングではあれだけ威勢よくアピールできるのに。
「だから綺麗事はお前の方が多いんだ。
偽善者!」
この声は?
物陰から誰かがディバイター安酒に飛びかかる。
「おまえ!まさかプレリンダ阿東!なんでここに? 」
「修行だ。
プロなら当然だ!」
この組み方は完全にMMAだ。
金持ちイケメンキャラかと思ったら本格的な格闘技までならってやがる。
しかもなんだか様子がおかしい。
目に見えるレベルで紫のオーラがプレリンダ阿東にまとわっている。
「ディバイターさん、それここの呪いの正体です!その人に取り憑いてるやつ。」
ほお。
いつもはSNSでも余裕をぶっこいていたと思っていた彼がこんな誰にも理解されにくい場所で練習していつでも対戦できるように鍛えていたとは。
「プロならリングでやれよ。
そのMMAの腕前なら日本の格闘技興行に呼ばれるだろう。
馬鹿にしてるわけじゃない。
金欠人間にとっては喉から手が出るほど羨ましい属性なんだよ。」
「お前のような貧乏人相手にZ世代がこびていて見ていて腹が立っただけだ。
リングで勝てず、喧嘩をしないためにはここで誰か映像を撮ってくれる人間に声をかけたかった。
まさかその最初の段階でお前に会えるとは。」
こいつが売れるようになった理由が分かった。
何もかも計算し、たとえ他のジャンルであっても研究をしている。
だからリングの上で華があり、コアなファンが応援してくれているのかもしれない。
だが…。
「負けた腹いせにしては手が込んでいる。
心霊の力まで使って。」
「やけに霊のことを受け入れているなあ?
弱者のファンに好かれてるだけある。
お前も見た目と金に人間関係を気にしてる雑魚のクセに!」
よほどあの時の敗北とディバイター安酒のマイクパフォーマンスが彼のプライドを傷つけたのかもしれない。
ここは言葉ではなく行動で示すしかない!
「悪い。
俺もお前のことを詳しく知らないんだ。
世の中は不公平だ。
俺に無いものをお前がもっていて、俺にあるものがお前にはない。
確かに前のマイクパフォーマンスはお前にとっては偽善だった。
いや、俺は前から良い事をしてると思い上がっていたのかもしれない。」
だが!
だからこそ負ける訳にはいかない!
野良試合というかこれはもはやただの取っ組み合いだ。
もしもの襲撃には互いに格闘技経験で備えもある。
しかし美写さんを巻き込まないよう…いや、ここは…。
「美写さん!カメラ回してください!」
「え?証拠のため?」
「違います!廃墟での野良デスマッチってことで忘れれない個人の記憶として最後までカメラにおさめてください!」
「でも!」
するとプレリンダ阿東が彼に指示をする。
「俺には呪いのオーラがある。
そして非現実的な廃墟でのプロレスラー同士の戦い。
本当はたぎってんだろ?
カメラにおさめたくて!
これが漏れても俺はあんたらを訴えない。
だから」
「最後まで写してください!」
「最後まで写せ!」
こうなりゃ最後まで試合してやる。
本当はなんだかプレリンダ阿東とは分かりあえそうだと思っていた。
だがきっと敵対したまま。
ディバイター安酒はメディアが作った「Z世代」という言葉が嫌いだがプレリンダ阿東はあえて使うほど寛容だ。
だからこそ全身全霊で戦う。
呪いのオーラなんて言ってるがちっともプレリンダ阿東の能力向上につながっていない。
気分だけホラーを味わいたかったのか、それともプレリンダ阿東が強いだけか。
美写さんもカメラをじっと構えてる。
同じ若いもの同士、体力尽きるまで戦おう!
うおおおおおお!
三人は誰にも見られることがない戦いを記録した。
たとえベストを尽くしても、尽くせなかったとしても
あの後のこと。
奇跡的に大きな怪我もなく、少しだけかすり傷がついただけだった。
それでも二人して「痛ってえ!」と美写さんの手当がなければ我慢も出来ないほど。
それからも関係は変わることなく、他の試合へそれぞれ挑むだけだった。
しかし美写さんがディバイター安酒とプレリンダ阿東のファンとなってくれた。
人見知りする美写さんの比重はディバイター安酒におきがちだが。
いいなあ。
他ジャンル交流。
プレリンダ阿東の輝く表面は一面にしか過ぎない。
分かってはいても恵まれない家庭や環境にいたディバイター安酒には嫉妬の対象であり、試合へのモチベーションでもあった。
そしていつも通り彼とディバイター安酒はすれ違う。
あのオーラも、タイダルウェイブエクストラマッチ戦後の絶望もない。
「次はお前に勝つ。」
ディバイター安酒には確かにそう聞こえた。
だが振り返らない。
もう同情なんてことして傷つけもしない。
魂を込めて戦う人間として自分達の舞台で戦うだけでいい。
それでも。
それでもまた悔しくなったらリング外だとしてもいつでも相手になる。
そして俺は負けない。
ディバイター安酒は美写さんと今までのファンの前で苦労話を語る。
まずは自分自身の人生を。
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