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避けられぬ懐疑〈寝相〉

※お祓い済みです。

我々は心霊確認班。
この世には様々な事情が交錯し、パラレルワールドのような事象が巻き起こる。
ただ一つ言えるのは、我々の世界はたった一つだけということ。
女性達を襲った謎の種族と青年。
逃げ帰った青年は、パートナーを失った悲しみをただ眠るだけの日々を過ごしていたのだが。

前回

関連話

◎暗い朝

心地よい朝を俺は知らない。
ガキの頃に何度も見た夢なんていくつあっただろう。
一つ言えるのは

「起きて語る夢よりは遥かにマシ。」

ということだけ。

現実で叶えられる事は妥協が関の山。
金の無い精神科医の餌になる為に、健やかだった肉体と精神を糞みたいな危険思想のジジイ、ババアの為に永遠にこき使われる。
せっかく好きになったアニメ、映画、本、ゲームの感想もフーリガンのオジさん、オバさんに「昔は良かった。」と押し付けられるだけ。

俺が今まで眠って見た夢の中で最高に心地よかったものがあった。
ある作家気取りの人間がいた。
やってる事は過去のインターネットで皆んながやっていた過激な発言を自分の経験を混ぜてさも自分が有識者のように語るべき論だった。

そいつが特定され、金縛りにあい人間には散々ニュースやネットでくだらない過去を晒され霊現象に苦しむ姿を監視カメラの視点で見る事が出来たという内容。

俺はこの世が許せない。

家も抜け、なんとか就職先を見つけてアパートを借りた。
あの夢を見てからかつて「裏」と呼ばれた世界に溶け込んでいく。

「低収入野郎が!」

「てめえに言われたくねえ!」

ふん。
同族嫌悪しかやる事がない路頭に迷う連中。
俺もギリギリの生活だ。
だから栄えてる地までやってきた。
何が人間愛だ。
ガキの頃に見た文学も何もかもは大した知恵にはならなかった。
参考になるのは俺が何度も見た夜に見る夢。

「いいねえ。
これが人間の力の根源。」

ついに幻覚までみたか。
タバコや酒、他のヤバイ嗜好品には手を出していないのが俺の自慢だったが。

「幻覚じゃないよ。
君と手を組みたいユウレイのお願いだよ?」

この感覚は。
まあいい。

「お前は何がしたい?」

ユウレイは俺の腕に触れて指を動かす。
指先には争っているさっきの人間がいた。

「ボクが君の望みを叶えよう。」

そこから俺とユウレイの生活が始まった。

だが、それから数ヶ月後に後輩の澪談まいだ・・・
男子高校三年生にユウレイを倒された。

非日常しか救いのない俺は、恵まれた人間からの裁きを受けた。
もう元には戻れない。

俺はアパートに篭った。
趣味の筋トレだけは欠かさずに。

◎触手のかけら

うぅ・・・うぅ・・・

眠っているのか、目が覚めそうなのか分からない。

「ねえ・・・起きてよ・・・まだ、味わってないでしょ?
自分だけが・・・ユルサレル・・・そしてボクもいる・・・何度も・・・その鍛えた身体で攻撃したじゃないか・・・」

お前なのか?
けどお前は・・・もう?
いや、ユウレイに成仏や死かんて概念はないかも知れない。
俺にすり寄って置きながらそういう質問は全て無視していた。

分かっていたよ。
俺は利用されてるって。
でも、一体化なんてよく思いついた。
ユウレイも人間の優劣を押し付けられて
いるかどうか分かるらしい。

「うぅ・・・。」

筋肉が強張る。
高校生になって時間が少なくなった中、密かに質の良い鍛え方を続けていたからな。
だが、今はその筋肉が俺を苦しめる。

廈門道九弾あもみちくだん
君はボクと一緒に獲物を手にかけたじゃない・・・か?
いってたろ?俺の筋肉だけじゃ怨みを晴らせないって。」

お前はもういない筈だ。
これは夢だ。

「夢じゃない。」

はっ!
目覚めたら昼だった。
仕事?
いや、そんなのしてたっけ?
ふん。
まあいいや。
03年生まれでこんな華のない生き方なんて誰にも見せられない。
見栄を張ってるわけじゃない。
それも俺の生き方だ。

オレハ・・・オレヲヒテイシテキタヤツヲ・・・

俺はトイレへ向かった。

✳︎

「はぁっ・・・はぁ、はぁ。うっ・・・。」

腹が痛い。
腹痛というより腹筋が攣った。
さっき吐いたのに。

「目が覚めたねえ・・・大丈夫。
死にはしないよ。
君も、ボクも。」

ふふふ。
そうか。
ユウレイの身体の一部が俺の筋肉にあるのか。
不気味な奴だ。
置き土産なんてしやがって。
こいつはユウレイじゃない。

新種だ。

俺に寄生し、共生しているように装う。

「い・・・い、痛え・・・。」

殴られたような衝撃が全身を襲う。
澪談にやられた一撃の痛さか?

痛みのバックアップか。
俺のパートナーなだけある。

「ボクを忘れて・・・生きるなんて君らしくないよ。
ボクは知りたい。
人間が恐怖という概念を作って支配し、闇に葬った事実を何食わぬ顔で忘れて繰り返す程度の知性の先を。」

俺も知りたい。
もう、俺は・・・人間じゃない。

俺達はやっと出会えたコンビだ。
男女や同性での恋もそうなのだろうか?
知りたいのは俺じゃない。
ユウレイだ。

そしてこいつはユウレイじゃない。
電子空間からやって来たと言っていたが、この身体の構造は有機物そのもの。

もウ一ド
獲物ヲ狩るよ。

多数派の幸せは全てがマヤカシの押し付けでしかない。

「君とボクで変えよう。
03年に生まれた不幸をボク達が獲物を食い続ける事で証明出来るのだから。」

後輩に殴られた事は水に流そう。
ジェル状のユウレイは俺の細胞に共鳴し再び溶け込む。
生きた人間の肉の味。
二◯二三年で二十を迎える俺の身体。
蝕まれる。
これが同化というやつか。

俺は現実という悪夢の中で、自分の日常を認めていた。

◎共鳴

どちらが九弾なのだろう。
ボクはこの身体とその精神を交互に変えて歩いていく。
カメレオンについて学習したからね。
フィクションばかりネットには転がっていた。
科学者のデータベースへは下手なセキュリティなのに厳重で他に学べなかった。

ボクの景色には警備員が転がっている。

「九弾は強いねえ。いや、今は寝てるからボクが強いのか?」

種族の長からの指令をシャットアウトして九弾と一体化したからねえ。
ボクもお先真っ暗だ。
九弾の後輩、強かったなあ。
何でこっちの味方しなかったんだろう?
人間ってよく分からないねえ。

良い奴かは兎も角。
気になる情報だよ。
九弾も甘いねえ。
後輩と何があったのかはどうせボクには喋らない。

せめてもの情けだ。
苦しい生活を一緒に変えよう。
せっかくここに来たのに、また昔には戻りたくない気持ちは分かる。
ボクも種族のトップから生け捕りにされて記憶と経験を吸い出されてしまう。
何故、どいつもこいつもそんな悪習ばかりラーニングするのだろうか。

絶望しているのはボクもなんだよ。

ここの情報をしっかり奪ったら、じっくりと遊ぼうよ。

また夢の中で囁くからさ。

この生活もまた多用的なカリキュラムとでも言うのかは別。
結局起きて見る世界以上の地獄はない。

澪談はそこから何を見出した?
それだけを知りたい。
でないと、ユウレイに喰われる!

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