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避けられぬ懐疑〈途方〉

※お祓い済みです。

我々は心霊確認班。
この世には様々な事情が交錯し、パラレルワールドのような事象が巻き起こる。
ただ一つ言えるのは、我々の世界はたった一つだけということ。

この話は一人の女性達と青年の物語。

前回

◎死すら縁なし

程良争美 ほどよきひさこ
年齢を聞いたら、余りの私の幼さに誰しもが引く。
だから問うな。
年齢不詳の私には、家族や友人も居ない。
そもそも片親だった気がする。
不幸の羅列では無い。
髪も乱れ、若さも職も何も無い。
それでも私の境遇は私だけの物だ。
馬鹿にするなら地方へ飛ばしてやろう。
ってそんな力ありゃしない。
配信業を金目当てでがむしゃらにやったら逆に何かを失った気がしてならない。
私のような昭和を引きずった生き方でどうにかなることなんて、そう多くはない。

今はもう自宅も引き払った。
働くも怠けるも、せっかく女性として産まれたのに対して恩恵は無かった。
同性婚は色々と美化されているけれど、私達の考え方は独特でね。
その労力は異性に捧げるしかない。
というか現実の恋や結婚や愛って誰も助けてくれない。
私が好むフィクションでもそういうのは少ない。
海外はマシに見えるだけだ。

死んでみたい。
誰かは生きるべきだと、幸せを手に入れたから叫びやがる。
お前らが死ね!
こういう時に現実の空虚さを知る。

私は別にイケメンがどうとかそういうのは気にしない。
好きなタイプは皆、別の相手を選んだ。
それは私に魅力がない可能性もあるけれどきっと思う通りに行かないだけだ。

一人で生きて、一人で死ぬ。

それが確か、私が尊敬している方の言葉だった。
ホームレス生活のような日々で適応しようと私はもがいている。
恵まれたお前らでは決して真似出来ない生き方を貫こうと思った。
勿論虚勢だ。

「オバサン。
汚いから消えてくれよ。」

何がフェミだ。
現実は私のような女を助けてくれる奴なんてどの性別にも居ない。
このガキは私を殺してくれるかもしれない。
どうせ償うつもりも無さそうだから全てをこのガキに押し付けてこの世から消えてやろう。

「丁度いいねぇ、坊や。
私はもう生き遅れている。
早く潰してくれないかな?」

するとガキは私から離れた。
ガキといっても推定十九から二十一くらいだ。
しかもインターネットの発達によって日々時代について行こうと必死な存在。
安易にリスクを背負わないなんていい度胸だ。
その方がリターン多いしな。
私はまた生きてしまうのか。

すると意味不明な呪文が聞こえてきた。
いや、よく聞くと日本語だ。
霊?クリオネのような姿がハッキリ見える!

「戸籍も不明そうだし利用できるかもよ?」

ふん。
人間がクソなら得体の知れない奴もクソか。
諸君。
これが詰んだという現象だ。
こんな言葉は使いたくないが、ここ数年の若者は一人でも賢い。
正確には一人と一体?一匹?の幽霊モドキがいる。

安易に殺しはしないか。
どうせ生きて利用されるならこんな形は嫌だったが。
けど寿命なんて気にならない。
生き遅れた私は追いつくのだな。

「待て!」

あれ?幻聴かな?
声の方を見ると棒を持った眼鏡男子がいた。
健康意識が高いのか思ったより筋肉質だ。

あれ?勝ってくれるんじゃない?
別にこの子を信用はしないが寿命が少し伸びてから問い詰めてやろう。
今更絶望などしない。

そう思っていたら謎の幽霊が彼を縛った。

「いいなあ、お前ら種族ってのは。
これなら楽に暮らせそうだ。」

救いの手あれば叩く手もあり。
ここで出る杭は打ってんじゃねえよ!

今度こそ私達は死ぬのか。

◎ほだされて

 浦泉奈冨安うらいずなとみやす
あの浦泉奈土蛛うらいずなつるもの弟。
ただの兄弟では無くて、特別な存在として祭り上げられていた。

俺は浦泉奈冨安に勝ったのだ。

それからはオッサン達が宣う「薔薇色の人生」
という誰しもが送る事の出来ない幸せそうに見える生活を楽しんだ。
けれど実際は落ち着く暇もない。
学業もあるし、ずっと試合をするのは好きじゃなった。
同世代の女子と過ごすのは疲れる。
何でもかんでも男性のせいにして、フェミニストに守ってもらおうという他の動植物に申し訳ないのか?とも思わないあの人達を嫌悪している。
勿論、そんな本音は嘘で固める。
皆が望む理想像を演じるのは、未来の為だ。

つまらない。
楽しくても一瞬。
大抵フィルタリングしても大した思い出じゃない。
運が良ければ美化したかもしれない。
悪かったから美化なんてしないだけだ。

本が素晴らしいと言われて嫌々図書館に行けば、都合の良さそうな教育本ばかりだ。
そんなに本を読まない俺でも読めばわかる。

「お前絶対自分の力で書いてねえだろ!」

SNSへ行けば自殺が賛美され、生きることを肯定はされていない。
他のアカウントを見れば薄い文章に中身の無い言葉。
センスがある?バズる?
それで誰が助かるんだ!
俺の時はアンチコメントしか来なかったぞ?
インターネットは嫌いでは無いが出来れば避けたい勢力だ。

二○二三年で俺も高校を卒業出来る。
今時大学へ行こうが、専門へ行こうが、好きな道へ行こうが誰も夢や理想なんて語りはしない。
そこまで馬鹿にはなれないんだ。
なりたくても。

俺は確かに名声を手に入れたのかもしれない。
けどそれは仕事だ。
俺にしか出来ない個性。

けど…何なのだろうか。
この満たされているからこそ産まれる負の感情は?

幸せの加害性か。
幸せの被害性もあるんだよな。
けど、幸福な人間は口出しをしては生きていけないのだ。
嘘でも幸せなフリをしないと辛いだけ。
フランス革命が起きたように。

誰にも言えない悩みを抱えても、大学に行けば目的は見つかる。
だから格闘家を辞めてこれが正しいと俺は思って生きてきた。

昏遠久澪談とほうくれまいだ

それが俺の名だ。
これから幸福の中で死を迎える。
死にたくは無いが目的を作るしか意味を見いだせない。
歩きながら俺は考えていた。

「うっ…グァォァ!」

絶叫?
何か撮影か?それともライバーの演出か?
橋の下で何かが起きていた。
鍛えてきた視力で見えた「幽霊のような」何かに捉えられた眼鏡の男子。
歳は俺と同じか下か。
そして女性?なのか分からないが羅生門に出るような人が涙を我慢しているのがここからでも分かる。

そして傍には

「先輩?」

高校は違うが、あの姿は幼少時に親しんだ先輩そのものだ。
良からぬ事をしている当事者なのに平気な振りをしている。

「おいおい。
ヤンチャなまま成人かよ。
気分が悪い。」

知り合いの成長の遅さに痺れを切らし、もう縁を切る事を決めた。
恐らく奴があの幽霊らしき何かと組んでいる。
ただあの幽霊にこちらの攻撃が効きそうに無い。
だがこのまま見過ごしていいのか?

同世代とプライドを捨てて窶れている人を放置して。
正義感じゃない。
頭で考えてしまう。

『自分には関係ないし』

そんな悪魔なのか天使なのか分からぬ声が。

俺は確かにやるべき事を果たした!
それ相応の対価も得た!

でも…それは俺が世間や世情と戦う為に周りもやっている事だ。

俺にしか出来ないことはなんだ?
考えてる時間は無い。

それでも俺は考え続けてしまった。

◎メシアなんて自己満足なのだろうか?

 折角現れた眼鏡男子。
目の前で幽霊に弄ばれている。
強い!
こんなの人類がかなう訳が無い!

「すぐ殺すなよ?
観てる側としては色々と要求があるからな。」

我儘な人間と笑いながら幽霊モドキは男子を弄ぶ。

私は悔しかった。
目の前のナイトを眺めるしか出来ない。
これは罰だな。

私はこの境遇を今まで誰のせいにしたこともない。
それだけが自慢だった。
憎しみは何も産まない。

そう!
何も産まないのだ!
寧ろこのガキを今、恨めば非生産だけどあの子を救える!
でもそれすら出来ない…。

働けないからとか学歴や職歴がないからとかそういう事じゃない。
たった一人のヒーローを救えない私の醜さと本質が許せない。
でも涙を流す訳にはいかない!
それが私の出来る抵抗だった。

ヒーローはフィクションのみ。
エゴのみが存在する。
そしてこのガキも幽霊モドキも氷山の一角。
倒しても自己満足ですらない。

だからって彼を見殺していいのか?
彼にもかけがえの無い生活や仲間がいて、未来がある。
そんなあの子を…私は…!

「ど根性!!!」

私は素手だけで力を振り絞った。
男女共に何とも思っていないだろうこのガキへ初めて芽生えた憎しみを抱いて。

しかし

「ぐはっ!」

蹴りを腹にいれられた。
倫理観を形式だけ守ってるようだ。
目の前のあの子は善性を感じるのに、このガキには本能とも悪意とも違う底知れぬ混沌を感じる。
幽霊モドキもこのガキも出会うべくして出会ったのか。

「社会の底辺共が!逆らいやがって!」

ヒーローよ。
こんな女と死ぬなんて嫌だったよなあ。
眼鏡を掛けているだけしか分からないけど、サブカルボーイだと決めつけた私を赦さないで欲しい。

「二人とも諦めんな!」

幽霊モドキが仰け反る。

「何だと?澪談が人助けを?」

知り合いなのか。
けど、幽霊モドキに綺麗なミドルを当てた彼にとってはこいつらは暴力をせざるを得ない敵と認識しているのだろう。
よく女性は男性から理解されないと言うが、男性もよく理解出来ないことが多い。
それと私が縁がないことは関係ないのだからな。
諸君よ、世界は広いよ?

「知り合いなのか。でも、こいつもわたしを攻撃した。
始末してもいい?」

「構わない。
俺も攻撃するが、証拠消しとけよ。」

もう一人のヒーロー。
彼はルックスも良くて髪も珍しく黒色だ。
まともそうだから油断出来ないが、目を見ると底には私と最初のヒーロー あの子 をちゃんと助けようとしている。

「あんたも堕ちたな。」

このヒーロー頭と勘がいいのか。

ガキの方も知り合いだった頃の記憶は捨てたようで幽霊モドキと一体化した。
え?漫画みたい。

「聞けばお前はだいぶ優遇されたらしいなあ?幸せな奴は余裕がありやがる。気に食わねえ!」

お前が言うな!

さっきまで弱者を虐めといて…いや、最初のヒーローは比較的強者だ。

「幸せ?俺より一つ歳を取ったのなら、それはただのリターンでしかないって何故分からない?」

もう一人のヒーローは敵意を込めて拳を握る。

そして戦いが始まる。
もう一人のヒーローはちゃんと攻撃を見て避けている。
当たって擦り傷が出来ても死を覚悟している。
すげえ、肝が据わってる人初めて見たかも。

「何で…満たされてるお前がこんな奴らの為に?」

もう一人のヒーローはスイッチが入ったかのように切り替えてる。
殺気?
いやこれは?

傍で咳き込む最初のヒーローを私は匿う。

「さっきは有難う。一緒に逃げよう。」

彼は決して嫌な顔をせず、寧ろ私を心配していた。
そして、助けてくれた彼のことも。
私は毅然として彼を説得する。

「彼なら大丈夫。オバチャンも信じて。」

すると彼は黙って頷いた。

戦いは続いていた。

「一体化した俺達に臆せず攻めるだと?

「後であんたを殴っても、そこの幽霊の欠片を掴んで警察に突きつけてやるよ。」

「俺を売るのか?」

「事情?言い訳するなら最初から手を出すなよ!」

もう一人のヒーローは説得も諦めずに蹴りと殴りを混ぜ合わせる。
するとガキと一体化していた幽霊モドキが分離して彼を攻撃しようとする。

「辞めろ!俺から離れるな!」

「ふん。あんたの身体じゃ倒せない。」

分離しかけたガキの身体にもう一人のヒーローが技を当てる。

「うっ…く、くそっ…なぜ?」

シンクロしていた幽霊モドキにもダメージがあり、唾らしきものを吐いた。
倒せると確信した彼はかつての先輩であろうガキに遠慮なく攻撃した。
幽霊モドキの装甲があるからか死なないようだ。

「く、くそっ…最初からコイツを利用すれば…。」

彼は幽霊モドキに一言呟く。

「俺だったら断ってる。悩んでいたとしてもだ。」

トドメをガキと幽霊モドキに食らわせた。

「に、人間如きがぁぁぁぁ!」

ベタなセリフで幽霊モドキが昇天した。
ガキもボロボロだが何も言わずに去っていった。
警察に連絡しようとしたがアイツらがこのことを聞いてくれそうもないし、そもそも私達弱者の言う事なんて聞いてはくれない。

「大丈夫ですか?」

もう一人のヒーローはまるでプロのように傷の少ない顔で手を差し伸べる。
でも痛そうだ。
その痛みは最初のヒーローにも伝わったようだ。

「あ、貴方は昏遠久澪談君ですよね?」

え?そんな有名なのこの子?
テレビもネットも見れないから分からなかった。

彼は最初のヒーローにも優しくしていた。
余裕がある優しさではなくて、守った相手に向けるちゃんとした優しさだ。
けれど彼らは私にはあまり話さずに二人だけで話をしている。
そりゃそうだ。
歳近い者同士、気が合うよな。
カーストとか関係なさそう。
私は場違いか…
去ろうとしたら肩に何か乗った。

「無事だったんですね。良かったぁ。」

私は我慢していた涙が溢れた。
二人のヒーローは周りに私の涙が見えぬように気を遣ってくれた。
これが、これが世の中捨てたもんじゃないってやつか。
気が済むまで…泣いていいんだよね。

有難う。

◎チーム結成

 結局、私が助かった理由は分からずじまい。
けど二人の気持ちに嘘は無かった。
純粋って訳じゃなくて、でも善意は無くしていない。

星降紙蔡ほしおろしいおりと申します。
どうしても、貴女と一緒に過ごしたくて。」

有難く好意を受け取る事にした。
でも物好きだなあ。
あれよあれよと事務所みたいな所に私は住まわせて貰ってる。
最初のヒーロー、星降紙君はDIYの才能があるのか広告収入を使いかつ低予算でこの地を作ったらしい。
理由はもう一人のヒーロー、昏遠久澪談君が聞いてくれた。
どうやら歩いている私を見ていたら放っておけなかったらしい。

恋じゃんそれ。
私は初めて「女」として認められたのだ。
昏遠久澪談君とはやや距離がある。
嫌われている…訳ではないし私の不潔な姿に引いているのではなくて女性が苦手そうだった。

拗れてんじゃん。
それなのに助けてくれたんだ。

まだ彼等の事はよく分からないし、これからどうなるのかは分からない。
星降紙君は私達をチームと言って、さっきの幽霊モドキを研究しようと言ってきた。
戸籍とかそういうのはどうしようかと思ったが、そこは私も大人だ。
このヒーロー達に助けられた恩を残りの寿命で返す。

人間、些細な理由で無茶しそうになる。
だが私も一人の女の前に大人だ。

いつか彼等が私に本音を話してくれる日もその後も、しっかりと足掻き生きてみよう。

私はここで初めて生きる意志を持った。

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