千人伝(六十一人目~六十五人目)
六十一人目 彼我差
ひがさは日傘から生まれた。
夏が近づき日差しが強くなると誰も彼もが日傘を差し始める。
一昔前と違い、日傘なしでは人は紫外線に殺されてしまうからだ。
誰も彼もがマスクをつけ、日傘を差す。彼我の差が縮まる。誰が誰だか分からなくなる。彼が我で我が彼でも構わないようになる。
そんな人混みの中に彼我差は紛れ込んで蠢いている。
百人の人混みがよく数えたら百一人になっている時がある。
彼我差は生まれて、またすぐに消えていく。
六十二人目 手蝶
てちょう、と読む。