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千人伝

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様々な人の評伝「千人伝」シリーズのまとめマガジン
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#ショートショート

千人伝(二百五十六人目~二百六十人目)

二百五十六人目 トースター トースターは毎日焼いたパンを食べ続けた末に、トースターを名乗り始めた。周囲には唐揚げやらフライパンやら名乗る奴らもいた。トースターは電気代を節約するために、自らの熱で食パンを焼くことを覚えた。かなりの高熱を発することで、キツネ色に食パンを焦がすことができるようになっていた。 しかしその熱量は日常生活には不便をもたらした。手を繋ぐことができなくなったので恋人には逃げられた。書類はすぐに焼けた。キーボードのアルファベット表示が焼けて見えなくなってし

千人伝(二百三十一人目〜二百三十五人目)

二百三十一人目 外界 外界は外界を認めなかった。病院で生まれ育ち、外に出たことのなかった外界は、窓から見える外の景色を現実だとは言いたくなかった。ある日、陽の光が眩しいからと、自分の視点より下の窓を紙で塞いだ。本当は外で動く健常な人間の姿を見たくなかったためだった。  外界が外の景色に触れなくなってから、病院に入院する患者は増えた。外では戦争だとか爆撃だとかテロだとかがこれまでにない頻度で起こっているらしかった。病院の中は安全だったので、外界は外に出られない病の持ち主では