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千人伝

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様々な人の評伝「千人伝」シリーズのまとめマガジン
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#断片小説

千人伝(五十六人目~六十人目)

五十六人目 落下 おとした、と読む。何かを落としたような気がするが地面や床を見れば何も落ちていない、ということが稀にある。あれは下に落ちる寸前に落下により拾われてしまっているのである。鍵や指輪や小銭や若き日の夢や、大事なものもつまらないものも分け隔てなく落下は拾い上げる。持ち主の元に返したことはない。 五十七人目 ナメクジミミズ 雨上がりに大量に発生するナメクジの上に塩を振りかけて放置しておくと、跡だけ残してナメクジは消えてしまう。そこに死んだナメクジを慕い寄り添うよう

千人伝(五十一人目~五十五人目)

五十一人目 丸坂 丸坂は転がっている。丸坂の身体は丸いので転がりながら移動する。下り坂に至れば転がり落ちる。坂が続けば止まれず、勢い余って人や車や獣を蹴散らしてしまう。 上り坂に至れば手足を伸ばして地面を掴む。だがどう足掻いても僅かしか進めず、途中で転がり落ちてしまう。 だから丸坂は生まれて以来どんどん下り続けてしまっている。最終的には穴に落ちていくだろう、と丸坂研究者たちは口を揃えて言う。地の底深くに落ち続けていくだろう、と。 五十二人目 黒木 黒木は山火事の跡に残