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千人伝

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様々な人の評伝「千人伝」シリーズのまとめマガジン
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2024年5月の記事一覧

千人伝(二百六十六人目~二百七十人目)

二百六十六人目 緑鬼 みどりおに、は木々に囲まれた森の中で暮らすうちに緑色に染まっていった人であった。巨漢であったために、人と思われず緑の鬼と勘違いされてしまい、本人もそのまま人から離れて暮らし続けた。 緑鬼は森の中にあるものを食べて過ごした。森に迷って行き倒れた人間がいたら、自分と同じように緑色に染まるのではないかと、しばらく一緒に暮らしたりしたが、誰も緑鬼のようにはなれずに去っていった。 森が焼かれてしまった時、緑鬼は焼け焦げた木々に合わせて黒く染まった。すぐに緑色

千人伝(二百六十一人目~二百六十五人目)

二百六十一人目 石弦 いしづる、とも、せきげん、とも呼ばれる、弦楽器に張る弦のようになるまで、石を削って作る楽器がある。その演者であった。いしづる、と、せきげん、という二人組であったが、混同して一人と思われることが多かった。 その特殊な製法により、一個の石弦を完成させるためには数十年の月日を要した。弦が一本切れてもその修復に数年かかってしまう。繊細な演奏力を必要とするため、石弦と石弦の二人は何も壊さないように、常に何かに触れるか触れないかの距離で過ごした。愛情の交歓もその

千人伝(二百五十六人目~二百六十人目)

二百五十六人目 トースター トースターは毎日焼いたパンを食べ続けた末に、トースターを名乗り始めた。周囲には唐揚げやらフライパンやら名乗る奴らもいた。トースターは電気代を節約するために、自らの熱で食パンを焼くことを覚えた。かなりの高熱を発することで、キツネ色に食パンを焦がすことができるようになっていた。 しかしその熱量は日常生活には不便をもたらした。手を繋ぐことができなくなったので恋人には逃げられた。書類はすぐに焼けた。キーボードのアルファベット表示が焼けて見えなくなってし