千人伝(二百五十一人目~二百五十五人目)
二百五十一人目 用事
用事はいつも用事を忘れてしまっていた。役所に行くたびに忘れてしまうのだった。病を経て、生活状況が変わり、たびたび役所へ赴かなければいけなかった。そのついでに、役所へ提出する書類の一つを出そうと考えていたのだが、別の用事を済ませすると、いつもそのことを忘れてしまうのだった。
用事は常時酷い耳鳴りに悩まされており、特に静かで閉鎖された空間において、耳鳴りは彼を圧し潰した。役所に行くたびに、ついでの用事を忘れてしまうのは、一刻も早くその場所から逃げ出したい