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シュー学旅行


シュー学旅行
 
「大体がさ、何で漢字を日本の文字に取り入れたのか理解できない」
「え?」
「あ? だからさ、画数の多い、書くのも覚えるのも面倒でややこしい文字をさ、なんで採用したのかってことよ。な? え? あ? しかもさ、漢字から派生してひらがなやカタカナを生んでるわけじゃん。これはマジでいいと思うんだけどさ、画数少なめだし日本独自の発明って言ってもいいじゃん。でもさ、そしたらさ、ひらがなとカタカナだけで良くね?」
「あぁ」
「中国かどこかから漢字取り入れました、そこからヒントを得て独自にひらがなとカタカナをつくりました、よしよし、じゃあこれ、日本の文化として広めましょう、やっぱりシンプルが一番ですよ、そんで漢字は他所の国のものですし画数多いし覚える手間が無駄すぎるので無かったことにしましょうか、まぁ無かったことにしなくても良いけど、そういえば日本でも使ってたことあるらしいよ、ってくらいの存在感でいてもらうことにしましょうよ、ってならなかったのが不思議すぎるだろ、と、俺はそう思うね」
「あぁ。でも、ひらがなとカタカナだけだと文章ダルダルに長くなって読みにくそうだけどな」
「あ? お前、あ? お前。そこはよく考えないと。よく考えさせようか。考えさせてあげましょうか。否、そこは俺がもうすでによく考えてあるので教えてあげます。しょうがないね。え? あ?」
「あぁ。よろしくどうぞ」
「しょうがないんだから。はい、じゃあもう漢字は日本に無いです。ひらがなとカタカナでやって行こうと決定した現在です。でもよく考えてごらんなさい。ひらがなとカタカナ、双方ともに字の形がちょっとばかし違うだけで、何と、用途が同じでございます。馬鹿だよね。これはこれで。違う形のさ、ふりがなが二種類ありやがる。は? だな。は? だよ。文章のニュアンスの違いを出せるけどお前、用途同じてお前。そこで、です。ですよ。そこで俺は考えました。考え終わっておりまして、発表いたしますが、いいですか」
「あぁ。よろしくどうぞ」
「そうですか、では発表です。ひらがなとカタカナのどちらかを漢字と同じ用途にしてしまえばよいのです。ね。え?」
「え?」
「え? じゃないよ。ひらがなとカタカナのどちらかを漢字と同じ用途にしてしまえばよいのです。な。」
「むずいな。詳しくどうぞ」
「だーら。例えばさ、あそこに『冷やし中華、始めました』って書いてあるだろ? 漢字使ってんなアレ、忌まわしき漢字使ってやがるよ。中華の『華』の字なんてもう、画数見てみろよ、何だあれ、線ばっかりだよ。もっとシンプルにできる筈なのよ、あんなの。て、ことで俺はカタカナを漢字の用途として使用しますから見てて下さいよ。ね? まぁ例えばですよ、かきかきかき……と」
 
 レやしロニ、ムめました
 
「ほら、こうですよ。シンプルだ。え? どうだよ」
「レやしロニ、ムめました、じゃん」
「この紅下痢野郎(べにげりやろう)が。違うだろ。分かれし。あ? は? 分かりやがれっつの。例えば、って、俺言ったよね。カタカナの部分は何でもいいんだよ、漢字的用途で漢字より画数少なくて、それでいて文章もダラダラになってないでしょ。だから漢字なんていらねぇんだよ本来はさ」
「あぁ。まぁなるほどと言えなくもないけど、おい、もう時間だぞ」
「あ? 時間? 何だっけ、何の話だったっけ。そもそもが。は?」
「『蒐集』ってこういう字だったっけ? って話」
「あーは、そうだ。俺は絶対に生まれて初めて見た。この漢字は。『収集』でしか習ってない。絶対的に習ってません。マジで漢字うっとーしーわな。こういうところだぞ、って感じだわ。でも、おい。ハハハ。見てみろ」
「あ?」
「鬼が草冠つけて集まっとりますわ」
「かわいい」
「あ? 俺とどっちがかわいいか言ってみろよ」
「あぁ。よろしくどうぞ」
「答えになってねぇぞ。おい、閃いたんだけど、今度どこかでパンダの名前募集してたら蒐蒐って名前で応募しようかな」
「あぁ。そうしろ。おい、マジでもう行かないと先生に怒られるわ」 
「行くか。シュー!」
「行こう。シュー!」
 
 二人は飛行機の真似をして急いだが、完全に招集時間に遅れ、鬼の形相の先生に激怒された。そして二人が二人とも「形相が鬼じゃん。草冠でもつけて落ち着いてほしいな」と思い、顔を合わせてニコニコしてたらもっと怒られて最悪だった。

#小説 #短編 #古賀コン

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