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#1 続いていく物語/山田花菜(イラストレーター)

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「絵本や童話の世界が好き」と話すのは、イラストレーターで絵本作家の山田花菜さん。やさしい気持ちになる物語や、夢のある作品を描いていると幸せを感じるそうです。

もともと美大を目指していましたが、2度目の受験に落ちたことがきっかけで日本児童教育専門学校へ入学。現在は廃止された「絵本創作科」で出会った先生や仲間たちから刺激を受け続けたことで、絵本やイラストを仕事にしたいと真剣に思うようになりました。

約20年にわたり絵本や児童書の挿絵、絵本創作をしてきた山田さんが「衝撃的だった」と語る仕事は、2020年のニベアクリーム限定デザインのイラストを担当したこと。誰もが知る商品のパッケージに自分のイラストが採用され、「今まで見守ってくれた家族や友人に恩返しができたと思う」とうれしそうに語ります。

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22歳で学校を卒業した山田さんの作家活動は順風満帆だったわけではなく、当初は、在学中からはじめていたカットの仕事をこつこつと継続していました。学生時代の仲間との共作で、はじめての絵本『アンのプレゼント』を出版したのは28歳の時。2003年のことです。

山田さんが小学生の時の出来事をもとにした物語は、アンが友達の誕生日会に招待されるところからはじまります。プレゼントに何を買ったらよいのかわからずお母さんに相談すると、「アンがもらってうれしかったものはなぁに?」と聞かれ、ぬいぐるみ作りを思い付きました。

心をこめて作ったぬいぐるみに愛着がわいてしまったアンは、渡す日が近づくにつれ寂しくなってしまいます。アンの純粋でかわいらしい気持ちが、読む人の心にひびく作品です。

アンのプレゼント撮影_表紙1

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現在ふたりの男の子を子育て中の山田さんは、「絵を描くことをやめたいと思ったことはないけれど、長男出産後に産後うつを経験した時はつらかった」と当時を振り返ります。

産後3ヶ月で仕事復帰したものの、思うように時間を持てずあせる日々。育児だけでは満足できない自分に対する罪悪感もありました。長男が2歳半で保育園に入り、個展やグループ展を再開したことで、少しずつ元気を取り戻したそうです。

仕事ではなく自分が描きたいから描くというスタンスではじめた「育児日記」も、よい影響をもたらしました。イライラすることがあっても、「これはネタになるな」と一歩引いて見られるようになったといいます。

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「絵を描くことのはじまりは調べること」と山田さん。「らしさ」を大切にしているため、まずは数日かけて資料を集めます。

例えばショベルカーを描くなら、最終的に絵をシンプルに仕上げるとしても、部品や構造について調べていなければ、何をどう省けばいいのかがわからず描けないのだそう。

挿絵はもちろんカットでも手は抜きません。子どもの目はごまかせないからです。シーンにぴったりな絵を描くため、時には現地に足を運び取材をすることもあります。

今後の目標は、3代にわたって読み継がれるようなロングセラーの本を作ること。『ねずみくんのチョッキ』の著者で絵本作家のなかえよしをさんが専門学校時代の担任だった山田さんは、尊敬する先生が今に至るまでずっと活動し続ける姿に感銘と刺激を受けているそうです。

山田さんは現在、夫の吉成誠さんと「こども風景デザイン室」と名付けた創作ユニットを結成し活動中。デザイナーの吉成さんと組むことでさらにイメージが広がり、絵本だけでなくグッズを作ったり、アニメーション制作にチャレンジしたりしています。

一緒に暮らす母や近くに住む親戚、吉成さんなどの周囲の人に支えられながら制作を続ける山田さん。傷心の末に入学した「絵本創作科」からはじまった作家としての物語は、まだまだ終わりそうにありません。

※『アンのプレゼント』(偕成社)は現在絶版です。



プロフィール
日本児童教育専門学校の絵本科に入学。
青山塾ドローイング科でイラストレーションを
板橋区立美術館夏のアトリエにて絵本作りを学ぶ。
トムズボックス絵本塾にて絵本作りを学ぶ。
こどもを描くことに定評あり。風景を描くのも好き。
男児二人の母。愛猫ナビ。育児絵日記『こども風景』をSNSなどで公開中。
2020年から、夫でデザイナーの吉成誠と「こども風景デザイン室」結成。
同年、ニベア クリーム限定デザイン担当。

<主な作品>
『まじょもりのこまじょちゃん』(ポプラ社)作・越水利江子
『ビリーのすてきなともだち』(教育画劇)文・竹下文子
『ぼうけんはバスにのって』(金の星社)作・いとうみく
『カンガルーがんばる!』(講談社)作・佐川芳枝
『友だちは図書館のゆうれい』(金の星社)作・草野あきこ
『おいしい行事絵本シリーズ』(ほるぷ出版)作・すとうあさえ
など。

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