なぜFitbitは敗れ、Garminは生き残ったのか?
Fitbitが買収された件(1)はIT業界を騒がせていますが、実はFitbitの近年の業績はかなり落ち込んでいました(2)。
今回は、なぜFitbitの業績は下がったのか?を考察することで、 ウェアラブル市場の未来や、Fitbitの取るべきだった戦略について考察したいと思います。
A. なぜFitbitの業績は下がったのか?
下記の販売台数シェアを見てみると、次の事がわかります。
・Apple、Samsung、Huaweiのシェアが大きく上がった
・Fitbit、その他メーカーのシェアが大きく下がった(-20%)
ウェアラブルデバイス国内販売台数シェア推移(3)
実際にFitbitの業績を見ても、売上が下がっているだけでなく、営業利益率も赤字(4)になっており、ビジネスとして競争に敗れてしまったことが分かります。
では、なぜFitbitは競争に負けてしまったか?を検証したいと思います。
B.なぜFitbitは競争に負けてしまったのか?
次の2つの要因仮設を前提に考察してみます。
・価格勝負で破れた
・製品の差別化出来なかった
Fitbitの主力製品カテゴリーはリストバンド型とウォッチ型のウェアラブルデバイスです。(5))
まずは、リストバンド型から見てみましょう。
B-1.リストバンド型は価格競争によってシェアを奪われた
次の表を見てみると、Fitbitは代替9000円 ~ 1.前後の製品を売り出しており、競合のHuaweiやSamsungは6千円台のバンド製品を打ち出しています。
各社のリストバンド型デバイスのAmazon販売価格(6)
つまり、Fitbitは競合他社の製品に対して、価格以上の差別化が出来なかったと考えるべきでしょう。
では、次にウォッチ型の製品について見てみましょう。
B-2.ウォッチ型の製品はブランド・エクイティを獲得できなかった
ウォッチ型の製品の製品別の価格を比較してみると、リストバンド型とは違って、むしろFitbitよりも高価格帯の製品が多いです。
各社のウォッチ型デバイスのAmazon販売価格(7)
従来の時計は、高級であるほど需要が高まる性質(ヴェブレン効果)のある製品カテゴリーですが、ウォッチ型デバイス市場においても同じような性質があるのではないでしょうか。
もしそうだとすると、Fitbitはラグジュアリーなスマートウォッチの競争に破れた。と言えるでしょう。
Appleはテクノロジーデバイスのブランド・エクイティを構築するのが世界一強い企業なので、残念ながら納得と言える結果でしょう。
しかし、ことリストバンド型のカテゴリーに戻ると、なぜHuaweiやSamsungはFitbitよりも半額以下の価格で販売することが出来たのでしょうか。
C. なぜHuaweiやSamsungはFitbitよりも安いリストバンド型デバイスを作れるのか?
FitbitとHuaweiやSamsungは、スマートフォンメーカーであるかという違いがあります。
そして、Huaweiは「Seamless AI Life」という戦略構想を発表しています(8)。要約すると、次のようなデバイスがシームレスに繋がり、AIによって最適化された経験を提供する未来を実現しようとしています。
・プライマリーデバイス(スマートフォン)
・セカンダリーポータル(タブレット、PC、ウェアラブル、スピーカー等)
・IoTデバイス(ライト、セキュリティ、オーディオ、ビデオ等)
つまり、ウェアラブルデバイスはスマートフォンの補完財(ハンバーガーで言うところのポテトのような存在)という立ち位置ではないでしょうか。
だから、Fitbitと違ってウェアラブルデバイス単体では利益を生み出す必要がないと考えている可能性があります。
そして、GoogleもAppleもSamsungも全く同じ動きをしていると言えるでしょう。
D. ではFitbitはどうすればよかったのか?
実は既存ウェアラブルデバイスメーカーでも、唯一シェアを伸ばしているGarminという企業があります。(9)
なぜ、Garminは生き残っているのでしょうか?
20193QのIR Presentation(10)を見てみると、次のように記載されています。
ウェアラブルデバイスの強みとTacx(自転車につけるデバイス)によって売上が28%成長している。
他にも、具体的にはTacx(自転車に装着するデバイス)、Garmin GolfやGarmin Swimといった特定のスポーツユーザー向けのニッチなデバイスを提供しています。
Fitbitは健康になるためのトラッカーを提供していますが、Garminはスポーツを楽しむためのトラッカーを提供しており、ターゲットがかなり棲み分けられていたのではないでしょうか。
つまり、FitbitはHuaweiやAppleとは違うニッチを見つけるべきだったのではないでしょうか。(近年は体組成計等を出していましたが、盤石な収益基盤を構築することが出来ませんでした。)
もちろん、結果論ではありますが、競争相手をしっかり捉えることの重要性は示唆されていると思います。
考察
GAFA、BATHが参入してくる市場は改めて恐ろしい。ということがよく分かる事例だな。と感じました。
とはいえ、Fitbitはビジネスとして採算が取れなかったにも関わらず、買収してもらえたのは大成功と言えると思います。
個人的には、あえて買収されるポジショニングを取ることも戦略ですし、買収されない不協和の戦略を取ることも手だと思いますので。
参考資料
1) Brain Heater(2019)「GoogleがFitbitを約2300億円で買収」,2019/11/10アクセス
2) Fitbit,Inc「SEC Filings」, 2019/11/10アクセス
3) 山本竜也(2019)「2018年4Qの国内ウェアラブル出荷台数はAppleが6割超。Apple Watchが好調(IDC調べ)」2019/11/11アクセス
4) Fitbit,Inc「SEC Filings」, 2019/11/10アクセス
5) Fitbit,Inc 製品紹介ページより, 2019/11/10アクセス
6) 該当製品のAmazon販売価格(2019/11/10時点)より
7) 該当製品のAmazon販売価格(2019/11/10時点)より
8) Anil George「Huawei envisions a Seamless AI Life with a series of smart devices」2019/11/11アクセス
9) GARMIN SEC Filingsより
10) GARMIN 2019 3rd Quarter presentationより
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