見出し画像

不要不急対談・白桃会 Meets 神変自源流 (前編)

うららかな春の日差しの中、埼玉の首都である池袋の西武屋上、空中庭園にて二人の武術家の対談が行われた。これはその様子を伝える記事である。

・神変自顕流の特長

 今日は神変自源流宗家の細沼種左衛門孝宗先生をお招きいたしまして。

細 あ、はい。よろしくお願いします

 御流儀は居合と剣術の両方の性質を持ってらっしゃるという……。
日本の剣術は後手重視の流派が多いのに対して割と先手技が多いなという印象を受けました。その辺がやはり特徴的なのでしょうか?

細 難しい所ですね。「後の先で小手取り」っていうのは基本的にうちの流派も根本思想ではあるんですけど。
たぶん元になった示現流の性質が結構イケイケで攻めちゃうのと。あと、一番の問題が私の性格(笑)

 あ、じゃあ流儀としてというよりは個人の方向性として。

細 その可能性はありますね。

 一般的な誤解としては「示現流には初太刀を外せ」といわれてますが、受けられても外されても詰将棋のように勝ち筋に持ち込んでいく緻密な武術であるとお伺いしています。

細 ええ、その通りだと思いますよ。

 これも珍しいですよね。居合ですと自分が仕掛けられたのに応じる想定の流派が多いし、抜くまでが勝負の一発ジャンケンと言うか、そこから後の攻防をそんなにやらない気がします。

細 それは確かにそうかもしれないですね。一本勝負のジャンケン的な考え方でもあるんですけど大本を辿ると香取神道流が示現流の源流になってくるので。神道流は長い型をやるじゃないですか。
うちの併修する天眞正自源流兵法ではそのまま、あの長い型があったりするので、流儀の性格的にそういう要素が強いんだと思います。
長い攻防でも詰めていく。で、その一手一手にも実はトリがあってそこで一本勝負でも決めている。

 だいぶ構えとか思想が劇的に変化してると思うんですが、香取神道流が示現流になる特異点、結節点みたいなものはどこにあったんでしょう?

細 一応、東郷示現流で十瀬与三左衛門長宗という人が香取神道流で免許をもらっていて、伝説では飛んでいる燕を切りそこねた。それで参篭しなおして今度は斬れるようになった。それが示現流の最初という言い方をしていて。

 その「燕」というのは寓意で何か人や流派を指すんでしょうか?

細 「燕を切るような考え方」を突き詰めて研究していった結果なんだと思います。燕って急転換するじゃないですか。佐々木小次郎の燕返しのような。一発勝負で早く決めるけど瞬時に切先が転化する技法を示現流は凄く重んじているんで……。燕飛(えんぴ)という技もありますね。
示現流の燕飛は2パターンあって新陰流系の左右打ちまわしのやつと、あと全く違う居合技の燕飛というのがあるので……多分系統が幾つかあるんだと思います。私もその辺はデッドロックなので推論でしか言えないですが。

 まあ全部そうだと思いますよ。現代の武術は全部推論でやるしかない。

細 だって自分の爺さんが何やってたかもよく知らないですからね。

 私は昨日何食ったかもよく覚えてないです(笑)

・燕返しとマイクタイソン

 神変自源流では立木とか横木は打たないんですか?

細 横木は野太刀自顕流の専売なんで東郷家は立木だけです。神変は歴史が浅いんですけど、元の流派の伝書を見ていると道場の作り方が書いてあって、必ず立木は立てるようにしてます。

 沖縄から空手が来たとき、本土の人はかなりしっかり固定した巻き藁を立ててそれを突き折るつもりでやってて、沖縄の人がびっくりして「もっと柔らかく撓る木を鞭のように打つ感覚を養うもので力んではいけない」と言った話があるんですが、立木も破壊力を求めてやってるわけではないですよね?

細 ないです。あれは刀の切り返しですね。初太刀でハメたらすぐに二の太刀、三の太刀につなげていく。だから教えるときは必ず止めるように言ってますね。打ち切って押し込んだりはしない。必ず当たったらすぐ返す。

 鍔競りはやらないって言ってましたね。

細 打ち切って押し込む場合は示現流だとまた別の技法があって……力の押し合いになると負ける確率が出てきちゃうので。

 詠春拳の木人っぽい感じもありますね。

細 はい。その感覚凄い近い気がします。いくつかパターンあって左右打ちまわしの他に燕飛打ちまわしっていう右側二連だったり。燕がすわんすわんと廻るように。

 最近私もマイクタイソンの動画見てて同側のアッパーからフックをつなぐ切り返しが燕返しっぽいなと思っていて。

細 タイソン面白いですよね。

 体の使い方が一般的なボクシングでないというか。タイソン流拳法ですよね。あれは。

細 わかります。そんな感じします。この人古流の何かやってたんじゃないの? っていうエッセンスありますよね。

 少林寺の猴拳とかもちょっとタイソンっぽいんですよ。あえて腕をたたんで関節の可動域をロックして、自分に手首の関節技をかけて捻ることで体捌きするような。デンプシーロールっぽいな、と。

細 掌の向きを変えると体の向きも変わりますからね。タイソンの動きは学ぶべきところが色々ある気がしますね。

・流儀との出会い

 御流儀をはじめるきっかけは何だったんですか?

細 多分、中二病が悪化したせいだと思う(笑) 高校のころにネットで探して……本当はしらみつぶしに回るつもりだったんですけど、最初に見学に行った時に凄いマウンティングを受けて(笑) あの、持っていた木刀を体育館の壁まで吹っ飛ばされるという体験をして。あ、これは凄いと思ってその場で入門しました。

 壁に刺さって。

細 ビィィーンって。そこまではいきませんけど(笑)
もともと先代は天眞正自源流と​神変自源流を両方教えていて、道場は天眞正自源流だったんですけど。

 Twitterだと両方、アカウントあって私最初同一人物なのかな、と思っていたんですが。

細 あれは同じ道場で学び竜虎と並び称された良いライバルです。で、先代と相性が良かったのが向こうなんですよね。なので彼が天眞正自源流を継いで私が神変自源流の方を継いだ。

 これは歴史的な分岐点ですね。陸奥圓明流と不破圓明流が分かれたときみたいな。

細 フラグ立ってますよ。だから我々の次の次の代くらいで殺し合うんだろうなっていう。

 銃だ核だコロナだという世界でなぜそんな狭い間柄の中で殺し合いを(笑)

細 もっと視野を広げろっていう(笑) いや、今の代は本当に仲良いので。

・体声・猿叫

 では先代は、凄い達人だったんですね。

細 今も存命中ですけど凄いことは凄いです。剣の腕は。人としては本当にヤーさんって感じの人なので……。鎌倉武士というか。敵は作るわ、喧嘩はするわ。

 ああ、でも昭和の武術家はそれが普通ですよね。国井善弥さんとか。

細 あの感じです、あの感じです。なので現在進行形でいろんな揉め事おこしますし、我々に負債が増えていく。私はこういうこと言っちゃうから本家は受け継げなかったんだと思います。

 本家の人はイケイケ路線の武闘派を受け継いでいるんですか? ナメられたらカチ込みに行くぞ、という。

細 近いですね。めちゃめちゃ気が短いです。この間整体の先生に「この間まで人殺しの目をしてたけど最近目元が柔らかくなりましたね」と言われたそうです。

 そうなんですね。以前、二天一流のぼっけもん豪先生との対談でも話したんですけど、そういう闘争のスイッチが入ってない普通のおじさん、おばさんをそういう状態に持っていくのが難しいな、と。別に残酷になれとか人間性を捨てろとかではなく、まずは闘争と言う土俵に乗らなければいけない訳ですがその部分が現代人には難しいなと感じてまして。
まあ、今の時代はそういうものはいらないんだ、という考えもあるでしょうけど、そこにいかないと分からないものもある。

細 どっちも正論ですよね。まあ先代や本家のことをさっき、ああいう風に言いましたけど私自身にもそういうところはあるから。

 Twitterで「人間なんて血の入った袋にすぎない」みたいなこと言ってましたね。ヤクザ系とは違った怖さのヤバみがありますよね。

細 サイコパス感(笑) でもそういう性分の人が逮捕されないできているということは自制の心も持って育ってきているはずなんですよね。逆にまったく攻撃性も持たずに育ってきた人に急に攻撃性を植え付けると責任の取りようのないことになってしまう。

 攻撃性でなくてもいいんですけどギャンブルとか信仰の祈りですとか、一心不乱になるゾーン、境地みたいなものが「自顕」という言葉の根元にもあるんじゃないかと思うんですけど。考えて反応したり行動するのは武術的に間に合わないので。

細 いわゆる猿叫はたぶんそれの育成だと思います。流派としては「体声」という言い方をして、肚の底から声を出してスイッチを切り替える。あと立木打ちなんかもそういう面もあると思います。打ちまくっていくうちにトランスに入っていく。あえて息継ぎさせないんですよ。吐き切って息が切れるまでやるので、どんどん頭がおかしくなってくる。

 なるほど。じゃあ結構その辺の開発メソッドが確立されてるんですね。

細 そうなんでしょうね。私はあまり意識したことがなかったけど。

 細沼先生は最初から向こう側の人だから……。

細 大丈夫(笑) まともな社会人ですから!

後編へ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?