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チャンスフラワーと「始末」

3月13日付の毎日新聞オピニオン欄に、チャンスフラワーが紹介されていた。チャンスフラワーとは、茎が短い、形が悪いといった理由で廃棄されてきた「規格外」の花のこと。規格に合っていても不況で需要が伸びず、出荷されない花もある。虎ノ門にある花屋「hanane」では、そんな規格外の花をチャンスフラワーと名付け、近隣の菓子店や美容室、ブティックなどにも「店頭で売りませんか」と声をかけ、販売の輪を広げていったそうだ。この1年はコロナ禍で遠のいた客足を花で呼び戻したいと考える店主が増え、協力店の数は、呼びかけ当初の8倍にもなっているそうだ。

hanaseの社員は11人中9人が女性。東日本大震災の被災地にチャンスフラワーを送るプロジェクトも始めている。更には、大手中古本販売チェーンBOOK OFFの社長に直訴し、店頭でチャンスフラワーを販売する計画も始まり、全国に販路も拡大しているそうだ。

コロナ禍で、料飲店の在庫となっている生ビールをクラフトジンに蒸留する「SAVE BEER SPIRITS」というプロジェクトを始めた酒造もある。(「木内酒造」茨城県那珂市に本店)これも、食品ロスを減らし、コロナ禍で困窮する飲食店を助けようという志から始まったプロジェクトだ。

最近で言うと、インスリン投与用注射器で、本来は5回分しか取れなかったワクチンが7回分取れるようになるという医療現場からの提言が注目を集めている。1瓶で接種できる人が2人増えれば、高齢者約3600万人への接種で1400万人分以上が節約できる計算になるそうだ。(毎日新聞「余録」3月12日)

さて、大阪商人の商いの神髄と言われるのが「算用」「才覚」「始末」。算用は勘定、才覚は商才、始末は無駄を出さないこと、効果的に活用することを指す。「始末」は、計画性と無駄を省く合理性、質素と倹約の美学とも言える。「始末大明神のご託宣にまかせ、金銀をたむべし」と、井原西鶴の言葉にもあるほどだ。チャンスフラワーもクラフトジンも、そしてワクチンも、この「始末」に通じるように思う。

東日本大震災から10年。
地震が発生してからしばらくの間は、原発事故による電力不足で節電意識が高まり、エネルギーの倹約(始末)が定着するかのように思えたが、自分自身も含めて平穏な日常が続くと元の木阿弥になってしまう。僕たちの節約思考が停止してしまうと同時に電力消費は増加する。東京電力柏崎刈羽原発の再稼働議論に関しても、政府は「喉元過ぎれば…」とばかりに、熟議を重ねることなく再稼働を促進しようとしているようにも見える。
日本の原発導入は55年前。世界の原発新設は40年前をピークに激減し、事故で経済性も低下した。一方、使用済み核燃料も事故による燃料デブリも、リスクは10万年。(毎日新聞「土記」3月13日)喉元過ぎれば…と、思考停止に陥っている場合じゃない。

捨てるものを活用し、生かす試みは、再生可能エネルギーの活用や環境負荷を減らす対策にも通じていると思う。コロナ禍で人々の生活スタイルが少しずつ変わりつつある今だからこそ、チャンスフラワーなどの試みのように、僕たちが「始末」を意識した生活を続けること、そういう試みに気付き、応援し続けることこそが、ひいては地球環境の改善や脱原発にもつながるのかもしれないと思うわけです。

英語の諺に、こんな素敵な言葉がある。

Union is strength!(一人ひとりの力は弱くても、皆が団結すれば大きな力を発揮することができる)

そう、まさに一人ひとりが、ほんの少し「始末」の意識を持つだけで、社会も地球環境も変わる。
低成長の時代を、しなやかに強かに生き抜くコツが、ここにあるような気がしたわけです。


今日で49歳になる。
50歳からの生き方を考えるための準備を始めなければと思っている。
まずは「始末」を意識した生活から始めたいと思う。

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