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ブラコン兄妹の悩み

突然だが、俺…"久保○○"の妹はものすごく可愛い。


この世界の誰もが見ても、可愛いと思うようなレベルのビジュアルを持っている。


これは、決して、身内贔屓の言葉ではない。


証拠としては、そうだな〜〜


あ、昔、近所の人に、"天使ちゃん"って呼ばれて、そのあだ名が地域中に広まったことがあってな。

もちろん、初めてそのあだ名を聞いた人は、変に思ったんだが、俺の妹をひと目見ると、全員がそのあだ名に納得して、笑顔でそう呼ぶようになったんだ。


ほら、俺の妹すごくね?


しかも、さらにすごいのが、小さい頃も可愛かったのに、現在、女子高生になった妹も、アイドル並みに可愛いんだ。


世間では、小さい頃は可愛かったのに、今はあんまり、とか、今はめちゃくちゃ可愛いのに、昔の写真を見るとそこまで、みたいなことがあるじゃん。

でも、そんな中で、小さい頃の写真に写っている姿も、今の姿も超絶可愛いっていう、ひと握りの化け物がいるだろ?

某アイドルグループのメンバーみたいな。


それが、俺の自慢の妹である"久保史緒里"なんだ。


と、ここまで、史緒里の可愛さを紹介してきたんだが……


ほんの少しだけ、史緒里には問題があってな…




およそ13年前


隣でご飯を食べている時



「…」


「しおり、これすきだろ?」


「…」


「…えっと…おれのぶん、たべる?」


「うわぁぁぁあああん!!!!」




母におもちゃの片付けをしろと言われた時



「…」


「よいしょっと…」


「…」


「しおり。むりそうなら、おれにまかせ…」


「うわぁぁぁあああん!!!!」




史緒里が迷子になった時



「…」


「あ、やっとみつけた。しおり、だいじょうぶか?」


「…」


「ほら、いっしょにかえろ。」


「うわぁぁぁあああん!!!!」




というふうに、昔の史緒里は、ものすごく情緒不安定だったんだ。

なんか黙ってると思ったら、いきなり泣き出して。


正直、面倒を見るのは、結構大変だったんだが、可愛い史緒里を見てると、すぐにそんな気持ちは吹っ飛んで行ってたのが懐かしい。


で、そんな情緒不安定だった史緒里は、すくすくと可愛いまま育った結果、その情緒不安定さがなくなった。


でも、16歳の女子高生となった、現在の史緒里には、さらに大きな問題があるんだ。



それは…




ある日の朝


ガチャ



「あ、史緒里。おはよう。」


「……うん。」


「もう父さんも母さんも仕事に行ったから、キッチンにある朝飯を温めて食べて。」


「……分かっ…」


「いや、時間もアレだし、俺が温めとくから、史緒里は先に顔を洗っておいで。な?」


「……」


スタスタスタ



何も言わないまま、史緒里は洗面台へと向かった。




ある日の夜


ガチャ



「あら、史緒里おかえり。」


「おう、おかえり。」


「おかえり〜部活、お疲れ様。」


「……うん。」


「ほら、見て見て、○○がコンビニの期間限定スイーツを買ってきてくれたのよ〜」


「……あ。」


「この前、テレビでやってたのを、史緒里がじっと見てたからな。買ってきてみた。」


「ったくよ、俺がそれ取ろうとしたら、史緒里のやつだって、渡してくんなかったんだぜ。まぁ、他のやつをくれたから良かったんだけどさ笑」


「史緒里、これ食べるでしょ?なら、先にお風呂に入ってきておいで。」


「……分かった。」


「あと、お兄ちゃんにお礼を…」


「…」


スタスタスタ


「ちょっと史緒里!」


「良いよ、母さん。早くお風呂に入りたかったんだよ。」


「はぁ…ほんと素直じゃないんだから。」


「え?」


「あ、○○。これお前が見たがってた番組じゃねぇのか?」


「ほんとだ。これ見たかったんだよね〜」




ある日の学校の昼休み



「あ、史緒里だ。」


「え?例の、お前の最高に可愛い妹か。どれどれ確認してやろう笑」


「何やってるんだろう…」


「友達と何か言い合ってるみたいだな……って、おいおい、なんだあの天使は。」


「だろ?笑」


「透明感あり過ぎて、もはや後ろが透けて見えるレベルだし、何より顔面強過ぎ…」


「あれが俺の妹だ!」


「すげぇな……って、本当に血の繋がりがあるんだろうか……」


「ちょっ!そこに触れるな!」


「笑、冗談だって。確かにお前は、イケメンではないが、あの天使と目が似てる。」


「や、やめろよ。史緒里と俺が似てるとか言うな…」


「どっちにしてもじゃねぇかよ笑……あ、お友達が2人ともどっかに行って、天使ちゃんが、1人だけ残ったぞ。」


「…」


「行ってこいよ。兄貴として。」


「うん。」



友達に背中を押された○○は、中庭に1人、ポツンと立っている史緒里の元へ向かう。



「し、史緒里。」


「っ!!!…」


「その…すまんが、さっきまでのを見てて…」


「え……聞こえてたの?」


「いや、会話は聞こえてなかったんだが、史緒里が1人で残っちゃったから、心配でさ。」


「そっか…」


「えっと……大丈夫?史緒里。」


「…」


ダッ!



○○の問いかけに対し、史緒里は何も答えずに地面を蹴り、バド部で身につけたスピードで、○○の目の前から去っていった。



「え、えぇ…」


「笑、どんまい。」




と、ここまでで分かる通り、史緒里は俺に対して冷たいんだ。


俺にとっては、昔の情緒不安定っていう問題よりも、今のこれの方が、よっぽど大問題なんだよ!!


しかも、厄介なことに、この日、この出来事を境に、冷たくなったみたいなことはなく、気づいたらこうなってたみたいな感じだから、原因を解消するどころか、原因を特定することもできない。


つまり、お手上げ状態なんだ。



ま、まぁ、問題と言っても、俺としては、部活中やリビングにいる史緒里をこっそりと覗けば、楽しそうにしてるところも見れるから、別に大丈夫なんだが……大丈夫なんだ……大丈夫………



めちゃくちゃ寂しいです。



はぁ……まぁでも、これが兄離れってものなんだろうな。

俺も、これを受け入れていかなきゃ。



ガチャ



おっと、史緒里が部活から帰ってきたみたいだ。


今日は、父さんも母さんも帰りが遅くなるってことで、俺が晩飯を作ったんだが、史緒里、喜んでくれるかな…




「史緒里、おかえり。」


「…うん。」


「もう晩飯作ってあるけど、どうする?先に風呂にするか、飯にするか。」


「……」


「えっと……そりゃあ、風呂の方が良いよな。部活後だし。じゃあ、先にお風呂に入っておいで。良いタイミングで、晩飯は温め直すから。」



その言葉を聞きながら、史緒里は、キッチンにある○○が料理をした形跡と、既に出来上がっている料理を見て……



「史緒里?」


「……」


スタスタスタ



何も言わずに、○○の前から立ち去った。



「……よし、しばらくはテレビでも見とこうかな。」




10分後



「へえ〜今は、これが流行ってるのか…」



○○がソファに座ってくつろぎながら、テレビを見ていると…



「きゃーー!!」


「っ!!!なんだ?!」



お風呂場の方から、史緒里の悲鳴らしき声が聞こえ、○○は立ち上がる。


そして、すぐに脱衣場の前に来て、扉をノックする。



コンコン


「史緒里、どうしたんだ?大丈夫か?」


「だ、大丈夫…」


「そうか…それなら良かった。ゆっくり入ってて良いからな。」


「…うん。」



2枚の扉越しに、史緒里の安否を確認した○○は、ほっとひと安心し、再びソファに座った。




さらに30分後


ガチャ



「よし、来たか。じゃあ、食べよう。」


「え……先に食べてなかったの?」


「うん。だって、1人で食べるのは寂しいだろ。」


「そ、そっか……」


「笑、ほら、早く座って。俺の料理の感想を聞かせてよ。」


「…うん。」



温められた料理が並ぶテーブルに2人は着き、夕食を食べ始める。



「いただきます。」


「いただきます…」


「今日の自信作は、この餃子だから、これをまず食べてみて。」


「餃子…作ったの?」


「あぁ。ま、冷凍よりマズかったらごめんな笑」


「いや……パクッ……モグモグ」


「どうだ?」


「…美味しい。」


「笑、そっか。それなら良かった。俺も食べよ。」


「……笑」



こうして2人は、テレビの音と、○○の声が響くリビングで、夕食を食べ進め……



「ごちそうさまでした。」


「ごちそうさまでした…」


「じゃ、史緒里はどうする?見たいテレビとかある?」


「ううん…ない。」


「なら、もう上に上がるか?」


「歯磨きして上がる。」


「分かった。なら、俺もパパッと洗い物を終わらせて、部屋に上がるか〜」


「それなら私も…」


「作ったのは俺だし、史緒里は部活で疲れてるんだから、任せな笑」


「……………あ、ありがと…」


スタスタスタ



小さな声で一言だけ感謝を述べてから、史緒里はものすごい速度で洗面台に向かった。



「……え?史緒里、今、ありがとって言った?」



ふぅ………最高だわ。

もうこれだけで、どれだけ冷たくされてても、頑張れる!


ほんとうちの妹は、天使……いや、女神だな〜



「……おやすみ。」


「うん、おやすみ〜〜笑」



こうして、○○はニコニコの笑顔で、洗い物に取り掛かるのであった。





史緒里の部屋


ガチャ



「ふぅ…」


ボスン



部屋に入った史緒里は、そのままベッドにダイブし、枕に顔を埋める。



「…スゥー……」



そして、思いっきり息を吸い込んで…



「お兄ちゃん優し過ぎるよ!!!!!」



第一声として、大声でそう叫んだ後、史緒里は目をひんむきながら、ものすごい速度で口を動かす。



「まず私が帰ってきた時のあの笑顔が暖か過ぎるし、晩ご飯を作ってくれてるって、今日はお父さんもお母さんも帰ってくるの遅いって聞いてたから、少しは期待してたけど、本当に作ってくれてるとは。しかも私の好きな餃子の手作りを。手作りって結構手間がかかるんだよ。それを私のためにって作ってくれるなんて、ほんとにもう。もちろん他のも美味しかったけど、餃子はこれまで食べてきたどんなお店の餃子よりも美味しかった。あとは何より、お腹すいてるはずなのに、私がお風呂を済ませるまで待ってくれてるとか優し過ぎるよ。ゆっくり入っても良いよとも言ってくれてさ。それと、つい私が我慢できなくて、お風呂場で叫んじゃった時も、すぐに心配して駆けつけてくれてもう!お兄ちゃん大好き!!大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き!!!!」



と、防音のための枕に向かって、自分の思いをひと通り吐き出し終わり、くるりと体を回転させて、仰向けになる。



「ハァハァ………ふぅ………ちゃんとお兄ちゃんと話せるようになりたいな……」



天井を眺め、物心がついた頃からずっと持ち続けている望みを口に出した。



そう、史緒里は別に、情緒不安定が治ったわけでもなく、○○に冷たくしたくて、そうしているわけでもない。


というかむしろ、情緒不安定ぶりは、前よりもひどくなっており、兄のちょっとした行動で、心のテンションが爆上がりしてしまうのに加え、テンションが低い時と高い時の差が、常人のおよそ2倍近くある。

また、史緒里の○○への態度が冷たいというか、○○の言葉に対して、あまり反応を示さないのは、思春期とかいうやつのせいである。


史緒里は昔から、とにかく兄のことが大好きで、そんな兄を目の前にすると照れてしまったり、緊張してしまったりする。

そして、あまりに秘めたる想いが強く、兄の優し過ぎる一面を見せられると、つい兄への愛が溢れ出てしまいそうになるため、史緒里は○○との会話を極力避けて、遠くから兄を感じるようにしているのだ。


こんな感じで…



「さ、今日の昼休みに撮ったお兄ちゃんの写真を整理しつつ、写真集作製の続きをやらないと。この写真集さえ完成すれば、お兄ちゃん応援会への参加を断り、あまつさえ、お兄ちゃんのことをパッとしないとか言いやがった、あの分からず屋2人も、考えを変えてくれるだろうし。」





写真集を作ってしまうぐらいに、兄のことが大好きだが、恥ずかしくてそれを表に出せない思春期真っ只中の妹。


この世の存在で一番可愛いと信じて疑わないぐらいに、妹のことが大好きだが、中々それを口に出さない優しさの塊の兄。



さぁさぁ、こんな2人がこれからどうなっていくのか、楽しみなものですね。



「ありがと……か。まだまだ鮮明に史緒里の声が脳内再生されるぜ笑」


「お兄ちゃん大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き…」




End

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