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【エッセイ】おとなのりてん

 今日も、看護師さんとの面談だ。
 今日は、喫茶店ではなく、近所の公園で話す。

 公園に着くと、僕はベンチに座り、外崎さんを待つ。
 広場では、子どもたちが野球をしている。

 数分後、外崎さんが、自転車を漕いできた。
「多賀さん、こんにちは」
「すみません。外崎さん、突然公園にしたいって言って」
「大丈夫、気にしないで」
 僕と外崎さんはベンチに座る。
「今週は、何かあった?」
「大人になるのが、嫌になってきました」
「なるほど、どういうところが?」
「大人になっても、良いことなんて無いんだなって思って。毎日仕事ばっかりで、職場には嫌な人も居るだろうし、例え、好きなことを仕事にできたって、芸能人になれたって、スポーツ選手になれたって、絶対に幸せじゃないし、大人になる利点が分からないです」
 僕は自分の思いを吐き出した。
「そうだったんだ。今そう思ってる多賀さんにこれを言っても信じてくれないかもしれないけど、結構利点もあるよ。ある程度自由が効くし、お金も自分で稼いだ分は自分で使える。確かに、今の日本は、子ども時代が楽しいみたいな風潮があるけど、人それぞれだと思う。結婚した方がいいって言う人も居るし、しない方がいいって言う人も居る。その人の自由だから。ちなみに、わたしは旦那さんと居て幸せだけどね」
 外崎さんは嬉しそうに言う。
「だから、あまり重く考えない方がいいよ」
 外崎さんは微笑む。
「はい」
 僕は半分納得して、半分納得できない感じだった。
「そうだ! 彼女とは最近どうなの?」
「この前、ちょっと喧嘩しましたけど、仲直りしました」
「偉いね(笑)」
「いや、普通じゃないですか(笑)」
 そんな感じで、後半は楽しい話をしていた。
 僕のこころは暖かくなっていた。

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