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43歳、会社を辞めて一週間温泉に行ってみた その①

43歳にして、15年務めた会社を辞めた。
なんだかんだあり疲れたので、ひとり一週間温泉旅へ行くことにした。

メジャーな温泉地を巡るのはつまらないと思い、せっかくだから少々変わった温泉地を選んでみた。

一週間の道程は以下の通りだ。


1日目 群馬県 湯宿温泉(大滝屋旅館)
2日目 群馬県 奈女沢温泉(釈迦の霊泉)
3日目 群馬県 大塚温泉(金井旅館)
4日目 栃木県 寺山鉱泉
5日目 栃木県 ピラミッド元氣温泉
6日目 栃木県 北温泉(北温泉旅館)、那須湯本温泉(那須湯本民宿松葉)
7日目 栃木県 那須湯本温泉(雲海閣)


14年間働いた疲れを温泉でゆっくりと癒したい気持ちもあるが、旅に翻弄されてみたいという気持ちもあり、なぜだかは分からないが少し過酷な旅にしたかった。

1日目 群馬県 湯宿温泉

群馬県にある湯宿温泉はつげ義春「ゲンセンカン主人」のモデルになった温泉地だ。

「ゲンセンカン主人」©つげ義春

つげ義春のエッセイよると「貧しくて何にもないつまらない温泉街だが、なぜだか安心する」というようなことが書かれており、退職してこの先なにもない自分にはぴったりだと思い、1日目はこの地を選んだ。

お金が無いので(退職金ももらえるか分からない)なるべく交通費も抑える。

新宿から高崎までは湘南新宿ラインに乗り、高崎からは上越線で後閑駅まで行く。
新宿からは普通車で行く予定だったが、高崎までは2時間もかかり、本やお酒など張り切って持ってきた荷物の重さですでに疲れてしまい、プラス1,000円払ってグリーン車に乗ることにした。なるべく節約するつもりが、お金を使ってしまった……と後悔しつつも、湘南新宿ライン・グリーン車の快適さにテンションが上がる。

グリーン車は平日ということもあり、私とおばさん二人組しか乗っていなかった。二人ともロングの缶ビールを何本か飲んでおり、上機嫌でしゃべっている。2時間話しがまったく途切れない。
途中一人のおばさんがトイレに行くが見つからなかったようで、いちいち戻って相方のおばさんに場所を確認している。まだ分からず戻ってを3回繰り返し、ようやく見つかる。すっきりと安心しきった表情で戻ってきた。

高崎で上越線に乗り換える。
上越線から見える景色は絶景だ。スマホで撮ろうと思うと、おばさんが目の前に来て一眼レフでパシャリと撮った。毎度絶景が私の前の窓に来るたびに私の前へ来てパシャリと撮るから、こちらは一向に絶景を撮れない。

結局、車窓から絶景を撮ることなく後閑駅に到着した。

12:56。駅前の「満留伊屋」という定食屋に入る。半鉄火丼を注文。
隣の寿司屋も一緒に経営しているだけあって、鉄火が美味い。セミロングの宮史郎に似た中年サラリーマンも半鉄火丼をすごい勢いで食べていた。

月夜野郵便局前のバス停前から20分ほど山の方に行くと湯宿温泉だ。
バスに乗り込むと8割がた埋まっている。湯宿温泉は意外と人気があるのだな、と思っていたら、バスを降りたのは私ひとりだった。

湯宿温泉はひっそりと静まり返っていた。

人が誰もいない。つげ義春の言うとおりだ。
国道には車がたまに通るが、誰も見向きもせずに通り過ぎていく。
共同浴場の写真を撮っていると、地元のおばあさんが出てきた。目が合ったので挨拶すると「ここには入れないよ」と言われた。
湯宿温泉の旅館に泊まる人は特別に共同浴場のカギを借りることができるので入られるはずだ。
なので「大滝屋旅館に泊まるので入れますよ」と私は言った。
おばあさんは不思議そうな顔をし、3秒ほど私を見つめてプイッと帰っていった。

なんで不思議そうな顔をしたのか、モヤモヤしつつ旅館に向かう。

宿帳に記入しつつ、共同浴場のカギを貸してください、と言うと、コロナなので現在は地元民以外は入浴禁止とのこと。
岩本さん(岩本薫 ひなびた温泉研究所ショチョー)の本にはOKと書いてあったのに……
おばあさんが不思議な顔をした理由がわかった。

兵藤ゆき似の女将は申し訳なさそう。その代わり泊り客が少ないため、宿のお風呂は貸し切りとのこと。

さっそく内湯に浸かる。
透明で無味無臭のお湯だが顔を洗うとお肌がつるつるする。

14年間ロボットのように働いてきた錆びた体を、とろとろのお湯でゆっくり潤わせる。

きもちいい~!!

とろとろで気持ちいい~

少し部屋でゴロゴロし、散策。
外湯の松の湯のビジュアルに心を奪われる。

路地裏を歩いていると「ゲンセンカン主人」に出てくる建物や路地が出現し、ゾクゾクしながらシャッターを切る。

宿に戻り夕食。群馬の三元豚しゃぶしゃぶとヒレカツが美味。煮物も素朴なお味で、手作り豆腐も体に優しい。

しばらくゆっくりした後、外に写真を撮りに。
昼の風景と違いゲンセンカン風味がだいぶ増している。





夢中で写真を撮っていると、共同浴場の中からサンキュータツオ似の男性が出てきて「こんばんわ」と挨拶をされた。シャッターの手は緩めず「こんばんわ」と返した。ハッと我に返り、そういえば今の人サンキュータツオに似てたなと思い、振り返ったが路地裏の角に影を残し去ってしまった。

宿に帰り温泉に浸かり日記を書きつげ義春の夢を見た。

その2に続く
 

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