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見せてもらおうか、ユニコーンの秘密とやらを。 #ユニコーン企業のひみつ

アンチアジャイル?そういうことじゃない

「今どきのテック系ユニコーン企業のソフトウェア開発はこれまでとは別物だ。書籍に書かれているようなアジャイルなんてやってない。もちろんスクラムもだ。」

本文が始まる前、「お目にかかれて光栄です」の冒頭に記載されているこの文章はインパクト大だ。この言葉を見ただけで「いやいやそんなことはない、アジャイルというのはだな・・・」とアジャイルを擁護したくなったり、「ほらアジャイルなんてのは一過性のものだろ、だからうちは(アジャイルなんて)やらないんだ」とうそぶいたり、そういう空中戦が発生してしまいそうなくらい、インパクトがある。

しかし、本書「ユニコーン企業のひみつ」は決して「アジャイルは時代遅れのものですよ、その代わりにこの新しくて素敵な手法があります、さあ使いなさい」という類のものではない。本文を読めばわかる。

まず目次から読み解く

では、本書はいったいどのような本なのか。「アジャイルサムライ」の著者であるJonathan Rasmussonの手による本書は、氏のSpotifyにおける経験をコアとして、いわゆる「ユニコーン」企業が従来型のエンタープライズ企業と何が違うのか、という点を紐解いた一冊だ。(なお、ユニコーンの定義は一般的なものとは異なる本書独自のものとなっている。ほぼ「テック企業」とイコールのものとして扱っている)

余談だが、氏の「アジャイルサムライ」は出版から10年経った今でも学ぶところの多い名著だ。バイブルといってもよいだろう。

さあ、本書の概略を掴むために、まず目次を眺めてみよう。

1章 スタートアップはどこが違うのか
2章 ミッションで目的を与える
3章 スクワッドに権限を与える
4章 トライブでスケールさせる
5章 ベットで方向を揃える
6章 テック企業で働くということ
7章 生産性向上に投資する
8章 データから学ぶ
9章 文化によって強くなる
10章 レベルを上げる:ゆきてかえりし物語

目的を与える。権限を与える。目次を読むだけでも、自律を促し、権限を与え、信頼関係でつながることを重要な価値観としていることが伝わってくる。どうだろう、「えぇ、自律と権限と信頼が大切だって?」と腰を抜かしただろうか。「ユニコーンはそんなことを大切にしているのか・・・まったく気が付かなかった」と膝を打っただろうか。おそらくそうではないだろう。「わりと当たり前のことを言ってるな」と思ったのではないだろうか。

そう、当たり前のことを大切にしているのだ。だが、その当たり前のことを大切にすることは、自分たちはできているだろうか。

さらばプロジェクト

「ミッションとは、チームに与えられる、抽象度が高めの目標だ。」そう定義されるミッションが、本書では重要視されている。そして対照的に、あまり望ましくないものとして「プロジェクト」が位置している。

フィードバックの機会がなく、あまりに融通がきかず、力を奪い、納期と予算にフォーカスする「プロジェクト」。確かに、ここで書かれているプロジェクトは硬直したものづくりを招いてしまうものだ。

「スクワッド」はよさそうだが…

そして、そのミッションを遂行するチームとして「スクワッド」が定義されている。このスクワッド自体は、なるほど今自分たちのチームがやっていることは「プロジェクト」より「スクワッド」のほうが近いかもしれないな、など現在進行系の働き方にも還元できそうな気付きがあるものだった。

しかし、気になったのは対比されている「エンタープライズ企業のアジャイルチーム」だ。

権限と信頼があまり与えられず、「野菜切り係」とまで比喩されるチームは、そもそも「アジャイルチーム」といえるのだろうか?
それとも、「日本の読者の皆さんへ」で語られる「アジャイルは今や『ふつう』になりました」が指している「アジャイルをふつうにやっている」ところは、実はそんなものなのだろうか。フィードバックの機会がない、融通がきかないアジャイルチームとは…

など、様々な思いが去来してしまった。

文化の大切さ

自律・権限・信頼と同様、いやそれ以上に重視されているのが「文化」だ。文化は一朝一夕に出来上がるものでもないし、自然に出来上がるのを待つほど軽視していいものではない、という主張にはベン・ホロウィッツの「Who You Are」を想起した。

ユニコーンの当たり前に近づく「手強い仕事」

本書を読み終えることで、書かれていることを実践することで立ちどころにユニコーンへと変貌するか?もちろん、否である。文化は急にはやってこない、たゆまぬ「文化づくり」が必要だ。その文化の中には自律と権限と信頼を丹念に織り込む必要がある。その到達点の姿がひとつ示されている、という点は素晴らしく、本書を「今、リーダー層が読むべき一冊」足らしめている。

既に書いたが、「ユニコーンのひみつ」に驚きの秘策はない。本書でいうところの「反直感的ベット」ではなく、我々が現在持ちうる価値観でも「良い」と判断できる、ある意味当たり前の積み重ねの先にユニコーンは存在している。

あわせて読みたい

本書の最終章でも引用されていた、ダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」。通底する考え方をつかむためにも良いが、単純に学びの多い書籍なので、手にとってみることをおすすめする。


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