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何がIT勉強会を救ったか

はじめに

 この記事はAgile Tech EXPO Advent Calendar 2020 3日目の記事だ。Episode 0でLTさせてもらったり、今度開催するEpisode 1にも登壇させていただいたり何かと縁のあるアジャテクのアドベントに参加できて、とてもうれしい。

危機を超えて

 2020年のIT勉強会は、コロナ禍の影響により未曽有の危機を迎えていた。(2月にデブサミが開催できたことは、今思うと本当に奇跡的なタイミングだった。)次々と延期/中止が発表され、漂う閉塞感。

 それが今ではどうだろう、オンラインを主軸とした勉強会がスタンダードとなり、以前と遜色がないか、むしろ活性化した形で様々な勉強会が日々開催されている。一体、何が勉強会を救ったのか?この記事の主題はそこをつまびらかにすることにある。

転換期に生まれたハッカーライフラボ

 デブサミが終わった次の週くらいから、バタバタと勉強会が延期/中止となっていった。その最中で生まれた「ハッカーライフラボ」は、IT勉強会がオフラインからオンラインへと移行する転換期を象徴するような存在ではないだろうか。
 いわきりさんが主催しているという安心感、動画配信主体という新しさ。先駆者であるがゆえに、特に初期は配信トラブルに見舞われることが多かったが、「動画配信を主体としながら、インタラクティブさを出す」という現在のIT勉強会のスタンダードな姿の嚆矢となったのではないだろうか。

緊急事態宣言下で活性化したDevLOVE

「緊急事態宣言があけるまでアドベントカレンダーをやろう」
そんなクレイジーな試みを実践したのがエンジニアコミュニティのDevLOVEだ。

 この緊急事態宣言下におけるDevLOVEの熱量はすさまじく、4-5月は毎週複数回のイベントが開催されていたと記憶している。自分自身、初めてのリモートワークやコロナ禍というこれまでに経験のない状況から生じる不安となんとか向き合うことができたのは、DevLOVEのおかげだと感じている。改めてコミュニティというものの意義を感じる出来事だった。
 この期間、縮退するどころかむしろコミュニティ活動が活性化したという現象は、IT勉強会の火が消えてしまうことを拒む大きな潮流になっていたと感じている。

潮目を変えた「スクラムフェス大阪」

 春先から多くのIT勉強会が延期/中止へと追い込まれる中、6月に開催されたスクラムフェス大阪はオンラインで開催された。個人的には、ここが「勉強会、オンラインでもいけるじゃん」の分水嶺だったと感じている。Discord+Zoomという黄金律を作ったのもこのスクフェス大阪じゃなかろうか。

 勉強会というものは、ただ単に「勉強」するものではない。その場に集まった人たちと感想を言い合ったり、そこから新たなアイデアや関係性が創出するーそのこと自体に価値を見出す人々が集まる場だった。いかにも、オンラインでは難しそうな領域だ。そして、スクフェス大阪はこの難しいハードルを越えていったのだ。

 あのDiscordで生まれた一体感、ワイワイ感は、多くの参加者に「オンラインでもいけるじゃん!」という手ごたえを与えてくれた。

『オンライン「でも」できる』から、『オンライン「だから」できる』へ

 私がもう一つ、オンライン勉強会というものの存在意義を変革させた大きな転換点だと考えているのがハッカーライフラボで開催された「卵と壁」だ。

 川口さんとたかのさん、二人の「多様性」の話は、大げさではなく人生観を揺さぶるような重大なものだった。そして、このイベントはオンラインでなければ実現できなかっただろう。だって、物理的にはあまりにも離れたところにいるのだから。

 その内容自体に感銘を受けつつ、「オンラインは地理的制約を超える」、そしてそれは「国境をも超える」ということを実感したイベントだ。

エクストリーム登壇

 「卵と壁」の一週間後に開催されたXP祭りも、当然のごとくオンラインだった。Discord+Zoomの黄金律で運営されたこのイベントでは、信じがたい光景を目にすることになった。

登壇者が、自転車を漕いでいるのだ。

何をいっているかわからねぇと思うが、俺も何をされたのかわからなかった…

とにかく、オンライン勉強会の無限の可能性を感じた一幕だった。

アジャテクの誕生

 そしていよいよ、アジャテクの誕生である。Episode 0は、とにかく「よく揃えましたね」という豪華なスピーカー陣。New Normal Agileをテーマにしたこのイベントは、スピーカー陣の話もさることながら、終わってからのDiscordでの雑談タイムが最高だった。コロナ禍になってからしばらく失われていた「雅叙園の控室でのトーク」の趣があった。

2021年はオフライン回帰?

 ここ最近は再び感染者数が増加していることから、この先どうなるかはわからない。しかしいまのところ、2021年はオフライン回帰の兆候がある。その嚆矢となるのは、間違いなく1月開催のRSGT2021だろう。

 主題が"ギャザリング"なのだ。直接、現場でギャザリングしたいじゃないか。一方で、オフラインとオンラインがどのようにつながるのかという壮大な実験にも、とても興味がある。(RSGTはオンライン参加という選択肢もある)

IT勉強会は、テクノロジーが救った?

 もし10年前に同じ状況が起こっていたらどうだっただろうか。動画配信を軸とした勉強会は現実的だっただろうか。動画配信だけならともかく、インタラクティブなビデオ通話やチャットはどうだっただろうか。

 2020年の今だからこそ、我々はこのコロナ禍を乗り越えオンラインの海の中でオフラインと遜色ないような勉強会体験を生み出すことができた。テクノロジーの進歩がそれを後押ししたことは疑いようのない事実だ。

 では、テクノロジーさえあれば、この状況は実現されたか?その答えは、明確にノーである。

コロナ禍に突入するタイミングで立ち上がったハッカーライフラボ。
緊急事態宣言の下で、アドベントカレンダーやイベントを活性化させたDevLOVE。
その主軸をオフラインからオンラインへと転換させたカンファレンス群。

それぞれの「自分たちにできることをやろう」「この状況に適応しよう」という気概、コミットメントなしに今の状況はありえない。同時多発的に発生した「学びの灯を絶やしてはならない」という大いなる意思と行動が、一年前には当たり前でなかったオンライン勉強会というものを当たり前にしたのだと私は考える。

New Normalで行こう

 オンラインが当たり前になった今、ふたたび「アジャテク」が開催される。2021/1/23、「Episode 1」だ。

 ありがたいことに、こちらのイベントに登壇させていただくことになった。勉強会自体が進化を続けている中、このアジャテクEpisode 1ではどのような実験がなされるのか、いまから楽しみである。

そんな時代もあったねといつか話せる日がくるわ

 改めて一年を振り返ってみると、よくもまあ普通に勉強会が開催できているものだと感心させられる。テクノロジーの進歩なしにはありえないことだし、その上で人間の強い意思がなければ成しえなかったことだ。

 間違いなく、2020年のこのIT勉強会をめぐる顛末は、様々な開発者コミュニティにとって忘れがたいものになっただろう。そしてそれは、あとから振り返ってみると笑顔で語り合えるような温かい思い出になっているはずだ。

2021年、New Normalな世界がスタンダードになった私たちは新たにどのような課題と向きあい、乗り越え、成長していくのか。2020年の経験は私たちをたくましくした。なんでもこい、どんとこい。いまから来年が楽しみである。



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