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書評:ここはウォーターフォール市、アジャイル町 #ここアジャ

対立する構図へのアンチテーゼ

「問題地図シリーズ」「仕事ごっこ」など著作多数な沢渡あまねさんと、「カイゼンジャーニー」「いちばんやさしいアジャイル開発の教本」の新井剛さんによる共著はウォーターフォールとアジャイルの共存を軸に据えた、ニューノーマルな現場作りの手引のようなものだ。

とかく対立軸で語られがちなウォーターフォールとアジャイルだが、本書は「ウォーターフォールにアジャイルの理念を持ち込むことで仕事の質を高める」というアウフヘーベンな試みがなされている。

ともに「いちばんやさしいアジャイル開発の教本」を執筆した盟友である新井さんの新著とあって、これは手に取らねばなるまいとAmazonでポチろうとしていたまさにその時、新井さんから「献本するよ!」というありがたい連絡。こういうやさしさが新井さんらしい。やさしいね〜。

本を一緒に執筆したくらいだし、気持ち的には身内感がある。なので書評を書くべきかは迷った。読んだ人が「あいつ身内だから良く書いてるんだろ」と思うだろうし。

しかし、実際に手に取り、読み始め、あっという間に読み切った今、やはり書評を書くことにした。アジャイル開発そのものを追求しているのではなく、現場の課題によりそう形で少しづつアジャイルプラクティスを取り入れている様が、いろいろな現場における課題の突破口になりそうだと感じたからだ。それを、微力ながら多くのところに届けることを手伝いたいと思ったのだ。

「運用でカバー」から始まる物語

本書は「運用でカバー」な現場から始まる。顧客の声を、とか個人と対話を、とか以前に忙殺され、諦念のようなものに覆われている現場だ。

実際、そういった現場の悪循環から抜け出すには何をするべきなのか?そして、何ができるのか?

正直、いきなりアジャイルソフトウェア開発宣言を読みましょう、スクラムやりましょうなどというのはハードルが高いだろう。本書では第一歩としてタスクの見える化(Backlogの導入)に取り組んでいる。

「えっ?アジャイルの本なのにまずはタスクを見える化するだけなの?」と驚くかもしれない。しかし、疲弊した現場に対して起こせる、小さいが確かな一歩としては実に効果的な選択肢だ。本書はこういった現場のリアルなトライに満ちている。

アジャイルじゃない?それがどうした

さらに読みすすめると、チャットツールの導入やオフィスレイアウトの変更にまつわる話が出てくる。

結果的に、アジャイルな現場はチャットツールを使っていたり協働しやすいレイアウトになっていることが多いだろう。しかしこれらは、アジャイル開発と直接関係のあるものではない。でも、「それがどうした?」である。現場をよりよいものにするために必要なことは、アジャイルであるか否かに限らず本書では取り上げられていく。それはDXの文脈でもあったりする。

説得戦略ではなく納得戦略

本書で最もグッときたのが、「説得戦略より納得戦略」というフレーズ。

1000の言葉を並べ立てるよりも1回の体験が納得を生み、納得が物事を前に進めるということ。

この言葉がでてくる箇所なんて、もはや社内政治といってもいいような内容だ。そこまで踏み込んでいるのだ。

通奏低音のようなBe Agile

「ウォーターフォール」「アジャイル」をタイトルに冠しておきながら、本書中においてこれら開発プロセスへの言及は意外なほど少ない。

ベテランアジャイル実践者からは「アジャイルじゃない」という声が出るかもしれないし、ウォーターフォールの観点でも厳密なウォーターフォールであるという感触はあまり得られない。

でもそれでいいのだ、方法論ありきではなく、よりよい現場を目指した結果として方法論がついてくるのだから。

通奏低音のように流れるBe Agileの精神を読み取って実践し、越境し、生き生きとした現場が日本に広がっていくと考えると、少しワクワクしてくる。

多くの人が本書を手に取り、よい旅立ちにつながることを願う。

そして願わくば「もっとアジャイル開発を実践したい!」という気持ちが湧いてきて、拙著「いちばんやさしいアジャイル開発の教本」も手にとってもらいたい。(ダイレクトマーケティング)

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