OSINTで立てる半歩先の仮説
プロダクトの前提
プロダクトという存在の前提には、解決したい課題や達成が望ましい未来といった仮説が存在する。仮説を整理するための方法としては、「仮説キャンバス」というフレームワークがある。
解決したい課題、つまりニーズと提案価値が整合しているかを確認するバリュープロポジションキャンバスというものもある。これは仮説の確からしさを明らかにする、優れたフレームワークだ。
ニーズがなければ市場はなく、プロダクトをつくる意義は薄まってしまう。しかしニーズというのは厄介なもので、自分から「ほうらニーズですよ、これを解決してくれたら買ってあげますよ〜」なんてことは言ってこないわけだ。だから我々は仮説を立て、検証し、仮説の精度を上げながらプロダクトを作っていく。
仮説の確からしさ
では、いかに仮説を検証し精度を上げていくか。デジタルを前提においたビジネスにおいては、データドリブンに検証していくことが常套手段になるだろう。コンバージョン、滞在率、CTR…様々な数値が、その仮説の確からしさを明らかにしていく。
いかに未来を捉えるか
データドリブンな仮説検証と意思決定は強力だ。作り手の思い込みではなく、現実的に下された市場評価がつぶさに得られるわけなのだから。
しかし、こういった過去の意思決定の積分からはわからないこともある。未来に発生しうる不連続な変化だ。いま見えている課題と実直に向き合い改善していく継続的イノベーションと、ゲームチェンジを起こすような破壊的イノベーションは地続きではない。いわゆるイノベーションのジレンマだ。
ヘンリー・フォードが 「もし私が顧客に何がほしいか聞いていたら、 彼らはもっと速い馬がほしいと答えただろう。」といった、という有名な逸話がある。速い馬が継続的イノベーションで、フォードが作った車が破壊的イノベーションだ。
しかし、ではどのように未来を予測すればよいのか。フォードやジョブズのような未来自体を作ってしまうような傑物はいざしらず、未来を的確に捉えることができる人間はあまり多くはないだろう。
PESTで世の中を見る
ではどうするのか。ひとつが、PEST分析の活用だ。
PEST分析(ペスト分析)とは政治、経済、社会、技術といった4つの観点からマクロ環境(外部環境)を分析するマーケティングフレームワークのこと。
プロダクトを作って、使ってもらい、そこからフィードバックを受ける。提供者と利用者の関係の外側にはPESTがある。この観点で少し先の予測を立てていくのだ。
では、その予測を立てるためにはどうするか?業界の内部に潜り込み、非公開で最先端な情報をゲットする。うむ、それは効果がありそうだ。けれども、それってある程度の信頼や地位を築いていなければ難しい。これから市場に殴り込むぞ、というフェーズではまず難しいだろう。
ではどうするか?それはもう、公式に入手可能な情報を活用するしかない。
OSINT (Open Source Intelligence)
インテリジェンスの世界に「OSINT」という情報収集方法がある。
OSINTは 「Open Source Intelligence:オープンソースインテリジェンス」の略であり、一般に公開されている情報源からアクセス可能なデータを収集、分析、決定する諜報活動の一種である。米国国防総省(DoD)によって、「特定の情報要件に対処する目的で、一般に入手可能な情報を収集し、利用し、適切な対象者に適時に普及させた情報」と定義されている。
このOSINTの情報源を、PESTの切り口で収集し、組み合わせるのだ。
小さく始めるOSINT
政治と経済と社会、そして技術を組み合わせて未来を読み解くのは一朝一夕にできることではない。脳内にナレッジが蓄積し、ナレッジ間のリレーションが形成され、そこに経験が備わっていくことでようやく、おぼろげながら浮かんでくるものだ。
まずは、ニュースサイト・新聞を見ることから始めてみるとよい。自らが身をおいている業界のニュースサイト・新聞をいくつか読む。そうするとPESTについてある程度のトレンドを掴むことができる。
ニュースを読み解くことができるようになってきたら、今度は一時情報源にあたる。経済であれば、ニュースになっている業界の主要企業のIR情報。政治であれば、省庁の公式資料。私の場合、国土交通省の公開情報を参照することが多い。
たとえば、その業界においてAという課題があるとする。シンプルに考えるとその課題Aを解決することが業界には望まれており、ビジネスとしても成立するだろう。しかしその課題に対して政治での解決が図られているとしたら。法整備に変更が加えられ、前提が変わるとしたら。そうするとAを直接的に解決するソリューションではなく、別のアプローチが必要になるだろう。目の前の課題にだけではなく、PESTにも着目し半歩先を見る必要があるのだ。
時には探偵のように
データを忠実に受け止め行動する。これはとても大切なことだ。しかし、データの発生源である現実の周辺で、実は物事は動いているかもしれない。時には探偵のようにニュースや政策を読み解き、OSINTする。そのようにして半歩先の仮説を立てる。そうすれば、実は継続的イノベーションと破壊的イノベーションっていうのは地続きの存在になるのかもしれない。
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