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机の前にかじりつく時間を競うより怠慢さを競え

はじめに

この記事は緊急事態宣言アドベントカレンダー35日目の記事です。

リモートワークでマネージャーが気にかけるべきは、「サボり」ではなく「働きすぎ」

ゴールデンウィークあたりだろうか、「テレワークでサボっていないか監視するツール」に関する記事が話題になったのは。

また、社員が「着席」ボタンを押して仕事をしている間、PCの画面がランダムに撮影されて上司に送信される仕組みもあるため、自宅で働く社員に一定の緊張感を持ってもらう効果がある

これはなかなか衝撃的な記事だった。こういった考え方のツールがあることも驚きだが、そういったツールが存在するということは「作業中のPCの画像を監視したい」というニーズがある、ということの証左でもあるのだ。

マイクロマネジメントここに極まれり、という印象とともに、いくつかの疑問が浮かぶ。

・帯域のムダ使いでは?
・調べ物と息抜きをどう区別するのか?
・ランダムで仕事してるっぽい画像を表示する輩が出てきますよ

しかし「いつ働いているか」のチェックがまったくのナンセンスかというと、そうともいいきれない。逆の現象、「働きすぎ」が起きてしまうのだ。

一日の仕事を終え、PCを閉じる。夕食を摂り、シャワーを浴び、お気に入りのヘビーメタルを流しながら読書していると今日自分が書いたソースコードが頭に浮かぶ。

「なんてことだ、バグを作り込んでしまった!」

従来なら翌朝出社してから直すところだが、今は自分の部屋が職場だ。そそくさとPCを立ち上げ、コードを書き、プルリクを出す…そんなことが可能なのだ。

金曜の夜、思っていたとおりの進捗が出ていないことに気づく。ヘトヘトになりながらPCを閉じるときに気づいてしまう。

「明日も作業できるじゃん」

通勤というボトルネックのなさから、カジュアルに夜間残業や休日出勤ができてしまう。
確実に疲労や消耗につながるこういった行いは善意ではあるが、善意であるがゆえに自分でブレーキをかけないタイプの人間はどこまでもいってしまう。終電という制約が、地理的な制約が担っていたブレーキという役割がどこにもないのだ。

働きすぎを防ぐ働きかけ:制約編

というわけで、働いている時間を可視化するというのは、働きすぎを防ぐという観点では意味のあるものだ。「出勤」「退勤」の可視化は、カジュアルにできるのであれば意味があるだろう。

しかし、これは私個人の意見だが「出勤します」「退勤します」なんて連絡をルール化するのはナンセンスだ。出退勤の時間をメールなりチャットツールなりで確認するコスト、それがもうムダである。

となると、外れ値を検出する方向に倒すのがよいだろう。
20時を回っているのにメールやチャットが飛び交っていたり
土日にプルリクが飛んだりCIがぶんまわっていたりしたら、誰かが働いてしまっている合図だ。

しかし、である。

エンジニアというのは厄介な生き物である。
「土日にプルリク出してたよね、土日はちゃんと休もう。」
そう告げたとすると、何が起こるだろう?

「土日にプルリクを出さない」、そうするだけなのだ。
チェック機構をいくら設けてもそれをハックして回避する、それがエンジニアという生き物なのだ。(そして私はそういうところが大好きだ)

じゃあどうしたらいいのよ!というと、監視して検出しよう、という観点からの脱却しかない。「自ら進んで、働きすぎをセーブするよう働きかける」しかないだろう。

働きすぎを防ぐ働きかけ:行動規範編

チームでの働き方についての合意、ワーキングアグリーメントに労働時間についての条項を織り込むのは、手軽にできて効果的だ。会社から提示されるトップダウンのルールではなく、自分自身が策定に関わったチームの約束事に労働時間を織り込む。自分で決めたことなので、守ろうという意識が働く。

そしてもうひとつは、「働きすぎないことが美学である」というマインドの醸成だ。
プログラマーの三大美徳は以下のとおり。

怠慢(Laziness)
短期(Impatience)
傲慢(Hubris)

「労力をへらすために手間を惜しまない」という姿勢が、そもそも美徳であるという感覚を養いたい。

それなりにキャリアを積んだエンジニアであればどこかで見聞きしたであろうこの三大美徳だが、会社で教わるようなものではないので若手は知らなかったりする。また、日本において若者に求められる「ひたむきさ」「がむしゃらさ」「一生懸命」というものと三大美徳は一見相反する。であるがゆえ、明示的にインストールしてあげる必要があるだろう。

怠慢さに関しては、牛尾さんのこの記事がわかりやすいのでぜひご一読いただきたい。

このようにして、「そもそもこう働くべきだ」というマインドを醸成していくことが中長期的には効いてくるだろう。

Be Lazyでいこう

飲み物を取りに行く。そこで出会った同僚と少し談笑する。
自席付近の仲間たちと、仕事の話をしながら少し脱線し、気持ちがほぐれる。
そういった自然発生的な気晴らしが奪われたこの環境で、そのうえ休日も働くような勤勉さは自分を追い詰めてしまう。

僕たちエンジニアは怠慢さを美徳としているのだ。一生懸命働くことではなく、最小の労力で最大の成果を生み出す。そのためには最大限の力を注ぎ込む。そんなパラノイアな美徳をもつ僕らは、いまだからこそBe Lazyというマインドを意識し、働きすぎから逃れ、それでいて最大の成果を目指していこう。

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