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堀川・さくら夢譚9

佐平次も怪訝に思い、足を止める。佐平次の鼻先に、どこからか檜の香りが漂ってきた。木材を運ぶ牛車が激しく行き交うこのあたりは材木町と呼ばれ、堀川を使って木曽から良質の檜が運ばれてくるのだ。見廻すと、名桜はじっと橋のたもとあたりを睨みつけているようだ。佐平次はそっと近づいてみる。すると・・・土埃があがる川沿いの通りの隅に蟻の行列が、葉をくわえ、虫の羽根を抱え、黒々とした筋を作っていた。 「負けるな、負けるな、達者でおやり・・・」 かすれた名桜の声を佐平次は黙って聞いていた。  家屋敷から橋から石垣から、まるごとの引っ越しとなった清須越は、町名もそのまま用いられ、住む場所も割り当てられたという。そして、もともと名古屋にあった寺社や町家も移動している。新しい町づくりのために移された越しすべては【名古屋越】と称し、清須越も駿河越も【名古屋越】に含まれると考えられる。そして、名桜がどうしても訪ねたかったもうひとつの場所も名古屋越と関係があった。 「桜の天神さまに参りたいのです。春にはみごとな花を咲かせるという・・・佐平次は見たことがあるかえ?」





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コピーライター/フリーライター/第2回(2019)「ふう太の杜文学賞」佳作受賞/取材・企画・執筆/現在はシナリオと短編小説を中心に執筆。歌詞の執筆も始めています/まだまだ描かれていない「大人のドラマ」を描きたい。/執筆記事もアップしていきます。