胸に響くドラムの音。
重くのしかかるベースの音。
会場の雑踏。
日に焼ける肌。
まだ鮮明なまま記憶に残っているうちに書き残そう。

前からずっと楽しみにしていたフェスに好きだったあの子と行ってきた。
"だった"って言ったってどうせこれも強がりだ。
でも恐らく会うのはこれで最後。
僕もそのつもりで来た。
2人で行く最後の行事。
全力で楽しみに来たんだ。

いつも通り、隣ではしゃぐ君を見ているとどうしても見惚れてしまうし、いっそうこのまま時間が止まればいいのになんて考えてしまう。
でも時間は止まってはくれないし、前にも戻れない。そんな考えたが、過去を思い返しては、やっぱりこの子との未来を見れないなとしみじみと思う。
傷つく事への恐れ。過去の傷跡は、愛おしかったはずの時間に影をかける。

「またみんなでキャンプとかフェス行きたいな」


彼女は楽しそうに話した。
以前の僕であればそれはもう嬉しくて、二つ返事でOKを出していたのであろう。
でも初めて、僕はその一言に対して「また行きたいな」とそれとなく返した。
僕自身が嫌いな曖昧な返事。確立されない約束。
久しぶりにあった女子同士の定型文みたいな返答

自分が嫌いになりそうだ。

前日の夜、あれほど腹を括ったはずなのにはっきりと言えないのだ。

またフェスお決まりのマイクチェックが始まる。

ステージの前にはゾロゾロと人集りが出来始めライブが始まる。
やっぱり音楽は良い。なにも考えずともただ音に身を委ねて自然と入ってくる歌詞に耳を傾ける。
そうすると、さっきまでの悩みや考えが無かったかのように不思議と体が動き始め心地よくなる。

夕日が沈み最後のバンドが演奏を終え、舞台袖へとはけて行く。
帰路につき、帰りの車内で昼間の話の続きをした。
今までの全てを話した。楽しかったこと、辛かったこと、自分の気持ちの全てをぶちまけた。
ようやく絡まっていた糸が解けた気がした。
彼女からの返事は「ごめん。ありがとう。時間を置いてからいつかまた会おうね。」
謝って欲しかった訳では無かった。ただ知って欲しかっただけ。
その後は良かったバンドの事や、立ちっぱなしで疲れたなんてそんな他愛もない会話をして帰った

明日もフェスに行く。2日目。
それが最後の彼女との時間。
全力で楽しんでる。そう心に決めてる。
そして最後にはどのバンドよりもカッコつけて
「ありがとう。楽しかった。さよなら。」
とでも言ってやろう。

これにてひとまず僕の春は幕を閉じる。

少し生ぬるい夜風と日焼けのあとが夏のはじまりを知らせている気がした。

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