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【Episode1】堂山メルトダウン~第4号の場合~

2023年3月11日土曜日、夜はまだ寒さの残る季節の変わり目。インバウンドの恩恵を受け、人で溢れ返る梅田の街に私は居た。阪急東通り商店街からひがし中通り商店街に入り、そこから北に抜けた果てにある『アフィリア・エゴイスト』を目指し私は歩いていた。

アフィリア・エゴイストとは、株式会社クリアストーン社が運営を手掛ける東京に本拠地を置く老舗大手のコンカフェグループ『アフィリア・マジカルダイニンググループ』の大阪店だ。超古代に栄えた魔法王国というコンセプトのもと、キャストは魔法を勉強する見習い魔女っ子(後輩)、客は魔法機関にて修行をした魔法使い(センパイ)、店舗内勤スタッフは先生という設定で営業が行われている。

2007年6月にグループ三店舗目の『アフィリア・キッチンズ』として日本橋にオープンした大阪店は、その後2012年4月に『アフィリア・コラボレーションズ!』へと名称を変える等の試行錯誤の結果も振るわず、戦略的撤退により同年10月に梅田へと場所を移し、『アフィリア・エゴイスト』として今の形となった。現存する在京大手コンカフェグループの中では最も早い大阪出店であった事もあり、いきなり成功という訳にはいかなかったが、勇気のある挑戦だったと私は思うし、当時の時代背景を鑑みても先駆者として評価されるべき出店だったとも思う。

とは言っても、私自身は当時の事は何も知らない。私が知っているのは表面的な史実だけ。エゴイストには何度か足を運んだ記憶があるが、通うまでには至らなかった。その後ある時期を境に通うようになったのだが、その辺りの話は今回の記事とは関係がないので割愛させていただく。

話は商店街を歩く私に巻き戻る。

ミルカ・デ・ポン。アフィリア・エゴイストの後輩(キャスト)である彼女は、2021年12月に入学した比較的新しいキャストであり、御存知『k.w.s.k.ギャルズ』の第4号メンバーでもある。本来なら2022年12月近辺に一周年記念エンカウント(※アフィリアではイベントの事をエンカウントと呼ぶ)が行われるのだが、昨今の情勢や様々な要因からこの3月に開催される事になった。この日の私は彼女のイベントに向かっていたのだ。

私は正直に言うと、アフィリア・エゴイストが得意ではない。その理由のひとつとして、イベント時に起こる「客とキャストの双方が飲酒量過多による酩酊状態になる事により作り出される下品な空間」が個人的には苦手と感じてしまうからだ。バーなんかだとよく見るようなどこにでもある光景だと思う。何も悪くはないが、コンカフェでは見たくない光景として私が個人的に嫌いなだけだ。みんな楽しそうなのに私は受け入れられないでいる。

厳密に言えば、エゴイストが苦手なのではなく、得意なコンカフェなんてどこにもないのだと思う。私はただのどこにも居場所を作れないでいる陰キャオタクでしかない。うらやましいとかそういう気持ちはなく、コンカフェにのめり込んでいく内に理想が高くなりすぎてしまったのかも知れない。キャバクラでもなくガールズバーでもなくコンカフェである事の意味。いつしかそんな事ばかりを考えるようになってしまった。

モヤモヤした気持ちを抱えながら商店街を歩ききった私は、階段で地下に降り店の扉を開けた。本人には事前に行かないと伝えていた事もあり、あわよくば満席だったならそれを理由に帰る事が出来るし、一応当日に来た事にもなるなどという逃げのパターンを期待していたのだが、運が良いのか悪いのか一時間だけならと一時間後に予約されていた席に座る事が出来た。私はバツの悪さを噛み締めながら、これはもう素直にお祝いをするしかないなと考えを改めた。

「え?来ないって言ってたのに!」
「なんで来てくれたん?嬉しい!」
室内犬のように駆け寄って来る彼女。

周年とはいえ、これまで私が彼女と過ごした時間はあまりにも少なく、来店回数で言えば10回程度の面識しかないのにも関わらず、なぜか私にとても懐いてくれており、k.w.s.k.ギャルズ入りも快く受け入れて喜んでくれた稀有なキャストとして、私にとってはとても愛らしい存在だ。かわいい奴め。

安価なスパークリングワインしか頼めなかったが、公衆の面前で「Twitter、一番好き!」と言い放ちボトルを開栓する彼女に「いやもっと居るやろおもろい奴なんか他に…」と照れながらも、素直に嬉しく思う自分が居た。自惚れではなく、推されオタクと思わせてくれるその対応には申し訳無さを感じずにはいられない。私は高額の使用によって彼女に金銭的恩恵を与えた事はこれまで一度もないからだ。ただの雑魚オタクでしかないのに…といつも思っている。

オタク要素の多いキャストとして、どちらかと言うと距離感を保つタイプというよりかは、オタクに寄り添うタイプのキャストとして、フレンドリーな接客スタイルをとる彼女は、それ故に偶像的な魅力の対象としての自信がないように見える。「自分は他の人と違ってそんなキラキラしたコンカフェキャストにはなれない」という、オタクならではの謙虚過ぎる発想が時に彼女を苦しめているように思う。

愛想がよくて、愛嬌があって、ユーモアもあって、些細な事にもよく気付いて、いつまでも感謝を忘れない。充分に素敵なコンカフェキャストである事に本人は決して気付かない。誰かにそう言われたとしてもきっと頑なに認めないだろう。そんな彼女に対して、私はもっと自分を認めてあげて欲しいと思わずにはいられない。

加えて言うならば、私は彼女の容姿も好きだ。たとえこの先もずっと自分に自信を持てなかったとしても、こういった声があった事を忘れないでいて欲しい。私はきっと本当の君の事を何も知らないだろうけれど、私が今見えている君の卑屈な部分もネガティブな部分もコンプレックスも、全部大好きだ。

少し遅れた一周年エンカウント、彼女が笑顔で終わりを迎えられる事を祈りながら店を後にした。

早い時間ということもあってか、満席であるにも関わらず店内は極めて静かで平和そのものだった。それを良しとする者もいれば、盛り上がりに欠けて物足りないと感じる者も居るだろう。言うまでもなく私は前者だ。ただ、正解などどこにもない。私はそれでいいと思う。素敵なエンカウントだったと私は心から思えたから。

これが私と彼女のEpisode。

k.w.s.k.ギャルズ第4号
アフィリア・エゴイスト
ミルカ・デ・ポンさんと私とのお話。

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