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とある後悔まみれの朝の話

カーテンを閉めていても感じる朝日。

冷蔵庫の稼働音だけが規則的に響く部屋は、自分の趣味ではない無機質なインテリアで溢れていて、やや湿気を帯びている。

ベット上で体を横にして、隣に目をやると綺麗な寝顔。

なぜこの男は会って2日やそこらの人間の横ですやすやと眠れるのだろうか。

もしも私がアサシンだったら、この男はとっくに殺されているな。

帰りたい。見慣れたベッドで寝直したい。

そんなことばかりを考えていた。




男とは、流行りの恋活マッチングアプリで知り合った。

やり取りを数回重ねて、近くに住んでいるのと世代が近い以外に特に共通点はなかったものの、会おうかという話になった。

会うと決めたのは顔が好みだったから。

でもそれ以外にも理由があった。

どうせならこの男とセックスをしようと思ったからだった。

マッチングアプリは、体目的でやっていたわけではない。

それなのに、そんな発想に至ったのには理由がある。


相手がマッチングアプリを利用している真の目的がわかり、うんざりしていたからだ。


私はすでに1年以上マッチングアプリを使っていて、真剣に結婚相手を探していた。

20代、周りの友人の結婚ラッシュ、恋人はおらずキャリアも年収も中途半端な自分。

親からは当然のように結婚・子供のプレッシャー。

それを黙らせたかったのか、何もない自分には結婚しかないと焦っていたのか、その両方か。

とにかく余裕がなかった。

毎週毎週、違う男と会って、もう誰が誰だか覚えてすらいない。

「来てみたかったんだ」って初めてみたいなリアクションをして、何度同じ「創作バル」に行ったことか。

自然に好きな人ができて、好きになってもらえて、それが仕事よりも大学の試験よりもとてつもなく難しかった。

だから今度こそ好きになれるかもと思ったこの男が、実はネットワークビジネスのためにアカウント登録していたと知った日にはものすごい憤りを覚えた。

本人から聞いたわけではないが、とある独自調査(よく子はネットの申し子なので調査能力が半端ない)を知ってその真実を知った。

人がどんな思いで、アプリを使っていると思っているのか。

アラサー女が、どれだけ婚活に人生をかけているのわかっているのか。

この男。


でも顔がタイプ。

好きになれそうかもと一瞬でも舞い上がった自分が馬鹿みたい。


だからせめて体だけでも味わって、それで関係を終わりにしてやると思った。


それで冒頭のシーンに戻る。

飲みに行った帰りに、自然に「俺の家で飲み直そうか」という話になった。

あとは、ご想像の通り。

どこまでもテンプレート化した陳腐なストーリーに、もはや笑いも起こらない。


私はビジネス目的で女や恋心を利用しようと目論む男を、利用しかえしたかっただけ。

体だけ利用して、終わったら後腐れなく去っていく。

まるで「私は傷ついていない」と自分に言い聞かせるかのように。

転んだけれど、全然痛くないって泣くのを我慢する子供みたいに。

それで勝ったつもりでいた。


それなのに。

実際にやってみたら、心が晴れるどころか気持ち悪い。

なんでこんなよくわからない人間に体を許したのか。

ただただ時間を浪費した馬鹿な女。




そのまま「これから予定があるから帰って」と悪気もなく言われて、炎天下の日曜9時、住宅街を歩いた。

私、本当に何やってんだろう。


心を許していない むしろ心の中は怒りにまみれた
信頼できていない男とのセックスなんて

何の価値もなかった。


いつか、いつか

心も体もぜんぶが幸福で満たされるような、セックスができる日が来るのかな。

私は誰かをそこまで愛せるのかな。

そんな人間関係が築けるのかな。


そんなことを考えていた。




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